067 馬泥棒と護摩の灰が出た

 女性の出発準備も終わった。王都に向け出発だ。


 馬車は豪華で華奢な外見だ。襲って下さいと宣言しているね。ただ馬はバトルホースでごっついし4頭立てだ。襲ってくるかな。エリザベスさんの話では、今回は間道を行くらしい。襲って下さい作戦と言っているが、東西街道の宿場に泊まるのが嫌なだけではないか。


 馬車は、1台目は、エリザベスさん、アンナさん、オリメさん、アヤメさん、御者は侍女さん。2台目は、僕、アカ、マリアさん、ステファニーさん、御者は侍女さん。

 先導はブランコ、殿はエスポーサだ。ドラちゃんとドラニちゃんは、ふわふわとブランコやエスポーサの背中に乗ったり、馬車の上で周りを見渡したり、前の馬車の中に入りこんだり、こっちに来たりと自由だ。これドラちゃん、ドラニちゃん、前の馬車で何を貰った?口のはたに何か付いているよ。二人で慌てて後ろ向きになって顔を洗い出す。エリザベスさんから賄賂を貰ったね。可愛いね。


 二時間走って、休憩。もちろん洗面棟は出します。休憩が終わって御者をアンナさんとマリアさんに交代して出発。まだ何も出ないけど次第に道が荒れて来た。馬車2台が揺れないように念じる。全然揺れない。馬も走り易いので機嫌良く走っている。昼頃人通りもほぼなくなったので昼食。馬は侍女さんが世話をしている。エチゼンヤさんの人達は誰でもなんでもできるね。


 まだ誰も襲ってこないな。今日の夜あたりはどうだろうか。オリメさんとアヤメさんを除き期待に満ちているね。御者をエリザベスさんとアカに交代して出発。休憩を挟んで二人で野宿地まで通して御者をした。エリザベスさんの手綱捌きとタフさはすごいな。


 スパと厩舎を出しお風呂に入って夕食にした。さて襲って来ますかね。


 夜半、厩舎が騒がしい。ステファニーさんの出番だ。ステファニーさんとマリアさんが見に行った。僕も覗いて見る、野次馬だ。

 泣いているよ。馬泥棒が二人。厩舎で馬の片足で背中を押さえ込まれ手足を動かすも前進も後退も出来ず、ミシミシ、ボキッと連続して音がしている。

 「捨てちゃいな」

 そう言うとわかったとばかり、我がバトルホースは盗賊を咥え外に出てぶん投げた。見えなくなったのでお終い。役立たずの盗賊であった。明日に期待しよう。


 今日こそはと期待して侍女さん達が御者となって出発。前から3人歩ってくる。チラッと御者の侍女さんと馬車を見てすれ違いざま一人が馬車にぶっつかった。


 「痛い、痛い、馬車に轢かれた」

 「どうしてくれるんだ。轢かれたんだぞ」

 「弁償しろ」


 ステファニーさんが出て行った。

 「何処を轢かれましたか」

 優しく尋ねる。

 「ここだ。足だ」

 「何ともなってませんね。轢かれたっていうのはね」

 足を引っ張る。油断していた男が倒れたところを車輪の下へ足を差し込んだ。すかさず馬車が前進した。ボキボキ、グシャグシャ。前輪と後輪が足を轢いた。

 「こういう事を言うんです」

 おお、えげつないね。ステファニーさん。


 「何て事をしゃあがんだ」

 「轢かれると言う事をご存知ない様でしたから教えて差し上げましたのよ」

 「このぉ」

 剣を抜いた。ダメか。期待したのに腰が引けている。

 「あら、剣も教わりたいの?承知しました」

 ステファニーさんが剣を抜く。流石死地を潜り抜けて来ただけある。剣気が吹き上がるね。二人が後ずさる。ステファニーさんの剣が煌めく。二人の右腕に血の玉が一周ポツポツと出てきた。あっという間に一周血の輪が出来る。ボタ、ボタと2人から右腕が落ちる。中々の腕だ。剣も切れ味が良い。


 両足の粉砕骨折と右腕を失った護摩の灰三人がのたうち回っている。

 「そうそう、授業料を頂かなくてはね」

 あっという間に身ぐるみ剥ぐ。積み上げた授業料にドラちゃんがフッと息を吹きかけ消してしまった。

 「ではごきげんよう」


 ううむ。これは鞭が似合いそうだ。作ってしまった。シン製金属多節鞭3号。アカが呆れている。私は要りませんよ。武器は何?世界樹さんから貰ったって。木の棒。相棒とどう違うの?相棒は先の世界樹の枝、私のは今の世界樹の枝。両方とも今の世界樹にリンクしているので出自が違うだけで機能は全く同じ。そうですか。


 さて野宿。ステファニーさんに進呈しました。シン製金属多節鞭3号。

 「これお使いください」

 「鞭ですか。お母様が持っていて振ってみたかったです。ありがとうございます」

 目がキラキラしている。僕の感が当たった。ね、アカ。


 「あら、お仲間ね。使い方教えるわ」

 少し離れたところに行ってエリザベスさんが鞭を取り出し振り出した。型を教えるらしい。皮の鞭の型、剣の型、棍棒の型、槍の型。エリザベスさんは鞭道を極めているね。


 ステファニーさんが教わりながら振り出した。最初はぎこちなかったけど、だんだん振れてきた。

 「型はいいわね。あとは練習して体になじませて、獲物(者)を探して実践よ」

 エリザベスさん、2人目の弟子に満足している。


 ステファニーさんが目覚めてしまった。怖いよ。え、僕が目覚めさせたんだろうって。そんな事言わないでよ、アカ。エスポーサもそう思うの。ブランコとドラちゃんとドラニちゃんは、三人で遊んでいる。良い子達だねえ。


 さっさと寝てしまおう。右にアカ、左にマリアさんとステファニーさん、足元にブランコ、頭の上の方にエスポーサ。お腹の上にドラちゃんとドラニちゃん。ゆっくり寝よう。


 「まて、まて、待てーー。何故ステファニーさんがいる」

 「鞭をいただいたし、お礼に夜伽をしようと」

 「誤解されるーー」

 「師匠には話して来ました。頑張って来いと」

 「アカ助けて」

 「そうねえ。自業自得かしら」

 「マリアさん」

 「姉さん一人で苦労したから一緒にいたいのかと」

 「ブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃん。寝たふりするんじゃない。耳や瞼がピクピクしてるぞ」

 「まあ良いじゃない。何をするわけでなし」

 「アカ、どさくさに紛れて押しつけて来るんじゃない。誤解される」

 「私は良いわよ。ほら大きくなる?」

 「ああああーー、寝る」

 

 朝、エリザベスさんがひとこと。

 「昨夜はお楽しみでしたね」

 楽しんだのはエリザベスさんでしょうが。鞭の師匠には言えません。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る