131 元神聖教国各派代表30人 シン様からの依頼を引き受ける

 「じゃあ行くか。確か十数キロあったな。歩くと昼食時間を過ぎそうだ」

 ゴットハルトが呟く。


 「大丈夫じゃ。わしらもシン様の水とやらのおかげで走れそうじゃ」

 「僕も走れるよ」

 「あたしも」

 「あなた、私も走れそうです」


 「そうか、じゃゆっくり走ってみよう」

 走り始めた。

 いかん。いつもの掛け声が出てしまう。


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 あれれ、皆遅れずについてくる。


 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 夕食までには迎賓館に戻った。

 ツアコンさんが待っていて、多目的ホールに案内される。

 「皆さん、シン様のお願いは、夕食の前がいいですか、後がいいですか。前ですかそうですか」

 何も言っていないのに、夕食前になってしまった。


 「では皆さん、間も無くシン様がおいでになります」


 さて僕です。奥の扉の前でアカに、こういう演出がいいのと聞いたら、神様の降臨ですから、当然ですと言われてしまった。しょうがないね。

 奥の扉を二百人衆が開ける。

 皆、跪いた。

 

 「どうぞ、お座りになってください」

 続いてアカが言う。

 「今日は皆さんにお願いがあって集まってもらいました。お話がありますのでご着席ください」

 皆、そろそろと立ち上がって、着席する。


 「初めての方も多いので紹介しますね。私の右隣から、アカ、ブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃんです。左隣からマリアさん、ステファニーさん、オリメさん、アヤメさんです。エスポーサはツアコンさんと一部の方に呼ばれています」


 「お願いの前に、30人の方にはお渡してありますのですでにご覧になっていると思いますが、線指輪というものがあります。私の国の国民もしくは関係者にお渡ししています。もしよければ差し上げたいと思いますが、いかがでしょうか」


 ゴットハルトさんの隣にいた女性が発言した。

 「私たちは、シン神様が30人を鍛えてくれたおかげで特務を振り切り、道中、線指輪の収納から出される、食事、美味しい水に助けられ、乳児も熱も出さず、無事にここに着きました。ここに着いて、年寄りは、若返り、子供も皆足腰が強くなっていたことに驚いています。シン神様の恩寵と思います。私たちは全身全霊をもってシン神様にお仕えいたします。シン神様に仕える証としてぜひ線指輪を頂戴したくお願いいたします」

 全員力強く頷いている。

 また熱烈信者が増えてしまった。


 アカが線指輪が乗ったお盆を取り出した。

 「ではこちらにきてください。シン様より線指輪を差し上げます」

 先ほどの女性がまず僕の前に出て跪いた。

 お盆から、線指輪を取り、女性の指にはめてやる。女性の体が光った。おおという声がする。

 次々と線指輪をしてやり、線指輪をした人の体が光る。子供も光った。

 女性が乳児を抱いて跪いた。女性に線指輪をしてやると、乳児が紅葉のような手を伸ばしてくる。欲しいのかな。小さな指に線指輪をしてやる。乳児も光った。へえ、そうなの。

 全員に線指輪をしてやり、結果全員が光った。みな感動している。涙ぐんでいるよ。困ったね。


 「では、お願いの件ですが、私はこの国に来て、エチゼンヤさんに世話になり、何不自由なく暮らしていましたが、あるとき街で孤児を見かけました。この国でも孤児院があったそうですが、不適切な経営のため、国からの補助はなくなり、今は孤児院はないそうです。親を亡くし、親類縁者もないか、頼れないかすると孤児になってしまう。そういう子達が貧民街で暮らしています。私はその子達を救いたい。また貧民街で希望を失った人たちも将来的には救いたいと思う。まずは孤児院から始めたいと思います。私一人ではできませんので、ぜひ皆さんのお力を貸していただきたい」


 ゴットハルトさんが発言した。

 「私どもは、聖職者と言われながら、やっていたことは、権力争いに過ぎなかった。私はシン神様にお会いして、人を救い正しい神の道を示すという聖職者としての使命を忘れ、いつの間にか権力を求めるものにすり替わってしまっていたことに気がつきました。きょうちゃん聖者殿に、何をしたいのか聞かれましたが答えられませんでした。今、シン様のお示しくださった孤児院のお話を聞き、我々がなすべきことはこれだったのだと思った次第です。是非我々の使命として孤児院をやらせていただきたい」


 僕、ちょっと引いてしまうが、頑張ろう。

 「ではお願いします」

 「一同身命を賭してやらせていただきます」

 あれ、また跪いてしまった。逃げよう。

 「皆さんの担当は一部でツアコンさんで親しまれているエスポーサです。後はエスポーサが説明します」

 よし、エスポーサとブランコを置いて逃げよう。ドラちゃんもドラニちゃんも面白そうだから居るって。じゃ頼むよ。奥の扉から逃げた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る