魔導兇犬録:脱大者
@HasumiChouji
プロローグ
白い犬
『所轄が「帰れ」って言ってますけど……いいんですか?』
後方支援チームのリーダーの上田から無線通信が入る。
「言われた通り、帰ってるだろ」
俺は、そう答えた。
もっとも……運転手には、わざとノロノロ運転をさせて、遠回りになる道を選ばせているが。
たしかに、今回の件は、俺達「特務機動隊」の仕事じゃない。
俺達「特務機動隊」の仮想敵は「まつろわぬ者」のコードネームで呼ばれている異能力者と、その背後に居るテロリスト達だ。
俺が、まだ子供だった二〇〇一年九月一一日、まだ「北米連邦」と「アメリカ連合国」に分裂する前のアメリカで、あの事件が起きた。
普通の人間には無い能力を持つ「異能力者」が、実はいたる所にゾロゾロ居た事が一般人にも知れ渡る契機になった事件だ。
更に、その十数年後、富士山で歴史的大噴火が起こり、日本の旧首都圏は壊滅。この大阪が新しい日本の首都となった。
もちろん「まつろわぬ者」を「異能力者」に含めるかは議論の余地が有るのは判っている。
例えば、戦闘能力は……大半が一般人並だ。
はっきり言えば……一般人と異能力者の間のグレーゾーンの存在だ。社会情勢とか、他に異能力を持っているかなんかで、危険度は大きく変る……そうだ。
だが……富士の噴火と旧首都圏崩壊より一〇年以上、個々の「まつろわぬ者」は、たまたま「異能力と言えない程度のチャチな異能力」を持って生まれただけなので責任を問うのも無理筋だが、このシン日本首都たる大阪都が進めている日本再建計画の障害になりかねない存在だ。
「まつろわぬ者」達の数が少ないなら、居ても重大な問題ではない。ある程度以上の数が居ても、「まつろわぬ者」同士の横のつながりが無ければ……これまた大きな問題ではない。
だが……既に日本再建を阻もうとするテロリストどもが、「まつろわぬ者」達を組織化していて、しかも、そのテロリストどもは、「まつろわぬ者」の能力を人工的・後天的に一般人に植え付ける手段を実用化したらしい。
今や「まつろわぬ者」達は、テロリスト達に利用されている哀れな犠牲者だ。本人達がテロリストどもを自分達の救いの主と信じていたとしても……テロリストどもから引き離し、適切に「保護」しなければならない。
事ここに至って、シン日本首都は……俺達「特務機動隊」を組織した。
機動隊その他の警察内の「荒事専門」の部門の中から
「木村小隊長殿、あまり……感心しませんな……。お気持ちは判りますが……」
俺に、そう言ったのは、俺が指揮する小隊付きの「准玉葉」だった。
本名は機密事項。
階級や所属先も極秘。
齢は俺よりも少し上。
……理知的だが、
顔立ちも……たしかに「公家っぽい」気がしないでもない。
「御言葉ですが、准玉葉……」
俺達が彼を呼ぶ時は……単に「准玉葉」か、部隊名
「今回の違法難民の件には……奴の組織が絡んでいます」
俺は……義理の兄……姉の夫の名を喉から搾り出した。
「松本
旧首都圏崩壊後の社会的混乱も多少はマシになった頃、俺の姉夫婦は「まつろわぬ者」を金で支援する商売を立ち上げていた。
テロリストどもとは違うが……どっちがタチが悪いか、議論の余地は有る。
狂った正義に取り憑かれ、日本再建を阻もうとしている狂人どもと、自分達が金を手にする為なら、この大阪が……そして、日本が、どうなろうと先の事など知った事か、と本気で考えてるヤツらの……。
『小隊長、所轄から応援要請です』
その時、上田から無線通信が入る。
やはり、そうだ。松本の……最早、義理の兄とは呼びたく無いし、奴の嫁も姉などと呼びたくは無い……組織には、ある程度の戦闘能力を持つ「異能力者」も居るし、違法に入手した拳銃その他の武器も持っている。
所轄の刑事部や入管の専門部隊では太刀打ちは不可能だろう。
「すぐ戻ると伝えろ」
運転手には最短ルートで戻るように指示。
車内にもサイレンの音が響く。
「全員戦闘準備」
俺の命令と共に……「准玉葉」の力が、俺の体と心を満たす。
俺だけではない。俺の部下も……胸に真紅のマークが有る白い
「多少は手荒な真似をしても構わん。証拠と
俺は、部下達に、そう指示を出した。
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