紋様

かわくや

第1話

劣等感

「くぁ……」


 目が覚める。

 朝。

 なんてことの無いいつもの朝。


 そんないつも通りの空気感の中、僕は伸びをして起き上がり、直ぐ脇の窓を開け放つ。


「うわっ、さむっ」

 

 それと同時に流れ込んで来た春の身を刺す寒さに身を震わせつつも、僕はベッドから降り、肌着を脱いで手に持った。

 そのまま身体に目を遣れば、窓から差し込む陽光を反射して薄く輝く白い肌。


「はぁ……」


 その輝きを目にして、僕は思わず嘆息する。 

 とはいっても、僕は別段自分の身体が嫌いと言うわけではない。

 中学の頃していた陸上のお陰で腹筋も薄く割れているし、それ以降も走り続けているため、そこまで贅肉まみれと言うこともない。

 むしろ若干絞られたこの身体は僕も好きだったりするほどだ。

 ただ……


「はぁ……」


 自分のへそに手をやって、またも溜め息。

 その手をどけると、黒い渦の様な紋様が僕のへそを中心に描かれていた。


「ちっとも成長しないよなぁ……」


 思わず愚痴の様な……諦観の様な言葉を呟きつつ、僕はシャツを着直した。


 昔々の遥か昔。

 僕ら全ての人間の祖にあたる偉大なご先祖は、魔王と呼ばれる巨大な化物を退治してこの文明を作り上げたらしい。

 当然ながらその後、ご先祖たちは繁殖を繰り返し今に至るのだが、その繁殖を繰り返す過程で、体に異様な黒い文様を体に持つ人間が現れたのだという。

 その人間は、それまでに無かった不思議な力を使うようになり、魔王の再来として恐れられ、迫害されたりしてきたらしいのだが、まぁ、それはそれとして。

 それからなんやかんやあって、命のバトンが今日までつながった過程ですべての人間は体に紋様を持つ様になったのだった。

 ただ……ただ、それは、この僕。


 牧野 マキを取り残し……


 とは言ってみたものの、さっき見た通り、僕の体にも全く紋様がないという訳ではなかった。

 僕の紋様は、へそにある渦巻き型。

 確かにあることにはあるのだが、僕の場合、そのサイズから、紋様が出てくる場所まで。

 ありとあらゆる視点から見て異常としか言いようがないモノなのだった。


 普通の場合、文様が出るのは四肢や、顔など、その部位を丸々覆っているものなのだが、僕の場合はなんとも中途半端。

 へそとか言う部位の中のさらに小さな部位に僕の紋様はでてきてしまっていたのだった。

 これじゃあロクな魔法も使えないし、紋による強化もたかが知れている。


 そんなわけで僕は学校でも体力だけはド底辺として名を馳せていたりするのだった。


 だから学校にも本来行きたくはないのだが……


「マキー?起きたー?」


 ……ウチの親はそこまで甘くはない。

 ものは試しと相談してみたところ、行けと言われて行ける程度なら問題ないと笑い飛ばされてしまったのだった。

 実際その通りだとおもってしまったのだから僕もつくづく救えない。


 「はぁー……」


 じゃあ……行きますか。今日もめんどくさい一日の始まりだ。

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紋様 かわくや @kawakuya

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