第24話 アメリカ人の英語が分からない
クラスにはアメリカ人も多かった。アメリカ人学生が二人、もう一人は神父の奥さん、そしてもう一人はソーシャルワーカーとして働いていた。
この学生二人は完全にアメリカ人としか連まないし、オーストラリア人の英語の発音を笑ったりしていた。
オーストラリア人はおじさんでいつも陽気で明るく「HAHAHAHAHA」と大声で笑うし、お酒も大好きで、誰とでも集まりたいと言う感じの絵に描いたようなオージーだった。
だから私も一回、飲みに行ったことがあるけど、
「ん? そこ面白いか?」という場面でも大笑いしていた。
もう相槌が「HAHAHAHAHAHA」だったような気がする。
悪い人ではない。
ソーシャルワーカーのアメリカ人は大人しく、でも話しかけると、気さくに喋ってくれるので、偶然、道で会って、一緒に映画に行くことになった。彼女の名前も失念しているので、エマと言う名前にしておく。
トゥールの日曜日は静かだ。お店は閉まっているし、行くところがなくなる。唯一映画館だけ開いているので、日曜日に行くのは映画館だった。
偶然エマに会ったから「一緒に行く」と言うと、
「え? 見たいの?」と言われた。
「暇だし、嫌じゃなければ」と言うと、「もちろんよ」と喜んでくれた。
映画に行く道すがら
「アメリカ人の英語ってわかんない」と私は(じゃあ、一体、誰の英語ならわかるのか)と言う謎の文句を言った。
アメリカ人の発音はまるでキャラメルを口に入れてしゃべっているような音で本当に何を言っているのか分からない。
「えー?」と言って、笑ってくれる。
本当に心根が優しい子だった。
「何か英語言って、聞き取ってみる。単語で」と言う謎のクイズにも付き合ってくれた。
少し考えて
「サブロー」と言った。
「誰? サブローって」と思わず言った。
もう一回、サブローって言われたので、フランス語で解答をお願いすると、「プリュィジェール(複数)」という意味の英語だった。
私が知っている発音では「セブラル」だった。
セブラルと習ったのがサブローだから聞き取れるはずがない。
その後、「ベーグル」も「ベーグゥ」と言われ「ベーコン?」とか言った。
単語レベルでそんな感じだから、文なんて聞き取れるはずないなぁって納得した。
そんな話も彼女は笑いながら付き合ってくれて、本当にいい人だった。
「英語ってほんと、難しい」と言うとなぜか彼女も「そうね」と同意してくれた。
「私の彼、車って単語書けなかったから」
「は? CARの?」
「そう」と言って、笑う。
(え? その彼、大丈夫?)と心配になった。
でも彼女は本当にいい人で、彼女となんの映画を見たのかは忘れたけど、一緒に話してくれた内容と彼女の温かさはずっと覚えている。
神父さんの奥さんも穏やかでやさしい人だった。だから一概にアメリカ人だから…とは言えないが、女の子だったけど、学生二人が本当に態度が悪くて、(アメリカではそれが一般的なんだろうが)ガムを噛みながら
「フランスは汚い。犬をレストランに連れてくるなんてあり得ない」と言うのはどうかと思った。
流石にヨーロッパではガムを噛みながら授業を受けることはないようだが、注意はされなかった。
自国流を貫きながら、他国に来て、そこの文句を言うのはその国に対して尊敬がないなと思った。(まぁ、私もこの街の嫌いなところは日曜日ですと言ったけど。「この町の嫌いなところ」を聞かれたからそう答えたけど)
「フランスは何もかも汚い」と言うアメリカ人を見て、ものすごく不思議な気持ちにもなった。
日本人ってものすごく清潔好きだから、ボールペンですら抗菌仕様のものが作られているし、除菌ティッシュもある。
アメリカ人は靴でベッドに上がるのに、フランス人が汚いと感じるらしい。どっちかと言うと、フランス側だと思っていた。
「あなたたちは、家に外の靴で入るじゃない」とトルコの女の子が言う。
「私たちは違うもの」とアジア人に同感を求めてきた。
この子は(またしても名前忘れたのでナズとする)とても賢くてアメリカのボストン大学(だったかな? とっても有名な大学)に留学していて、英語も喋れた。
ナズは
「私たちアジア人だもんね」と言ってくれたが、どう見たって、顔立ちはそっちだろう、と言う顔で笑いかけてくれる。
「…う? うん」(アジア…広くない?)と思った。
そんな連帯の気持ちを持ってもらってなんだかこそばゆい気持ちになった。トルコが親日だからなのか、その子がアメリカで留学したからこそ、そう感じたのかは分からない。
白熱しかけたクラスの議論を先生が「まぁまぁ」と納めた。
「フランスではペットも人と同じ扱いなのよ」と言っていた。確かにカフェで足元に座っているワンちゃんをよく見かける。
そんなカフェで私が気になるのは大人しく座っているワンちゃんではなく、パンをお皿ではなくテーブルに直置きが気にはなった。でも潔癖症ではないので、そんなもんか、で食べていた。
いろんな国の人が混ざっているクラスで三ヶ月…うまく行くのだろうか、と思った。しかし意外とうまく言ったのは私を姐さん呼ばわりする男、ヤスの活躍だった。
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