第22話 英雄の真実

 それからはデイビッドさんの音頭でトントン拍子に話がまとまり、明後日には帝国内で僕たちの婚約が発表される事になったよ。明日はデイビッドさんが登城して帝王陛下にご報告するらしいけど……

 公爵家令息のマリーン【オネエ】さんの婚約はともかくとして、僕の婚約まで報告する必要があるのかな? 


「ハルくん、諦めてね。ユウヤくんの弟子になった時点でこうなる事は決定だったようなものなのよ」


 カスミさんが僕を見てそう言う。うん、そうか、師匠が悪いのか! いつか師匠に文句を言ってやるっ!! って、そこで思い出したよ!


「マリーン【オネエ】さん、渡す機会が中々無くて、忘れてたけど、はい、コレ。師匠からの手紙です」


「どうでも良いけど、ハル。その【オネエ】さんは止めてくれる? 兄さんでいいじゃない?」


 いいえ、僕の心がそれを許してくれないんです、【オネエ】さん。


「いや、無理だけど……」


「何でなのよーっ!?」


「アラアラ、マリーン、その女性口調だと仕方ないわよ。【オネエ】さんでいいじゃない?」


 カスミさん、貴方のご子息ですが【オネエ】さんで良いんですか? 僕の視線を感じたマリーン【オネエ】さんが諦めたように言う。


「ハア〜、母上…… 分かりましたよ…… そもそも私が産まれて危険だからって性別を偽って帝国に申告して、バレないように女性口調で喋りなさいって言ったのは母上ですけどね……」


「アラ、でもそれでちゃんと今まで何の危険もなく生きてこれたでしょう? やっぱり私の先見の明は凄いって事じゃないかしら? ねえ、あなた」


 急に振られて戸惑うデイビッドさん。


「そ、そうだな、カスミ。マリーン、お前が産まれた時は帝国の内部も荒れていたのでな、ましてや私が英雄の神女様を娶ったからといって私を帝王にしようとするやからまで居たんだ。あの時のカスミの判断は間違ってないと私も思うぞ」


「確かに、師匠の元に預けられて人的な脅威は無かったけど、あの師匠なんだから身体的な脅威は沢山あったんだからね、父上、母上!」


 まあ、マリーン【オネエ】さんのいう事に間違いは無いよね。僕も師匠からの特訓では死にそうになった事が多々あるから…… あ、思い出したら急に涙が……


「ハル、どうしましたの? 急に涙を流したりして?」


 メイビーに心配されちゃったよ。


「あ、ああ。大丈夫だよ、メイビー。遠い昔を思い出していたんだ」


 僕が師匠との特訓を思ってそう言った時にカスミさんの目がキラーンと光った。


「そうそう、ハルくんに聞きたい事があったの。ハルくんってひょっとしたら転生者でしょ? それも私の知る人かしら? それともその親族かしら?」


 いきなり何を言い出すんでしょうか、カスミさん。僕はビックリして固まってしまったよ。


「ウーン…… でもハジメくんとは雰囲気が違うし、固有スキルは別だし…… ハジメくんから聞いてた息子さんのハルユキくんかな?」


 バ、バレてるし…… 何がどうなってその思考に至ったのか教えて欲しいです、カスミさん。


「アラ、そうなの、ハル? 転生者だったの?」

「ハルは違う世界で生きてきた記憶がありますの?」

「ハル、そうであっても私もメイビーもアナタの事を嫌ったりしないからね」


 マリーン【オネエ】さん、気づいてなかったんですか? メイビー、実はそうなんだよ。三十二歳まで地球という星で生きてたんだ。マリアさん、有難うございます。僕は貴女こそが真の【姉さん】だと今ハッキリと分かりました。 


「で、どうなのかしら? 当たってるかな、ハルくん?」


 僕が何も言えずにいたらカスミさんから更に問われたから、観念して僕は頷いたんだ。そして、


「そうです、僕は恐らくこの世界で英雄の一人と言われている、奇人ハジメ・カグヤの息子でハルユキです。でも、時間経過がおかしいので、本当にそうなのかは僕には分からないんです」


