第20話 ホームステイ先の食事

 ホームステイして、驚いたことはフランス家庭料理は思っている以上に簡単だし、お母さんも一緒にみんなで食べると言うこと。日本だと、お母さんがバタバタして…みたいなことになる。


 ホームステイ先のお母さんはデザートも作ってくれて、それが驚くほど簡単ですぐに作れた。が、一度しか作ってくれなかった。


 ビスキュイというふわふわで長細いお菓子を牛乳に浸して、それをボールの側面に貼り付けていって、その中にクリームを詰めて、また牛乳浸しのビスキュイを並べて、またクリームを乗せて、ボールいっぱいになったら、またビスキュイ並べて冷蔵庫で冷やし固める、というズコットというお菓子だ。中のクリームはチーズクリームだったかもしれない(覚えていない)。

 火も使わず、ただ牛乳に浸したものを貼り付けて…で、とっても美味しくておしゃれな食べ物ができることに感動した。


 後、オーブンをフルに活用して、前菜のサラダを食べている間に、オーブンでチキンを焼いて、みんなで熱々のチキンを食べる。チキンは最低限の味付けしかしておらず、マスタードをつけたりして、食べる。

「どの部位がいい?」と言われて、まず、どの部位があるのか、そしてそのフランス語が分からないという二重苦に苛まれた。

 どこでもいいと言うとパサパサな胸肉を分け与えられたりする。

「フランス語の習得=サバイバルだ」と常々思わさせられた。


 そんなホームステイ先のムッシュはフランスのチーズを勧めてきた。トゥールはヤギのチーズ、シェーブルの産地だ。癖のあるチーズで、私は苦手だ。でも今日はさらに匂いのきついチーズがあると、嬉しそうに言う。

「いりません」と言っても、

「少しだけ」としつこい。

 仕方なく本当に一センチ角にも見たないかけらを口に入れる。


 その瞬間、口の中に牧場が広がった。牛小屋の藁の匂い、糞の匂い、そして喉を過ぎた時には

「モー」と牛の鳴き声が聞こえた気がした。


「どうだ?」と嬉しそうにニヤニヤするムッシュ。

「口の中で牧場が再現されました」と言いたかったが、そんな素敵なフランス語が出てこず、何なら、まだ子牛が口の中で歩いている気がする。

「好きじゃない」とだけ言っておいた。


 外国語はあくまでも外国語だから、はっきり言いたいことを言えてしまう。日本語だったら、遠慮してしまうところを「肯定文の否定形」と謎の文法でぶった斬って、言ってしまっていた。

 きっともっとソフィスティケートされた美しいフランス語があるのだろうけれど、初級会話なので、どうしてもダイレクトになる。


 ホームステイ先のマダムはご飯をあまり作らなくなった。多分、面倒臭いのだろう。なので、マダムの親戚がやっているカフェに連れて行かれて、好きなのを食べろと言われることが多くなった。


 人気メニューは「クスクス」だという。私は人生で初めてそこでクスクスを食べた。メキシコ人は「クスクスおいしいよ」と言いながら、ステーキを頼んでいる。

 私はクスクスプレというチキンの乗ったクスクスを頼んだ。不思議な辛くもないのに、スパイスの香りのするスープがクスクスという小さな穀物にかかっている。仕組みはカレーのようだ。チキンは柔らかく煮られていた。

「これをつけなさい」と赤いペーストが入った小皿を渡される。

「なんですか?」

「アリサよ」と言った。

 最近、日本でも見るハリッサだ。ただの唐辛子のペーストではなく、このレストランのハリッサが一番美味しかった。オリーブ油にニンニクも入っていて、味わい深くしてくれる。クスクスだけだと、ちょっと味がぼんやりしているのだが、このハリッサを使うと、味にキレが出て、奥行きも出る。私はパリでもクスクスを食べたが、このマダムの親戚のカフェのハリッサが一番美味しくて、未だかつて、それを超えるハリッサに会ったことはない。


 そんなわけで、マダムがズボラをしたい時はカフェに連れて行ってくれるが、私はそのカフェのクスクスが大好きだったので幸せだった。でも結構高かったのに、良かったのかな?


 後、ホームステイ先ではないが、パン屋にメレンゲが売っている。フランスの子供はそれを買ってもらうらしいが初めて見た時は驚いた。子供の顔より大きいものをバリバリと食べていたから。

「それ、おいしいの?」と思わず思ってしまった。

 今では大の好物で、私も大きいメレンゲを食べたかった、と後悔している。

















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