特務機動隊小隊長 木村正隆 (4)

「ふ……ふざけやがって……」

 開いた窓から、道の反対側のビルにロープが張り渡されていた。

 そのロープには……まるで……アスレチックのジップラインだ。

 最後の1人が……滑車で道の反対側のビルに渡り終えた所だった。

 部屋には、いくつか机が有り……その上には、さっきまでモバイルPCやネットワーク機器が繋っていたらしいLAN線や電源タップが何本も有った。

 ただし、それは部屋の半分。

 残りの半分には段ボール箱の山。

 その段ボール箱の側面に書いてある文字は……。

「おい、ここ、通販会社に偽装していたと言ってたな」

『はい』

「商品は何だ? まさか……園芸用品か?」

『そうですが……あれ? 言ってましたっけ?』

 どうやら……ウチの後方支援チームは……俺が思っていたより無能だったようだ。

「肥料は取り扱っていたか……?」

『えっと……大手通販サイトに出店していて……今調べていま……』

「至急確認しろ。が有るか無いか、どっちかをな。至急だ。可能ならでいいんで……俺達が焼け死ぬ前に頼む」

『あ……それらしいのが……色々と……』

「全員、全力で退避。全責任は俺が取る。おい、後方支援チーム、俺が『全責任は俺が取る』って言ったの録音してるよな? よし、緊縛プレイ中の刑事部のマヌケは蹴り飛ばさないように気をつけつつ見捨てろ。お楽しみを邪魔しちゃ悪い」

 流石に頭が真っ白になりかけているが……必死で自分の脳内に残っている思考力を振り絞る。

 クソ……2つの入口は塞がれている。よりにもよって、片方は俺達の車で。

「全員、2階の部屋に突入後、窓から飛び降りろッ‼」

 やられた……でも、俺の小隊の誰か1人でも生き残れば……あいつらに完全敗北した訳じゃない……。

 この時は、そう思っていた。

「いいかッ‼ 俺が死んでも誰か1人でも生き残ったなら……責任は全部、俺に押し付けろ。遺族年金もら……有れば有るに越した事は無いが……ともかく、俺が死んだら、さっきの録音を証拠に、生き残った奴は何としても助けろ」

 とっくの昔に、あの……姉夫婦と呼びたくない外道どもに完全敗北していた事など知らないままに……後方支援チームを無線通話で怒鳴り付けながら……俺と部下達は、ひたすら走り続けていた。

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