27.ナイフと刻印
「そんな……そんなはずは……。だって皆、間違いないと……。」
目の前で繰り広げられたやり取りに、王子殿下は明らかな動揺を見せました。
それを見たわたくしは今が好機と見て、後々のために少しばかり攻勢をかけることにいたします。
「皆、とは?殿下のご様子から余程信頼を置かれていたとお見受けしますが、ほかでもないあなた様を相手に杜撰な証言をなさったのは、一体どこのどなたなのです?」
すると、殿下のオロオロとした眼差しが数人の生徒に向けられ、それを受けた数人の生徒の目線がフラン様に注がれました。
(なるほど、あの生徒達がフラン様に唆されて殿下に偽の証言をしたのですね。分かりやすいことですわ。)
「そ、それだけではない!暴行未遂の現場に残された凶器という、動かぬ証拠があるのをお忘れか!
異変に気づいた殿下が駆け寄ったことでコンチュ様を囲む令嬢たちが逃げ去っていったあと、現場にはアクミナータ領製の凶器が残されていたのですよ!」
話を逸らすように食い下がるフラン様。
何と答えようかと思案していると、そんなわたくしを励ますように、ブルーノ卿がポンと背中を優しく叩いてくださいました。
それに勇気付けられ、わたくしは深呼吸をして反撃に移ります。
「確かに、凶器とされるナイフは我が領で造られたもののようです。
なるほど遠目で見るだけでも、ずいぶんと質の良いものとお見受けしますわ。高級刃物はアクミナータ領の特産品ですものね。
恐れ入りますが、近くで見せていただいても?」
わたくしの要望を聞き入れてくださったブルーノ卿の要請により、ナイフは側近候補の手から彼の部下らしき文官に渡されました。
「……これはアクミナータ領内で最も大きな、ヨシフ・ゴーンの工房製ですわね。
ここの製品は我が侯爵家御用達でもありますから、それが残されていたという事実をもって、まずわたくしに疑いを向けるというお考えは理解できなくもありません。
……でも、ご存知?かの工房の刃物は、
わたくしの言葉を受けた文官が、ナイフから柄の部分を外してくださいます。
「何だ?何か刻んで……?」
「そう。店の刻印と、製品の個体を識別できるナンバーですわ。
そしてその番号ごとに、一つ一つをどこのどなたにに販売したものか、お店の方できちんと記録をつけてありますのよ。画期的でしょう?……わたくしがこのように申し上げる意味、お分かりになりますわよね?」
チラリと視線をやれば、案の定フラン様が動揺を見せておられました。
ブルーノ卿が心得たというように、淡々と番号を読み上げてくださいます。
「さあ、情報は出揃いました。そしてわたくし、偶然にもヨシフの工房の帳面を写したものを入手しておりますの。ええ、その冊子ですわ。ありがとうございます、お姉様。……ああ、やはり思った通り。」
読み上げられた番号と帳面の写しを照合したわたくしは、少し大仰に反応してみせました。
「販売先は、ショーン伯爵家。」
会場が、水を打ったように静まり返ります。
「……さて、先ほどからずいぶんとお顔の色が優れないようですが……。これでもう言い逃れ、できませんわね?ショーン伯爵家のご令息、フラン様。」
その場にいる全員の視線が、フラン様に向けられました。
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