111 王妃と先の王妃が王宮に戻り、国王と先の国王は失言により説教される

 「宰相、宮殿受付から王妃様と先の王妃様を名乗る不審な人物を確保したと連絡がありました」

 「追い出せ」


 「それが衛兵が腕を掴もうとすると、バシッと弾かれて気を失ってしまって、確保というより静かにしていただいているような塩梅で、本人も美しく、着ている服も見たこともない形、美しさで、衛兵は拝跪する有様です。お茶をお出しましたが、お食事はどうしましょうかと問い合わせが来る始末で、いかがいたしましょうか?」

 やばいと焦る宰相。

 「王妃と先の王妃付きの侍女をすぐ宮殿受付に向かわせろ。多分、いや確実に本物だぞ」


 秘書官が大慌てで連絡に走って行く。俺は受付だ。足がもつれる。運動不足だ。年ではないと信じたい。埒も無い事を考えながら走っていると受付が見えた。

 ドアを開ける。

 「あら、トラヴィス、息が上がっているわね。お年かしら。おほほ」

 空いた口が塞がらない。若返っている。30歳代の姉妹が並んでいるように見える。


 「このお茶は美味しかったわ。ありがとうね」

 「王妃様」、「王妃様」

 侍女が二人飛び込んできた。侍女歴が長いので先の王妃も侍女にとっては王妃様だ。

 「あら、まあ。昔にお戻りになって。嬉しゅうございます。けれど後何年お仕えできるかわかりません。残念です」

 「こっちへおいで」

 扇子を広げた先の王妃。侍女になにやら話している。侍女が嬉しそうだ。まだお仕えできると言っている。


 現王妃は痩せたと喜んで、侍女に叱られている。

 「あれほどお諌めしたのに、甘い物を食べるから太るのです。もう甘いものはダメです。今度食べると元の木阿弥です」

 「でも」

 「でもはありません。ダメです。この二つとない美しい服が着られなくなります」


 受付の衛兵の無作法は、若返るなどとあり得ないから疑うのも無理はないし、本人が痺れて気を失ったので不問でいいだろう。しかし、こういう方々を信者にして大丈夫なのかシン様教はと思いながら宰相殿は仕事をする。

 「宮殿の客間に戻りましょう。陛下がお待ちです」

 

 宮殿の客間

 寛いでいる先の国王と現国王。

 「うるさくて強いのがいないと平和だな」

 「全くです。ホッとします。出来ればもう少し優しくしてくれると」


 ドアが開いた。ノックもなく。

 「何か言ったかしら。お爺さん」

 「お前、お前、その顔と体型、どうしたんだ。昔よりいいぞ。それにその服。シンプルだが美しい。素材の良さか」

 「まあ、あなた、素材の良さなんてお世辞を言って」

 ワシは布の事を言ったんじゃがこういう時は誤解させたままが良いというのは身をもって学習済みの先の国王。


 「お前ウエストが」

 「そうでしょう」

 「昔より細い」

 「あなた」

 バカ倅め、間違えよった。ワシのは素材の良さで誤魔化せた。倅殿はまだ学習が足りない。どれ助けてやろうか。


 「ワシの婆さんが嫁に来た時よりスタイルが良い」

 「あなた」

 はて、声が違うが、わ、婆さんだ。ワシも学習がまだ足りなかった。

 うなだれる国王と先の国王。

 心中は「「失敗した」」


 閃いた。

 「お前、指輪は頂いたか」

 「そう、指輪よ」

 よし、気分が上向いた。もう一息。

 王妃と先の王妃の指が光り輝く。よく見ると線のように細い指輪から光が放出されている。

 「綺麗だの。この世のものとは思えない」

 「「神様の光よ、御神光よ」」


 バカ倅、お前のひと押しでご機嫌になる。なんとか言えと肘で突く。

 「本当だ。本人より綺麗だ」

 「ーーーーー」

 バカ倅、当分口をきいてもらえないぞ。どれ助けてやろう。

 「美しい光りだ。指輪を良く見せてくれないか」

 手を伸ばして指輪を抜き取ろうとする。


 「下がれ。下郎。これは神様が手ずからはめて下さった、妾と神様の絆の証、誰にも触らせぬ」

 とほほ、下郎になってしまった。バカ倅よりまずい事態だ。バカ倅め、嗤っているな。一人だけいい子になりおって。失言させてやろう。肘で突っついた。

 「要りませんよ。そんなもの」

 「そんなものーーー」

 王妃と婆さんがワナワナ震えている。どうだバカ倅。ワシの勝ちじゃ。


 「あなた達、そこへ座りなさい」

 うへ、勝ち負けはなかった。バカ倅と同じ負け組だ。

 体力が格段に向上した王妃と先の王妃。延々とお説教が続くのであった。

 途中トラヴィス宰相が見に来たが、一目様子を見るなりすぐ踵を返した。

 「トラヴィスめ、覚えていろよ」

 仲良く呪詛する国王と先の国王。

 止む気配のないお説教。宮殿の夜は更けていく。

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