065 巨大ドラゴン出現に振り回される人々
連絡装置の話が一通り終わったので、気になっていたことをイサベルさんに聞いてみた。
「イサベルさん、この前来た時、市場で塩が高かったのですが」
「よくご存知ね。この国は海に面していないから輸入なのね。輸入している国とちょっとした行き違いがあって、塩が入りにくくなっているのよ」
「塩を各種持っていますからおわけしますね」
「助かるわね。お願いできるかしら」
「どんな塩がいいですか」
ローレンツさんがすぐ料理長を連れて来た。
皿を出して見本を置いてゆく。クリスタル、ピンク、サラサラなど。
料理長さん、一眼見てびっくり、舐めて見てびっくりだ。
「これらはどれも未だかつて存在したことはありません。神塩と名付けるべきものと存じます。神塩は受け取れません」
しばらくやり取りして、やっと各種10キロずつ受け取ってもらった。
ブランコが僕のも僕のもというからピンクの岩塩はブランコに出してもらった。満足そう。
ローレンツさんが
「申し上げづらいのですが、今王都は、巨大ドラゴン二頭が城壁を巡って飛んだ話題で持ちきりです」
出来る執事長は、パニックになっているなどとは言わない。事実を述べているが表現が上品だ。その裏を汲み取らなければならないのである。
「なるほど、じゃ二人に行ってもらおうかね。宰相のところに」
手紙を書いてドラニちゃんに収納してもらい、宰相に持って行ってと頼んだ。
二人で飛んでった。
王宮では宰相の執務室で、宰相と本部長が顔を突き合わせていた。
冒険者組合本部長は、冒険者組合に、巨大ドラゴンが攻めてきた、巨大ドラゴンが偵察していた、なんとかしろ、追い返せ、討伐しろと、お願い、恫喝、脅迫、などありがたいご意見が次々入り、責任者を出せの大合唱になり、身の危険さえ感じ、秘書が目を少し離した隙に窓から逃げ出して、宰相の執務室に転がり込んだのである。
「あれはあれだと思うか」
「あれはあれだと思う」
「どうする」
「どうしょうもない」
「魔物はお前の担当だろう」
「そもそもあれは魔物ではない。そのことをわかっていないから、俺のところに上下貴賤、全てから苦情が持ち込まれる」
「こっちにも貴族連中から苦情がきている。天変地異は政治が悪いからだと反国王派が勢いづいている。迷惑なドラゴンだ」
「あれは神の一族だ。そっちの担当だろう。外交的に解決すべき問題だ」
「地面を這うアリが人間に踏み潰さないでくれなどと言えるか?外交の範疇でもない。出来ることは、そうだな。窓を開けておくか」
タイミングよくドラちゃんとドラニちゃんが開け放された窓から飛び込んできた。
宰相は、今日は失敗しないぞと手を叩いて秘書を呼び、お二人にお茶菓子をお出しするようにと申し渡した。大丈夫だろう。
ドラニちゃんが脚を出す。ため息をつきながら手を出す宰相であった。
ポトンと手紙。読んでみる。
「なになに、『親愛なる宰相様。こんにちは、お元気ですか』だと。能天気な。誰のせいだと思っているんだか。次は、『今話題になっている大きなドラゴンは目の前にいるドラちゃんとドラニちゃんです。可愛いでしょう。お使いに出しました。可愛がってください』ふざけんな」
ドラちゃんとドラニちゃんに睨まれた。
本部長は俺は知らんとそっぽを向いて、秘書からお茶菓子を受け取った。どうぞとテーブルに出す。二人は満足のようだ。器用に前足でお茶碗を持ち上げお茶を飲んでクッキーを食べる。
宰相は手紙の続きを読む。
『それでは、お元気で シンより』
宰相のこめかみがピクピクしている。
ドラちゃんとドラニちゃんはお茶菓子を食べ終わり、今日は、窓から外に飛んで行った。
「城壁の」「周りを」「飛んだ」「ドラゴンは」「私たちだよ」「挨拶だよーー」。「宰相の」「お客だよー」。「宰相は」「遠来の」「お客に」「出涸らしの」「お茶と」「安物の」「クッキーを」「出したー」「「少しケチーー」」
大音量で女の子の声が王都中に響き渡った。
ドラゴンの可愛い声と宰相の客ということに安心し、またまたの宰相の行状の報告に笑い声が王都中、王宮からも響いてきたのはいうまでもない。
