第18話 テリス帝国へ
次の日はまた一日中温泉街を楽しんだよ。そしていよいよ温泉街を出てテリス帝国へ向かう事になったんだ。
宿の前ではネーメさん、ネルさん、クリュウ様、ナーガさん、ベルニカさんが見送ってくれているんだ。クリュウ様はあと三日、この街に滞在されるそうだよ。
「ハル殿、マリーナ様に言伝を頼めるかな? 俺の結婚式に招待するから是非とも参加してほしいと」
「分かりました、クリュウ様。必ず姉さんに伝えます」
ネルさんはメイビーとマリアさんに挨拶をしているよ。
「お二人とも落ち着かれたらまた遊びに来て下さいませ。お待ちしております」
そう言われて二人も嬉しそうに必ずまた来ますって返事をしていたよ。
「さてと、それじゃ出発します。また来ますね!」
僕は見送りに来てくれているみんなにそう言って馬車を出発させた。
『よーし! 行くぞーっ! 馬よ! 私をしっかりと引っ張るのだーっ!?』
何故か馬車が気合が入ってるね。まあ、馬には聞こえないからいいか。
こうして僕たちはテリス帝国の辺境地、ターリスに向けて旅立つ事になったんだ。
「マリア姉さん、本当に楽しかったですわね」
「そうね、メイビー。私はまた射的と卓球を思う存分にしてみたいわ」
二人の会話を聞きながら、もう一つの会話を聞き流す僕。
『へっへーん、オンボロ馬車が走ってらぁ!』
『小うるさい道端の石っころよ、私は高貴な方を運ぶ馬車なのだ、敬意を表わせ』
『何っ! この
小石に馬車に道の会話…… うん、取りあえず少し黙ってて貰おう。僕はスキルを使って黙って貰ったよ。ターリスまではタリスから来た時と同じように裏道を使用するんだ。半日、時間が短縮されるのも同じだよ。
僕は二人に声をかけた。
「メイビー、マリアさん、今日も夜営しなきゃダメなんだ。大丈夫?」
「まあ! 夜営しますの! 楽しみですわ」
「クッ、今回は寝坊なんてしないぞ!」
本当に楽しそうに返事をくれるメイビーと、何故か寝坊はしないと心に誓うマリアさん。二人とも夜営については大丈夫みたいだね。まあ、またマットがあるからマリアさんは寝坊確定だと思うけど。
そして、夜営も無事に終えて、当たり前のように寝坊したマリアさんもそれほど遅くならずに起きてきたから、早朝に出発して無事にターリスの町に到着したんだ。門衛さんに僕の身分証を見せたら馬車の中をチラッと見てから、
「お連れ様はどなたでしょうか?」
と聞かれたから
「マリーナ姉さんのお客様です」
と正直に答えたら、門衛さんは畏まってしまったよ。
「マリーナ様のお客様でしたか! 申し訳ございません! 本来ならばアチラの門をご利用いただくべきでした!!」
えーっと…… 僕は貴族じゃないし、二人も貴族じゃなくなってるから、アッチの門は使えませんよね? 僕はそう聞いてみると、門衛さんから驚きの返事が返ってきたよ。
「いえ! ハル様はテリス帝国ほか、各国の爵位をお持ちでございますが? まさか、ご存知ないのですか!?」
はい、初耳です…… 爵位なんて知りませんけど……
困り顔の僕を見て門衛さんが説明をしてくれたよ。
「マリーナ様改めマリーン様より通達がございまして、ハル様が伯爵位になられたとお聞きしておりますが……」
うん、色々と情報が多いようだよ。先ずはマリーナ姉さんの改名の件だね。それと、僕が何故に伯爵になったのかとだね。これはターリスに居る辺境伯様に確認してみよう。
僕は門衛さんにお礼を言ってから町中に入ったよ。するとそこには辺境伯様の出来る執事、セッテンライヤーさんが立っていたんだ。
「ハル様、主人がお会いしたいと申しております。もし、よろしければこれから屋敷まできていただけますでしょうか?」
「分かりました、二人ともいいかな?」
「勿論ですわ、ハル」「いいわよ」
メイビーとマリアさんの了解も得たから僕はセッテンライヤーさんに僕の隣に座ってもらい、辺境伯様の屋敷に向かう事にしたよ。ここでスキルで今まで黙らせていた生命なき者たちとの会話を復活させておいたよ。何かヒントを得られるかも知れないからね。
「ハル様、いきなりで驚かれたでしょう?」
セッテンライヤーさんが僕の隣でそう声をかけてきたよ。
「はい、一体何がどうなってるのか、セッテンライヤーさんは知ってますか?」
僕はもしも事情を知っているなら教えて貰おうと思い聞いてみた。すると、
「主人より詳しくはダメですが、少しは説明しても構わないと言われておりますので、許された範囲で説明させて頂きます」
って言って事情を教えてくれたよ。
「先ずはマリーナ様の件ですが、マリーナ様は隠者様と同じく、いえ鑑定魔法が使えますので隠者様以上の魔法の使い手として【魔神】の通り名を正式に受け継がれました。これは隠者様からの指示でもあります。それにより、マリーナ様は今まで性別を偽っておられた事を明かされ、男性だったと判明致しました……」
えっと…… マリーナ姉さんは姉さんじゃなくてオネエさんだったって事なのかな? うん、未だに脳内で理解が追いつかないんですけど…… えっ、女性だったよね? 小さい頃に一緒にお風呂に入ったよ、僕。男性じゃ無かったよ?
そんな僕の困惑をよそにセッテンライヤーさんは話を続ける。
「次にハル様の爵位の件でございますが、それについては私もお答えしかねますので、主人に聞いていただければと思います」
あっ、はい。そうですか…… なんか爵位についてはまだ考えられそうもないです。
そうこう話をしている内に領主様の屋敷に着いたよ。その玄関前には、ひときわ目立つイケメンさんを隣に立たせた辺境伯様がいたんだ。
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