特務機動隊小隊長 木村正隆 (3)

 事前の情報では、ここは松本夫婦……口を裂かれようが、指を全部ヘシ折られ、生爪を全部剥がされ、チ○コを切り落されようが、あの2人を「実の姉とその亭主」などと呼びたくない……が新しく始めた「商売」である「関東難民」の違法移住を請け負う為の拠点らしい。

 約一〇年前の富士山の噴火で大量の通称「関東難民」が発生した。

 だが、首都圏と甲信と静岡のほとんどと、北関東に中部地方の一部が火山弾に火山灰に土石流に火山性ガスにそのガスが混じった酸性雨、と云う自然災害のフルコースで壊滅したせいで、多くの戸籍や住民票その他の公的機関が持つ個人データが失なわれた。

 つまり、自称「関東難民」の大半が「本当に日本人か?」を確認する手段は無いと言う訳だ。

 そして、旧首都圏壊滅を乗り越え、再び世界有数の豊かな国となった新しい日本に、貧しい周辺諸国から違法に入って来ようとする奴も絶えない。

 早い話が「関東難民」のほぼ全員が「日本人を騙る不法移民」容疑者だ。

 あの2人は……どこまで堕ちやがった?

 あの2人の片割れと同じ血が流れている、この体が、時々、呪わしくなる。

 金の為なら、日本の未来など知った事か……そんな事を考えているクソ女の弟で……一時とは言え、そのクソ亭主を「義兄にいさん」と呼んでいたなどと……。

 消し去りたい……。

 愛する俺の娘の中に、あの外道と同じDNAが少しでも有るなら……その全てを……。

「変です」

 馬場の声で怒りから我に返る。

「どうした?」

「私の術で調べた所、部屋の中に二〇人近い人の気配を検知」

「どうなってる?」

 周辺の防犯カメラの映像は既に入手・分析している。

 その分析の結果、この雑居ビル内に居る警察官サツカン以外の人間の推定人数は……最大一〇名強、最低六名。

 だが……その時……。

『○×△◇‼』

 肩の無線通信機 兼 簡易端末と……俺達が突入しようしている部屋の中から同時に銃声。

「な……?」

 続いて、着信音。

「どうなってる?」

 車に残っている部下の中村からテキスト・メッセージ。

『上方より車に銃撃を受け、小官と松井と准玉葉は建物内に退避しました。3名とも負傷なし』

 だが、更に続いて無線通話。

『芳村です。裏口をトラックらしき車両に塞がれました』

あずま、ドアの鍵を破壊しろ」

「ですが……」

「やれッ‼」

 東はショットガンにスラッグ弾を込めて、ドアノブをブチ抜き……。

「どけえッ‼」

 危険を承知の上で突入を決意した以上、死ぬなら俺からなのが筋だろう。

 俺は、鍵が壊れたドアに体当りし……。

 クソ……何で、犯罪者どもの方が俺達警察より派手に銃弾を消費出来……。

 ん?

 何かが……変だ。

 何故、銃弾が来ない?

 何故、何も感じない?

 何故、俺は死んでない?

 それ以前に、何故、こんなに静か……おいッ⁉

「おい……どうなってる?」

 部屋の中には、人っ子一人居ない。

「あ……あれです……床に撒き散らされている……呪符」

「おい……馬場、どう云う事だ?」

「あの呪符から……人間そっくりの気配が……」

「何を言って……」

「小隊長……窓を……」

 足立が指差した窓は……開いており……。

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