魔王の許嫁
「そういえば、どうしてアンドロは魔王に狙われているんだ?」
「あっ、私もそれは気になっていた。話したいところだけでいいから話してほしいな」
俺とベガはずっと疑問に思っていたことを聞くことにした。
「わかりました!特に隠す理由もないので話しますね」
そう言って彼女は昔話のような口調で自分の過去を話し始めた。
「私が物心ついたとき、私は雲の上の地面に建っている広い塔の中にいたんです」
「雲の上……」
あまりにも非現実的な冒頭にベガが静かに驚く。
「その塔の中で、私はつい最近まで魔王の妻になるための教育を魔王やゾンビさん達から受けていました」
「物心つく前に軟禁して洗脳教育か……」
今までの話を聞く限り、アンドロは物心つく前に誘拐され、魔王か魔王を名乗る人物の妻にされかけていたようだ。
「当初は『地上の人間は愚かだったせいで絶滅したので、自分と魔王が結婚することで人類を再興できる』なんて教えられたりしました」
どうやら魔王は自分とアンドロが何としてでも結婚するためにやたら壮大なウソをついていたようだ。
「でも私が大きくなっていくにつれ、ゾンビさん達が魔王に隠れて本当のことを教えてくれたんです」
そう言ってからアンドロは自分の武器である片手剣と化したトライデントを見つめる。
「その中でも顔が白骨化したゾンビの恩人さんは、お兄ちゃんの情報を教えてくれた上に私の脱出を手伝ってくれたんです」
「……それで、どうして塔から脱出しようと思ったんだ?」
「魔王との結婚が一か月前に迫ったある日、見ちゃったんです。魔王が塔の外でゾンビさん達に暴言を吐いたり暴力を振るっているとこを……」
アンドロがトライデントを床に置き、ぎゅっと自分を抱きしめる。
「それで、こわくなったんです。もしこのまま結婚したら自分もゾンビさんたちみたいにひどいことされるんじゃないかって……」
アンドロが恐怖のあまり次第に震えはじめる。
「……大丈夫。大丈夫」
それを見たベガがアンドロの頭をやさしくなで始めた。
「……私とアル君で、アンドロちゃんを魔王から守ってあげる。だから、だいじょうぶだよ」
ベガがなでるうち、アンドロの震えは止まっていった。
やがて、疲れたのかウトウトし始めたアンドロはそのままベッドの中に入っていった。
「……あ、待って。まだ聞いてなかったことがあった。アンドロちゃん、起きて!」
ベガがとっさに眠りかけのベガを起こす
「……うう、何ですかぁ?」
「魔王の名前って覚えている?」
魔王は魔王になったときに人間時代の名前を捨てて魔王としての名前を名乗り始める習性がある。
そして、その名前はこれまでの魔王の名前と同じだったことはない上に、その魔王の特徴や能力をあらわしていることが多く、魔王討伐の重要な要素になるのだ。
「あぁ、確かジャメルって名乗ってましたぁ……」
そう言うとアンドロはそのまま眠ってしまった。
ジャメル。
それは俺の母親を殺し、俺の父親と相討ちになった魔王の名前であった。
銀色の髪とヘビのような口を持っていたとされる彼は粉々になりながらも本人だとわかる状態で遺体が発見され、分析した後で焼却処分となったらしい。
「まさか、ジャメルが生きているわけなんて」
「理論上ありえない。ジャメルの遺体は紛れもない魔王のものだった。いくら魔王でも焼却処分されてから復活は不可能だし」
ベガが理詰めでジャメル生存の可能性を潰していく。
「やっぱりその魔王はジャメルを名乗っているだけで、本当の名前は別にあるのかもしれないな……」
「そうだね。じゃあ、そろそろ寝ようか」
俺はアンドロがいるベッドとは別のベッドに座っているベガの指示に従い、自分の
ベッドを探した。
しかし、もともとここは2人用の部屋だったため、俺のベットはなかった。
…そして、結局俺はベガと同じベッドの中で寝ることになった。
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