 僕は疑問に思っている事をカスミさんに伝えたんだ。


「あーっ、そうだよね。そっかーっ、ハジメくんの息子さんなのね。時間経過については、ゴメンね、私にも分からないの。そもそも、私たち五人はこの世界の創造神様からお願いされてやって来ただけだから。コッチで十一年もかけて邪竜を討伐したんだけど、その間の老化は無しにしてもらってたしね。それに討伐後に直ぐに戻ったタイトくんとショウくんとハジメくんはこの世界に来る直前の時間軸に戻された筈だしね。ハジメくんにハルユキくんっていう息子さんが居るって聞いてた事があったからハルくんの事も分かったの。時間軸がバラバラだから難しいかも知れないけど、この世界に来た時の私の年齢は二十二歳の時だったわ。だから今は四十一歳よ。他の四人を【くん】づけで呼んでるのは、一緒に討伐の旅に出てる時に、私の事をみんな【ちゃん】づけで子供みたいに呼んでくるから、私も年上の人ばっかりだったけど、【くん】づけで呼んでたのよ。フフフ、終わり頃にはそれが当たり前になってたのよ」


 うーん…… 僕の親父は五十六歳で地球で亡くなったんですけど…… うん、考えるのを止めよう。全ては神様の思し召しだね。


「でね、ハジメくんの固有スキルが【生命ある者との会話】だったの。生きとし生けるもの全てと会話が出来たのよ。ハジメくんの固有スキルが無かったら本当に私たちは生き残れなかったと思うわ。ハジメくんは戦闘系のスキルじゃないけど、熟練度を上げたらみんなの危機を救えるって信じて、本当に真摯に熟練度を上げてくれたのよ。最後はちょっと騙した事になって私も後悔してるんだけどね……」


 そうかぁ、親父殿は僕と真逆の固有スキルを持ってたんだね。それにしても、カスミさんが後悔してるのって、生きてた事についてだよね? もしも親父殿が知ったら泣いて喜ぶと思いますけど。


「それは、亡くなったって言われているのに本当は生きてた事についてなんですか?」


 僕がそう聞くとカスミさんは頷き、


「そうなの。ユウヤだけは私が残る事に賛成してくれてて、他の三人は一緒に地球に帰ろうって私が残る事に反対していたのよ。その上、タイトくんとショウくんは地球に戻って二人のどちらかを選んで結婚して欲しいなんて言ってきてたの。ハジメくんはそうじゃ無かったみたいだったけど…… それで、どうしてもデイビッドと一緒に暮らしたかった私は、最終決戦の時に仮死状態になって三人を騙しちゃったのよ…… それだけが今でも心の中で傷をつけているかな……」 


 僕はその話を聞いて笑って言ったんだ。


「僕の前世の父は死ぬ直前に笑って僕にこう言いました。『最高の仲間と歩んだ事が父さんの誇りだ。お前もいつか最高の仲間を見つけるんだな。いや、それよりも父さんが愛した母さんのような最高のパートナーを見つけろ』ってね。僕の父は恐らくコチラに残ると地球での生活と余りにも違い過ぎるから、カスミさんのその後を心配して戻ろうって言っていたんだと思います。最高の仲間と歩んだ事が誇りだと言った父の言葉の意味が今まで分かりませんでしたが、五人の英雄の皆さんの事だと今ハッキリと分かりました」


 僕の言葉にカスミさんが、


「そう、ハジメくんがそんな事を言ってたのね…… 私も誇りに思わなきゃね。じゃないとハジメくんと顔合わせ出来ないわ」


 そう言ってうつむき加減だった顔を上げて笑ったよ。こうして、神女様が生きてた事はこの世界ではテリス帝国では周知の事実だったけど、他国からの干渉を避ける為に、世界中に向けて発表されたのは今から五年前の事らしいんだ。メイビーやマリア姉さんがその事を知らなかったのは、ダルガー王国の国王が発表を信じなかったので、自国の貴族にも知らせなかったかららしいよ。


 うん、ダルガー王国は生き残りたいならクリュウ様を次期国王にするしか無いと思うね。

 

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