第2話 十二歳、旅立ち
僕の目の前で師匠が今にも亡くなりそうだ…… 演技だろうけど。
「うん、俺はもうダメだな。ハルよ、最期にお前が看取ってくれて俺はありがたく思ってるぞ」
「師匠、それはもう良いから。早くこの
僕はそう言って薬を師匠に飲ませた。
「グハッ、ゲホッ、グボッ! コラ、いきなり鼻をふさいで薬を口に放り込むな! 危うく溺死するところだったぞ!」
「はいはい、悪かったですよ、師匠。それじゃ、僕は日課の狩りに行って来ますね。僕が帰るまでにちゃんと掃除をしておいて下さいね、師匠」
『ちゃんと見張っておくぞ〜』
『うん、頼むよ。ハウスリー』
コレは僕の生まれ持ったスキルの力。【生命なき者との会話】というスキルだ。このスキルをちゃんと知る事が出来たのはマリーナ姉さんのお陰だ。今はもう師匠の元を去ったマリーナ姉さんは【鑑定魔法】を使える。それで赤子だった僕を鑑定して僕のスキルを物心ついた頃に教えてくれたんだ。
最初は無差別に話をする生命なき者たちに、師匠もマリーナ姉さんも困っていたけど、僕が二歳になり、それなりに意思の制御が出来るようになると、無差別に話す事はなくなった。
七歳になった時には僕にだけ聞こえるように話をさせる事も可能になったんだ。
このスキルによって僕は何が出来るか考えていたんだけど、師匠からは諜報活動や軍師なんかを目指せるなと言われていた。師匠は僕が二歳頃からそう考えていたようで、その為には他の力も身に着け、ある程度の戦闘能力も必要だろうと、幼い頃は半分は遊びながらだったけど、そういう訓練をしてくれたんだ。
更に、師匠は生活魔法と空間魔法を僕に教えてくれた。僕に才能があったのか二つの魔法を覚える事が出来たのは良かったと思う。
昔の事を思い出しながら僕が家から離れた頃、師匠は……
「おい、ハウスリーよ、ハルはもう行ったか?」
『おお〜、行ったぞ〜』
「そうか、それじゃ後の事は頼むぞ。俺はもう消えるからな……」
『分かったぞ〜。安心して
「全く、本当にハルのスキルはとんでもないな。ハルは今どれくらい離れてるんだ?」
『五百メタほどだぞ〜。今のハルなら千メタでも大丈夫だぞ〜』
「そうか…… 机の上にマリーナに宛てた手紙を置いてあるからそれを持って家を出ろと伝えてくれ。ハルの今後の事はマリーナとアイツにに任せると書いてある。それじゃあな、ハウスリー。名残惜しいがコレでお別れだ……」
『うむ〜、良い旅を〜、隠者よ……』
「しかし、ハルのスキルはアイツの逆転スキルだったな…… そう言えばアイツはアッチで元気にしてるのか? 会えたらいいなあ……」
その言葉と共に師匠はベッドから消えたそうだ。狩りから戻った僕は
「えっ! 何でだ? 何で僕を置いて行ったんだよ、師匠!?」
『ハルはもう十二歳だぁ〜。成人したからには独り立ちしなくてはなぁ〜。机の上にマリーナへの手紙があるからそれを持ってマリーナの元に行くのだぁ』
「ハウスリー…… 分かった…… それが師匠の
僕は机に置かれた二通の手紙を手に取った。一通はマリーナ姉さんへの手紙で、一通は僕宛だった。僕は手紙を読んだ。
【ハルよ。コレを読んでいるなら俺はもう居ないという事だ。これからはお前自身の力で生きていくんだ。必要な事は全て教えたつもりだ。生活魔法と空間魔法、それに体術も今のお前ならば国の騎士が十人相手でも勝てるだろう。今後の事はマリーナと相談して決めると良い。今回、マリーナの元に向かう旅でも見聞を広めるチャンスだからな。見逃す事が無いように常に周りをよく見て旅をするんだぞ。
それとお前のスキルについてだが、可能な限り
「師匠…… 僕は生きていきます! この世界で力の限り精一杯に! 不気味だと捨てられてもおかしくなかったのに、これまで育ててくれて有難うございました……」
泣かない。僕は力強く生きていくんだ。僕はマリーナ姉さんへの手紙を空間収納に入れ、
「ハウスリー、それじゃ僕は行くよ。今まで有難う」
『う〜む、達者でな。隠者の弟子、ハルよ〜』
「また戻って来るかもしれないけど、そのときはよろしくね」
『よいよい、戻ってきてもよい、戻らずともよい〜』
その会話を最期に僕は育った
僕とマリーナ姉さんしか入れないようにしておいた。
さてと…… 気持ちを入れ替えてマリーナ姉さんの元に行ってみよう。居場所は知ってるし何時でも訪ねておいでとは言われているけど…… 時間はたっぷりあるから歩いて行こう。
こうして、この世界に転生してから十二年が経った僕は旅立ちの時を迎えたんだ。
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