第25話 ヤスの功績と身分について

 私に「帰れ」と言われたヤスはもちろん帰ることなく、無愛想なアメリカ人の二人組にも積極的に声をかけていた。

 彼女たちには「USA No.1」とか言ったりして、私たちには「でもあいつら、なんでもケチャップかける」と二枚舌を披露していた。


 正直仲良くなりたくないと思われてる相手に、仲良くしようという気もなかった私はそういうヤスに呆れていた。

「でもせっかく同じクラスだし…楽しくしたいじゃん」と言っていた。

 この件に関しては「無理だろ」と思っていたが、ヤスが扉を開いた。


 ある日の授業中に先生が忘れ物をしたから取りに帰ると言った時、突然、不機嫌なアメリカ人がテンション高かったのか、「みんなで隠れましょう」と言った。


 教室に隠れるところなんてほとんどない。しかし窓が大きくて、バルコニーみたいになっていたので、みんな窓の外に出て、狭いバルコニーにぎゅうぎゅう詰めになって、隠れた。一人だけ隠れていない中国人がいたが、それに対してみんな強制もしなかったし、一人机に残った中国人もみんなの居所を白状はしなかった。


 先生が戻ってくるまで、本当にぎゅうぎゅう詰めで、笑いを堪えながら待っている。先生が教室に入ってくるのが窓から見えた。


 机に座っているのは中国人の生徒ただ一人。


「え? どうしたの?」と先生が驚く声を上げるのが分かる。

「…」

 中国人の生徒は肩を竦めるだけだった。

 教室の異様な雰囲気にしばらく先生は呆然としていたが、隠れているのだと思ったらしく、ついに探し始めた。結構な人数が消えたので、不思議がっていたが、隠れる場所もそこまでなかったし、割と早く見つかった。


 その一件から、クラスのムードは国別に分かれるようなギクシャクした感じはなかったので、ヤスの努力は実ったんだな、と少しだけ尊敬した。

 私は変えようとも思わなかったし、その努力もするつもりもなかった。


 若いって柔軟性があると言うこと。私はもう「だめなものはだめだ」とそう思うような大人だった。


 そしてアメリカ人二人も少しずつ変わっていった。でも彼女たちはそれなりの教育を受けていたんだな、と後になってわかった。


 それは何かの特別授業だった。フランス語というよりは文化について考えるというような感じの授業だった。


「じゃあ…例えば、ヤスとエリン(アメリカ人生徒)が結婚すると言ったら、どうなる?」と先生が言った。


 そうしたら、ものすごく小さな声で

「父は…。彼は私を殺すと思う」と俯いた。


 その一言で、彼女がどう言った社会で生活をし、教育を受けていたか分かったし、彼女の小さな声と様子で、それが恥ずかしいことだと言うことを今は分かったのだと…私は思った。

 まだ十代の彼女たちは今までの文化で暮らしてきて、他の国で、他の違う国々の人たちとふれあい、少し変わったのだろう。


 結婚について、いろんな話があがったが、驚いたのはメキシコだった。

 クラスで結婚と恋愛について話す授業があった。

「日本人って、知らない人と結婚するんでしょ?」と言われて、驚いた。

「いや、それは…ないかな」

「えー。そうなの?」

「お金持ちとかは親の紹介とかで結婚する人はいるけど、一般的には恋愛で結婚する」と言うと、不思議そうな顔をしていた。

 そこにメキシコ人が

「メキシコも決まった人と結婚する」と言った。

 みんなが驚いた。何せメキシコ人はとっても自由な感じで、いつも楽しそうにしていたから、まさか家同士で結婚させるということが行われているとは誰も思わなかったからだ。

 だからクラス全員が驚きの声を上げた。

 でもメキシコ人は相変わらず自由で気楽な態度で言う。

「だって、お金ない人と結婚とか大変だし、家が知ってる人同士で、結婚する。そういうコミュニティだから、お金のない人とは知り合わない」と言った。

 インドか? と思わず思ったほど、違う身分の人と知り合うことがないらしい。違う人と知り合って結婚に至るのはほとんど不可能だと言った。


 次回、身分の違いについて、思いがけず考えさせられた。

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