125 神聖教国各派代表30人 神国でウォーキングをする

 「では残ったみなさんは私とウォーキングですね。3列に整列してください。並びましたか。縦、横乱してはいけませんよ。走った時は、いち、にい、さん、しい、そーれ、でしたか。ウォーキングですから、いち、に、いち、に、でしょうか。では」


 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 「なんだこれは。走る時とはまた違った難行苦行だ」

 「選択を間違ったか」

 「トルネードが笑ってた気がしたが、これだったか」


 「そこのみなさん、私語はいけませんよ。胸を張って、手を振って、足をきちんと上げて、リズム良く、全員同じ動作で手足を動かす」


 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 「列を乱してはいけませんよ。縦横直線に、全員同じ動作で、はい、いち、に、いち、に」


 ツアコンさんの指輪の煌めきが震えている。四角い板を取り出した。なにか板に向けて話している。板が消えた。


 「アカ様に呼ばれましたので、あとはブランコと、ドラちゃんとドラニちゃんにお願いします。では失礼します」


 ウオンとブランコが先頭にたった。スピードアップした。後ろからキュ、キュと声がする。

 結局こうなった。世の中甘くない。


 全員同じ動作でスピードアップだ。これはきつい。


 ウオン、ウオン

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 トホホ。こちらに比べたら、湖は楽しそうだ。トルネードが水の上を走っている。ハビエル殿は引きずられているが、水の上を引きずられている。どうなっているのかわからないが、一頭と一人、共に水に浸かっていない。あれでは間も無くハビエル殿も水の上を走れるようになるのかもしれない。


 ウオン、ウオン

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 川だ。ブランコ殿が水の上を歩いて行く。後ろからキュ、キュと督促される。

 水の上を歩けるかもしれない。

 ズブズブ。沈んだ。またもがく。


 ウオン、ウオン

 キュ、キュ


 川を渡った。なんだこれは。障害物も避けずひたすらまっすぐ歩くらしい。歩調を合わせて。


 ウオン、ウオン

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 先の方に岩がある。良い景観だ。まさか。

ウオン、ウオン

 避けない。キュ、キュと督促される。

 岩に取りついて、いち、に、いち、に。

 登った。

 キュ、キュ

 「いち、に、いち、に」

 降りた。


 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 今度は小さな池だ。

 ズブズブ。もがく。

 渡った。

 

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 川がある。流れが早い。

 ウオン、ウオン

 少し流される。

 キュ、キュ

 レーザーが体を掠める。流されてはダメらしい。

 斜め上流目指してやっとまっすぐ進む。


 ツアコンさんは、大詐欺師だ。ペテン師だ。


 ウオン、ウオン

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 キュ、キュ


 何時間行軍したか。軍隊の行軍よりきついぞ。行進し、川を渡り、岩を登り降り、急流を渡り、池を渡り、もはや空を飛ぶくらいしか残っていないのではないか。


 前を行くブランコ様がピョンと飛んだ。小さな谷がある。飛び越すらしい。向こうまで10メートルはある。崖を降りようとしたら、足元にレーザーが打ち込まれる。飛べと言うことだ。

 飛んだ、が落ちた。谷川にザブン。崖をよじ登る。


 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」

 「いち、に、いち、に」


 ブランコ様がチラッと太陽を見上げた。

 ウオンと吠えて駆け出した。なにやら焦っている。

 今度は駆け足らしい。


 ウオン、ウオン、ウオーン

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」

 「いち、にい、さん、しい、そーれ」


 かなりのハイペースだ。夢中で付いて行く。

 足元を見ると水の上を駆けている。驚いた拍子にズブズブ。

 なんとか、元の場所まで帰り着いた。


 ツアコンさんとハビエル殿とトルネードが待っていた。

 「遅いじゃない。もう夕食の時間よ。食べてしまおうと思ったわ」


 憎らしいことに、トルネードがヒヒンと笑っている。


 「ずぶ濡れじゃない。どうしたの?せっかくシン様と夕食だと言うのに」


 ツアコンさんは、大詐欺師でペテン師で悪党だ。


 「あなた、スパで汗を流して、シン様のスパ棟まで連れて来てね」

 「ウオン」


 項垂れて、尻尾が垂れている。わかりやすい。この夫婦はそういう上下関係か。ドラちゃんとドラニちゃんは、ツアコンさんと一緒に消えた。

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