第27話 Happy New Year

 規則正しく動いているだけなのに大晦日だけはじっと見つめて新しい年を迎えることを待ってしまう。十二時を回れば実感はなくても新年を迎え、楽しいことはあっという間に過ぎていく。

 スマホが光れば和真からメッセージ。

『あけおめ』

『今年もよろしく』

 二行にわけて送られてきたメッセージに『あけおめ』と『こちらこそよろしく』と返す。

 去年まで年越しでも何もメッセージが来なかったスマホも今年は鳴った。去年は僕にとってある意味いろいろ変わった一年だった。桜夢がサンタへの手紙に書いたように僕自身もいろんなものを手に入れられた年だったのかもしれない。

 新年を迎えてすぐに寝てしまったのか気がつけば日が昇り、時計も新年を迎えて八周していた。

 毎年、なんとなく餅だけは食べてそのあと初詣に行く。

 近くの神社はもう激混みで前に進むのもやっとなぐらいだ。この調子じゃ賽銭箱に辿り着くのも大変だ。やっとの思いでお参りを済ませればなんとなくお守りを買って帰る、いつも同じやつ。なんとなくお土産にと思って健康祈願のお守りを買う。もうこんなのお節介かも知れないけど、僕からのほんの気持ちだ。

 まだ新年一日目だと言うのに人は多くてみんな頑張るなと他人事のように思うが自分だってその一人だ。

 昼頃に家に帰ればポストに一枚の郵便物が入っていて、手に取って見ると年賀状だった。大学生になってからはと言うものの誰とも年賀状のやりとりはしていなかったから誰だろうと宛先を見れば手書きで“朝影桜夢”と書かれていた。

 よく見れば全て手書きで絵のうまさに感心する。

「ちゃんと届いた?年賀状。」

「うん。届いたよ。ありがとう。」

「どういたしまして。」

 年を越して数日。そろそろお正月のムードも消えるかなというときに会いに来た。前にあってから一週間かそこらしか経っていないのに桜夢は随分を痩せていて、鼻の下には管が付け足され、胸元からはコードが伸びている。それでもいつもと変わらずにこやだ。

「これ、お土産に。」

 小さな紙袋を渡した。中身を取り出して手のひらに乗せていた。

「お守りだ。ありがとう。そこにかけて貰える?」

 指さしたのは点滴のスタンドで、受け取って何もかかっていない方にお守りをぶら下げた。

「もう年越しちゃったかぁ。何か去年は濃かった。」

「それは僕も同じだよ。」

「あっという間に春になっちゃうね。」

「そうなれば初めて会ったときから一年。早いね。」

「今年は桜見に行こうね。リベンジ。」

 そう意気込んで手帳を開く。一年近く毎日使い続けたそれはページの端はヨレヨレで新品の輝きではなく使い込んで味がにじみ出ていた。数行しかなかったやりたいことリストも気づけば数えるのが面倒になるほど増えていて、そのほとんどはなんとかこなすことができたらしい。

 大学も年末年始の休日が明けて再開。授業も後半で学期末のいろんな課題やらテストやらが襲ってくる。

「森下くん。テスト対策してる?」

「まあ、ぼちぼちかな。」

「偉いね。いつ寝てるの?毎日ゲームしてるでしょ?俺がやるときいつもオンラインだから。」

「僕、ショートスリーパーだから。」

 後期で授業が一緒になってから何かと仲良くしている。大学での生活もやっと楽しいと思い始めた。

「時間の使い方うまいね。就活もそろそろ始めなきゃな。」

「お願いだからそれは言わないでくれ。」

「ごめん。でさ、例の子どうなったの?クリスマス喜んでくれた?」

「まあ、成功したかな。」

「成功ってどういうことだよ。」

「いや、説明すると長くなるけどサプライズ的な?」

「そんなロマンチックなことをしたのかよ。どんな内容?」

「はい。授業始めるぞ。」

 賑やかだった講義室内が前から入ってきた先生の存在で静かになっていく。あれ以上深掘りされても困ったから心の中でナイスタイミングと言った。

 どの授業もテスト、単位取得のための課題と言った説明ばかりで嫌でも認識させられる。それにプラスしてゼミ決めも始まり、就活を始めたなんて声も聞こえるほどで漠然と先の未来を描かなければならなくなった。そんなこともお構いなしにコントローラーを握る手は止まらなくて現実から目を背けていた。

 それは大学だけではなく、僕だけではなくさまざまなことを含めてこのまま変わらないでいて欲しいと思ってしまう。

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