049 ローコーさんの世直し ほか

 夕方街に着いた。門番に盗賊に出会って苦労して討伐したとエチゼンヤさんが言っている。門番さんは野太刀を見てどっちが盗賊かと思っているのが顔に出ている。


 宿に入ると早速役人がやって来た。

 「盗賊改である。荷物を全部差し出せ」

 宿の周りも囲んでいる。厩に行った役人はバトルホースに蹴飛ばされている。加減はしたようだが死ななければいいが。


 「お役人様、ご苦労様です。私はエチゼンヤの隠居で、王都の宰相から招待されております。招待状をご覧になりますか?」

 役人は、エチゼンヤ 宰相と何回も呟いて、茫然自失している。


 「お役人様、どうなさいました。顔色がお悪いようですね。早く帰ってお休みになった方がよろしいんじゃないですか。それとも荷物改をしますか」

 「平にご容赦を」


 逃げて行った。何しに来たんだろう。うまくすれば裕福そうな旅人を盗賊に仕立て全財産を懐にいれようと思ったのかな。馬に蹴飛ばされた役人は仲間に引きずられて行った。


 「シン様、あの手の小役人が多いのですよ。恥ずかしながら。あの役人一味は我々が帰ってくる頃には影も形もなくなっているでしょう」

 なるほど、お役目ご苦労さんです、だね。


 宿の主人がすっ飛んできた。

 「御ローコー様とはつゆ知らず、大変失礼いたしました」

 「良い。ご主人は今の役人と仲良しなのか」

 「とんでもありません。時たま見回りにくるだけです」

 「そうか」

 宿の主人は声が裏返っていて、真っ青になって震えているよ。もう自分の行く末がわかった顔だね。


 「悪事の片棒を担いだ男が小賢しい知恵を働かせて逃げたが、草の根分けて探されて一族郎党殲滅された話もあるそうだ。その男も素直に取り調べに協力すれば一族は少なくとも命は失わなかったものを。ご主人、そう思わないかね」

 「ははぁ」

 平伏して後退りしている。器用だね。廊下まで後退りして四つん這いになって這って行った。


 「茶番劇をお見せしてしまいました」

 「なかなか面白い出し物でした。堪能しました」


 「あなた何を遊んでいるのよ。ちょっとシン様を借ります」

 エリザベスさんの部屋に拉致された。


 「お願いがあります。あの洗面棟をここに出していただけますか。幸い天井が高く、ギリギリ収まると思いますが」

 なるほどこの世界のトイレに我慢できなくなってしまったのね。天井は少し足りないね。ぶつかる部分は異空間に納めよう。ほらできた。

 「じゃ、使ってください。明朝出発前に回収に来ます」

 「ありがとうございます」


 翌朝、洗面棟を回収して出発。野太刀の皆さんがいらっしゃらないようだ。あとで追いついて来るようだ。何しているんだろう。掃除だろうな。


 野太刀さんが抜けただけで昨日と同じ陣容で進む。一度休憩を挟んで昼食。こちらをチラチラ見ながら馬車が通り過ぎる。感じ悪いな。


 昼食と休憩が終わったらエチゼンヤさんは馬車を4頭立てから2頭立てに変更。外れた4頭にはエチゼンヤさん、エリザベスさん、アンナさん、侍女さんが騎乗。

 エチゼンヤさんは刀の大小。エリザベスさんはロングソードに金属製多節鞭、アンナさんは薙刀と刀、侍女さんは弓と刀だ。

 馬車に乗っているのは、セドリックさん、侍女さん、オリメさん、アヤメさんのみだ。エチゼンヤの皆さんは街の外に出ると武装集団に変身し、馬に騎乗して武器を振り回したいらしい。

 丁度獲物、いや怪しい馬車が通り過ぎたので期待を込めて武装を点検。

 騎乗籤に外れたセドリックさんと侍女さんが馬車に分乗、御者の交代要員だそうだ。オリメさんとアヤメさんは侍女さんと一緒の馬車。


  人を乗せている馬も馬車を引く馬も獲物を求めて鼻息荒く軽快に走って行く。しばらく行くと道がカーブしていて先が見えない。


  「曲がった先に獲物がいるだろうから用意」

  エチゼンヤさんが号令をかける。刀、ショートソード、薙刀の刃が煌めく。侍女さんは手綱から手を離して弓に矢をつがえた。騎射だよ、すげえ。角を曲がった。馬車を横にして通せんぼしている。剣を抜いている。

  「身ぐるみ置いてーーーー」

  声が続かない。


  「獲物確定」

  エチゼンヤさんの喜びに満ちた声がした。

  薙刀が突っ込んで行く。矢が放たれる。刀、ロングソードが振るわれる。

  「おほほ、おーーっほほほ」

  エリザベスさんのロングソードで首が飛ぶ、腕が飛ぶ、脚が飛ぶ。鞭に持ち替えて楽しげに振っている。あちゃー、戦闘狂王女様だよ。


  あっという間に戦闘は終了。シン一家は出る幕が無かった。後ろからドドドドと蹄の音がする。バトルホースだね。抜き身の野太刀を担いだ店員さんが追いついて来た。剣戟の音がしたので駆けて来たとのこと。残念という顔をしている。こちらも戦闘狂だよ。もはやエチゼンヤ商会改め武闘派集団エチゼンヤ一家とかした方がいいんじゃないか。


  「手応えがなかったな。さてどうするか。面倒ごとになるといけないな」

  「埋めてしまいましょう」

  恐ろしい夫婦だ。


  ブランコが穴を掘り出した。どう?って言うからよく掘れたとヨシヨシしてやる。店員さんが賊を穴に放り込む。馬車は、遅れて来たバトルホースが鬱憤を晴らすように蹴飛ばして壊した。店員さんが馬車の残骸も穴に放り込む。


  「シン様お願いします」

  「ドラちゃん頼む」

  ドラちゃんがフッと息を穴に吹き込むと人も馬車の残骸も溶けて無くなった。穴は埋めた。

 別に穴を掘らなくても良いけど、せっかく掘ってくれるのでね。ヨシヨシしたいじゃないですか。

  「さて、馬は次の街でうまく売ってしまいましょう」


  野太刀組が追いついて来たので休憩がてらさっきの戦闘狂集団は武装解除して商会大旦那様御一行になった。


  街は可もなく不可もない街だった。馬は店員さんが馬喰に売り払った。

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