第66話 4層 獣人の領主
エルヒューレ皇国に常時張られているシールド。これは特殊なシールドだ。
魔力量の少ない者には認識する事ができない。1番魔力量の少ないヒューマン族には全く分からない。認識できないんだ。
エルヒューレ皇国を目指していたとしても、惑わされて辿り着く事ができない。
そのシールドを開発したのが、なんとあのハルのお友達であり第2皇子のフィーリス殿下だ。
普段はハルと一緒に余計な事ばかりして、兄のレオーギル第1皇子殿下やルシカに叱られている。だが、この皇子は天才肌だ。このシールドだけでなく、エルフ族が皆持っている入国する為のパスを発明したのもこの皇子だ。そして、エルヒューレ皇国の街を設計し直し水害から守り魔道具も作る。
あの普段の素行からは想像もできない。
「アヴィー先生、あのシールドを張るのか?」
「それが1番確実よ。ヒューマンには見られない方が良いわ。用心しなきゃ」
ヒューマン族と獣人族の国、アンスティノス大公国の為に助力しているアヴィー先生がそんな事を言う。
「アヴィー」
「分かってるわよ。でも、気をつけないといけない事は確かだわ」
「俺は、あのシールド張れねーぞ」
「なあに、リヒト。まだ張れないの?」
「私も無理ですね」
「俺もだ」
「ワシが張るさ」
「私もできるわ」
おう、長老とアヴィー先生は流石に出来るらしい。この夫婦は最強じゃないか?
「でも長老はピュリフィケーションやヒールをしないといけないだろう?」
「え? なあに? そんな事もするの?」
「ああ。この国の精霊樹は弱っとるんだ」
「そうなの? そうよね、だって浄化する魔石が無かったんだもの」
「そうなるな」
「じゃあ、私がシールドを担当するわ」
「そうしてくれるか」
この先、4層はまだいい。3層からは公都と呼ばれ、国の施設や貴族街がある。
今までの様に人気のない林や山の中という事も少なくなるだろう。そうなると、アヴィー先生の存在は心強いものだ。
翌朝、ハルはいつもの様にルシカの作った朝食を美味しく食べていた。ハルの大好きな黄身がトロトロのポーチドエッグを、少し厚めに切って軽く焼いたハムにのせてある。
その黄身がほっぺについているぞ。
「んめッ!」
「ハル、お口の周りを拭きましょう」
「ん、またちゅくけろな」
つかない様に食べようよ。
「じゃあ、そこに向かうのね」
「そうだな」
「じーちゃん、うめーじょ」
「ハル、次の精霊樹の場所は分かるか?」
「わーりゅろまっぷらな」
「そうだ」
「食べてかりゃな」
「アハハハ、そうだな」
ハルはモグモグと朝食を食べている。その隣にはコハルが、そして今朝からは、ヒポポも一緒になって食べている。短い尻尾をフリフリとしながら、ぶもぶもと美味しそうに食べている。ハルの周りは賑やかだ。
朝食の後、ルシカとカエデがお茶を出している。
「ハルちゃんは果実水なぁ」
「かえれ、ありがちょ」
「溢さんようになぁ」
カエデにもらった果実水を両手で持ってコクコクと飲むハル。その隣にはミーレとコハルが陣取っている。そして、足元にはシュシュだ。
「カエデ、あたしにもちょうだい」
「あたちもなのれす」
「はいはい」
今まで野営が多かった。こうしてゆっくりと落ち着けるのは久しぶりだ。
「ハル、次の場所は分かるか?」
「じーちゃん、わーりゅろまっぷらな」
「見てみなさい」
「ん」
ハルがいつもの様に両手を胸にやり目を閉じる。いつものポーズだ。
「ねえ、長老。ワールドマップってあの?」
「そうだ、あのワールドマップだ」
「ハルちゃんも持っているの?」
「そうなんだ。だが、まだ行った事がある場所が少ないだろう?」
「そうね、じゃあ長老のワールドマップの方が精密なのね」
「そういう事だ」
アヴィー先生は知っているらしい。ワールドマップの性能も知っているみたいだ。
「じーちゃん、分かんねー」
「まだ分からんか?」
「なんもないとこが光ってりゅ」
「それはハルが行った事がないからだな」
「しょっか」
「で、長老。どこなの?」
「4層の隣領だな」
「獣人が領主の領地ね」
「アヴィー先生、何の獣人なんだ?」
「この国で唯一の狼の獣人よ」
「狼か……」
狼獣人、それは希少なんだ。獣人でも色んな種族がいる。その中でも数が少ない。その上に身体能力が高い。狼獣人の子供等はヒューマンの奴隷商に1番狙われていた程だ。
「希少な上に能力が高い。てやつか」
「そうね。リヒトが大きな奴隷商を壊滅させたでしょう? あの後、幾つもの奴隷商が摘発されたわ。その時にも尽力されたんだけど、保護された奴隷の中でも狼獣人の子供達が何人もいたのよ」
以前、リヒト達が6層にあった大規模な奴隷商を壊滅に追い遣った。その奴隷商で奴隷として働かされていたのがカエデだ。リヒト達に保護されハルの従者となった。
その時に芋づる式に幾つもの奴隷商が摘発された。何人もの子供達が保護された。その中でも獣人の子供達が多かった。そして、狼獣人の子供が1番多かったらしい。
「領主様はね、どの種族とか関係なく領民と一緒になって領地を開拓される人なの。だからどうしても獣人が多く住んでいるわ。だって差別されないんだもの、住みやすいわよね」
この国ではヒューマンと獣人は対等の筈なんだ。なのに、ヒューマンは獣人を差別する。
獣人の大公が国を治めているのにだ。
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