第8話  一人目の来訪者


 その日は全国的な雨になるという予報であった。特に夫婦の住んでいる地域は大雨に注意との事だったので


「今のうち、ポストのもの家に避難させておいた方が良くない? 」

「そうだな、俺が行くよ」

「あなたは家にいて。もし早くK君来たときに、私よりもいいでしょ?」


来訪予定よりも一時間ほど前だったので、まだ大丈夫だろうと夫人は研究者の家へと急いだ。彼の家は坂を登り、少しそれた奥の方にあるので、来客前のちょっとした運動だった。しかし彼女が坂を登り切り、横道に入る直前に、坂の上からゆっくり降りてくる、自分と同年配くらいの男性を見た気がした。


「まさかね、こっちから来ることはないでしょう」


この道の先には車止めがあり、通り抜けは出来なくなっている。それに公園は大きな目印なので、間違うはずは無いと思いながら、鍵を開け、普段ならフリーペーパー等を除きながら手紙を探すのだが、今日はポストに入った全てのものを大きめの袋にさっと詰め、すぐに道を引き返した。すると今度はさっきの男性の後ろ姿を見ることになった。彼は首を左右に動かし、時にスマホを見ながら、ゆっくりと足を進めていた。そしてスマホの反対側の手には、いかにもお菓子屋さんの小洒落た感じの紙袋を持っている。体つきはがっちりしていて、その横顔に見覚えがあった。


「K君? 」

後ろから声に、男性はすぐに振り返り、強めの眼差しが自分に向けられたのに、夫人は驚いた。


「あ! どうもお久しぶりです! 」

「フフフ、覚えていらっしゃらなかったでしょう? 」

「あれから何度か高校の卒業アルバムを見ましたから」

急に穏やかな感じになったのは、自衛官という彼の職業柄なのだろうと彼女は思った。


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