第76話 ぶーぶー
「植えるなのれす」
コハルが何処からか、りんごの形をしたクリスタルの様な精霊樹の実を取り出す。コハルの手からフワリフワリと浮かんで移動し、地面に吸い込まれていく。何度見ても不思議な光景だ。それを小さな子リスがやっているのだから余計だ。
「凄いわ、コハル」
「でしょう!? すっごく神秘的でしょう!」
アヴィー先生が見るのは初めてだ。シュシュが自慢してどうする。シュシュは何もしていない。
「どんどん植えるなのれす」
次から次へとコハルは精霊樹の実を取り出していく。コハルは今回の旅では大活躍だ。まさか、精霊樹を移動させるなんて考えもしなかった。
「長老、頼むなのれす」
「おう」
長老が自分の魔法杖を取り出す。そして、それを掲げて詠唱する。
「ピュリフィケーション……ヒール」
精霊樹だけでなく、辺り一面にキラキラと光りながら白い光が降りていく。もう完全に確信犯だ。
「長老、やり過ぎじゃないの?」
「アヴィー先生、あれは態とだ」
「あら、そうなの?」
「ふふふ、長老は毎回そうですね」
地面に吸い込まれていった精霊樹の実。そこからポコンと芽が出てグングンと伸びていき、若木になり見る見るうちに成木となった。元気にキラキラと光っている。
「信じられないわ!」
「でしょう、でしょう!?」
「ひぽ」
そしてヒポポがまた一鳴きする。
「ぶもぉッ」
すると、彼方此方から小さなブタさんの精霊獣が現れた。淡いベージュピンクのブタさんが、背中の葉っぱを動かしながらフワリフワリと飛んでくる。
「おぉー! かぁわいぃー! ぶーぶー」
「ふふふ、みんなハルちゃん目掛けて飛んでくるのね」
「アヴィー、そうだろう。それが不思議だ。呼び出したのはヒポポなのにな」
「だってハルちゃんは好かれているもの」
「シュシュ、そうか」
「そうよ。ハルちゃんは可愛いもの!」
シュシュはハルちゃんのファンクラブ会員だからな。ファンクラブ会員が増えつつある。
ハルの周りに集まってきた精霊獣。ぶーぶー、ぶひぶひと鳴いている。
「らいじょぶら。ここなりゃ安全らからな」
最初に出てきた精霊獣が、ヒポポの背中からハルの肩に乗ってきた。
「ぶひ」
「アハハハ、しょっか。ぶーぶー」
「ハルちゃん、何て言ってるのかしら?」
「ばーちゃん、仲間がれきて嬉しいって」
「そう、良かったわ。1人じゃ寂しいものね」
さて、最後にヒポポの仕事が残っているぞ。
「しょうら、ひぽ。聞いてくりぇ」
「ぶもぶも」
ヒポポが大きなお顔を動かしながら、精霊獣と話をしている。
後から出てきた精霊獣は知らないらしい。当然だ。ついさっき生まれたばかりだ。なので、ヒポポと話しているのは最初に出てきた精霊獣だ。
「ぶもッ」
「しょっか!」
「ハルちゃん、何て言ってるの?」
「ちょっと前にしぇいれいじょうおーが来たって」
「ハルちゃん、少し前と言ってもまた何百年も前かもしれないわよ」
「しゅしゅ、しょうらな。ひぽ、聞いてくりぇ」
「ぶもぶも」
「あーやっぱしょうら」
「何百年も前なの?」
「もっと前らって」
「あら、残念ね」
「本当、精霊女王はいったい何処に行ったのかしら?」
なかなか精霊女王の足取りが掴めない。一体どこに行ったのか?
しかし、精霊樹を見回っている事は確からしい。
「精霊獣と私達の時間の感覚が違うのね」
「ばーちゃん、しょうか?」
「ええ。きっとね。だから精霊獣にとっては数百年なんてつい最近なのよ」
「なるほど。そうかも知れんな」
「ね、長老もそう思うでしょう?」
「ああ。ワシ等とヒューマンとの感覚が違うのと同じだな」
「しょっか。探し出しゅしかねーな」
取り敢えず、ここの精霊樹はもう大丈夫だ。
ミーレやカエデ、イオスを放ったままだぞ。忘れてないか?
「長老、隣の集落にも寄って帰りましょうよ」
「そうだな。まだ患者がいるかも知れん」
「よし、シュシュ。瞬間移動ら!」
「分かったわ、ハルちゃん!」
何故か張り切っているハルとシュシュ。『いくじょ!』とでも言い出しそうな勢いでシュシュの背中に乗っている。張り切って乗っている。
「ハル、張り切ってどうした?」
「早く帰りゃねーと、かえれがにゃ〜って泣くじょ」
「泣かねーよ」
「え、りひと。しょう?」
「そうだよ。カエデ1人じゃないんだからな。ミーレとイオスもいる。今頃イオスと訓練でもしてんじゃねーか?」
「しょうか?」
「ハルちゃん、カエデなら大丈夫よ」
「しゅしゅもしょう思うか?」
「ええ。思うわよ」
「けろ、心配らから早く帰りゅじょ」
ハルがちょっぴり寂しいだけではないだろうか? 意外とハルちゃん寂しがり屋だから。
「おやちゅも食わねーと」
ああ、オヤツの心配をしている。カエデよりオヤツじゃないのか?
アヴィー先生が提案した様に、すぐ隣の集落にも立ち寄り矢張り薬湯を提供した。予想通り、同じ病に罹っている人達がいたんだ。
「この辺りは全滅らしいな」
「明日はもっと範囲を広げましょうよ」
「ああ」
放っておけないアヴィー先生。薬師なんだ。病で苦しんでいる人がいるかも知れないとなると、当然気になる。
「アヴィー、戻ったら追加で薬湯を作っておく方が良いな」
「そうね。そうするわ」
帰りも瞬間移動を繰り返して戻ってきた一行。
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