24.彼らの告発
わたくしの答えを聞いたジェフリー殿下は、それは自白だ、やはり不正をしたのだと騒ぎ出します。
「彼女の言葉の意味が分かりませんか?」
「?何を言っている、自白以外の意味などあるものか。ほら早く処断しろ!陛下の命で派遣されたと言うのなら、役目を果たしてもらおうか!」
そう詰め寄る殿下に、ブルーノ卿はあからさまに残念そうな顔をなさいました。
「処断せよと申されましても、殿下の提示された『証拠』の信憑性については先の発言の通りにございます。
ですので私としては、有効と判断できる証拠無し、故に事実の認定に至らず。……そう陛下に報告させていただくほかありませんね。」
「なっ!?」
「ただし、この王立学園の敷地内で窃盗紛いの事件が起こったとあれば。またそれにより、第一王子殿下のご婚約者たるアクミナータ侯爵令嬢に疑いの目が向けられるということになれば、それは由々しき事態。
学園側の強い要望があるならば、王家直属の調査団を派遣していただけるよう手配いたしますが……いかがなさいますか?」
ブルーノ卿はまるで全てを見透かしているかのように、なぜか学園長ではなく、とある手近な教師に視線を向けて問われました。
「ひ、必要ございません!」
その教師……つまり例の王国史の教師は、震え上がって返答します。
「しかし、それでは窃盗犯を野放しにすることになりますが、よろしいので?」
「この程度の事案で王家の手を煩わすなど、恐れ多いことでございます。そもそも、机を荒らされたという話自体が私の勘違いであった可能性もあり……。いや、そうに違いありません!全ては誤解だったのです!」
「おや、被害を訴えた教師というのは貴方だったのですか。道理で一関係者の身でありながらいやに即答をしていただけるものと思いましたよ。責任者である学園長に相談することもなく、まるで何かやましいことでもあるかのように、ね。」
「あ、いや……。」
ブルーノ卿が言外に仰るとおり、彼の態度はある意味偽証を自白しているようなものでした。
それでも正式に処断されるよりは、訴えを取り下げて無かったことにした方が遥かにマシという考えではあるのでしょう。
しかし、ブルーノ卿は涼しい顔でその退路を塞ぎます。
「ご心配なく。『調査の必要無し』とする貴方の返答については、私の所感も含め余すところなく陛下に報告しておきますので。」
言葉を失くして固まる教師は、いっそ哀れでもありました。
「な、何故だ!何故証言を止めるのです、先生!?」
目の前で繰り広げられた会話の、双方の思惑を理解なさっていないのでしょう。
割って入ろうとする殿下でしたが、そこにフラン様が慌てた様子で何か耳打ちをなさいました。
おそらくは旗色の悪いとみたこの件を切り捨て、本命である次の訴えを詰めることを進言したものと思われます。
殿下は少し迷った様子を見せつつも口を閉じました。
(フラン様……他の方が騒ぎ立てている間に思考を纏めたのでしょうが。ここへきて彼本人が積極的に動き始めた辺り、よほど焦ってはいるようですわね。)
フラン様は、そのまま仰々しく喋り始めます。
「コホン。失礼、どうやら色々と行き違いがあったようでございますね。
しかし誤解なさらないでいただきたいのですが、我々が真に訴えたいのはそれではないのです。
僕が今からお話することこそが、最も重要な事実。この場を使って皆様にお伝えしたかった、アクミナータ侯爵令嬢の罪状なのです。」
その言葉を聞いた殿下とコンチュ様、そして側近候補の皆さまは、待ってましたとばかりに勢いを取り戻されました。
そうだ、今度は証拠や証人も完璧に揃っている、言い逃れなどできないぞと勝ち誇ります。
そしてこれまでにわたくしがコンチュ様への嫉妬に狂って悪い噂を流したこと、彼女が学園の重要な式典に出られないよう装飾品を盗んで破損させ、また意図的にドレスを汚したこと、果ては取り巻きとともに彼女を取り囲み、刃物をもって淑女の命とも言えるその顔に傷を付けようとしたことなどを告発なさったのです。
侯爵令嬢の所業としてはあまりに直接的かつ過激な内容に、会場内の皆さまは驚き、ざわついたようでした。
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