本部長は自分が登場しなかったことにホッとした。宰相の用意した茶菓子を二人に運んだのが良かったな。茶菓子の内容は宰相の責任だから、そこはちゃんと分かってくれたのだなと胸を撫で下ろすのであった。
「くそ、どんな生活をしているんだ。味も分かってやがる」
「だから神なんだ。次回は特上のものを用意するんだな」
余裕綽々の本部長である。
「次があってたまるか」
「陛下への報告はお前が行け。宰相の仕事だ」
「お前もいたろう。お前も来るんだ」
二人して国王の執務室に顔を出した。
執務室では国王がニヤニヤしながら入ってきた宰相と本部長に言った。
「宰相殿には出涸らしのお茶と安物の菓子でもてなそうか。巷では宰相と本部長の人気が鰻登りだそうだ。よかったな」
宰相はため息をつき、俺は今回は知らんと嘯いていた本部長もため息をつくのであった。
ドラちゃんとドラニちゃんが戻ってきたからコシに帰ろうかな。ドラゴン騒動も二人の活躍で落ち着いたみたいだし。
イサベルさんに挨拶して、エチゼン屋敷を出て、城門を出る。お土産屋さんに挨拶して少し行ったところで、アカが帰りは乗って行ってというので、大きくなったアカにみんなで乗った。
「行くよ」
周りの景色が消え前方にコシの東門が見える。二、三歩歩いたらそこはコシだった。転移かい。え、僕もできるの。知らなかった。さすがアカ様とブランコ、エスポーサ、ドラちゃん、ドラニちゃんは思った。
東門に着くと、兵隊さんが行ったり来たりしている。巨大ドラゴンとか言っているよ。冒険者組合に寄って行こう。
さて冒険者組合。
僕の担当の受付嬢。睨んでいるね。後ろの人を睨んでいるのかな。後ろには誰もいなかった。
「こんにちは」
右にドラちゃん、左にドラニちゃんが肩の上あたりに浮かんでいる。可愛いね。
「可愛いでしょう。ドラちゃんとドラニちゃん。お姉さんに挨拶しなさい」
「「キュ、キュ」」
受付嬢の頬が少し緩んだが慌てて引き締めた。
「騙されませんから。何の用です?」
「東門で巨大ドラゴンの噂を聞きましてね」
「それで」
「知っているんです。その二人」
「ドラゴンは一頭二頭です。人ではありません。待って」
ガシッと手首を掴まれた。既視感があるな。次はお隣の受付嬢が。やっぱり二階へ階段を駆け上って行った。鍛えてあるね。
で、2階の会議室に連れ込まれた訳だ。
ドラちゃんとドラニちゃんがキュ、キュと何か言っている。何々お茶菓子が欲しいと。
「またお前か」
支部長さんが怒鳴り込んできた。
「こんにちは」
「巨大ドラゴンはお前か」
「巨大かどうか知りませんけど、ドラちゃんとドラニちゃんです」
「「キュ、キュ」」
「お茶菓子かい?このおじさん、トラヴィスさんと違ってお茶菓子は出してくれそうもないよ」
「「キュッ、キュッ」」
「ダメだよ。王都でやったみたいに上空で、大音量で支部長のケチーとか叫んだら。王都では下々から国王までみんな大笑いして楽しんだけど」
「出せばいいんだろ。おいお茶菓子」
受付嬢がお茶菓子を持って来た。
「上等な菓子だな。待てよこれは俺が隠しておいた菓子だ」
「接待費ケチっているから、菓子なんて用意してありません。ケチっているから」
受付嬢、2回言った。
ドラちゃんとドラニちゃんは早速もぐもぐしている。仕上げにお茶を飲んだ。満足したみたい。
「それじゃご馳走様」
「帰るんじゃない。食い逃げだ」
「何の用でしたっけ」
「巨大ドラゴンだ。騒ぎになってるじゃないか。何とかしろ」
「ドラちゃん、ドラニちゃん、何とかしろってよ」
わかったーと窓から外に飛んでった。
「街の」「外を」「飛んだ」「ドラゴンは」「私たちだよー」。「冒険者の」「支部長の」「お客だよー」。「支部長は」「おいしい」「お菓子を」「隠して」「いるよー」「今度」「行ったら」「出して」「もらいなー」
街中どっと沸いた。
「これで宰相と本部長は人気者になったんです。良かったですね。人気者ですよ。人気者」
「出てけ」
「はい、また今度」
「2度と来るな」
ドラちゃんとドラニちゃんは、アカとエスポーサの背中の上で寝転んでいる。
帰るよー。エチゼンヤに戻った。皆んな楽しそうで何よりだ。
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