第37話 探索の前に腹ごしらえ

 早速、林に入った一行は先ず……


「カエデ、ちょっと近辺を索敵しようか」

「はいな、イオス兄さん」


 と、イオスとカエデが近辺を見回りに出ていった。

 ルシカは昼食の準備だ。と、いっても温めるだけにしてマジックバッグに沢山入れてある。


「りゅしか、うしゃぎか?」


 と、ハルがルシカの手元を覗き込む。


「今日は鶏肉のバーガーですよ」

「しょっか」

「鶏肉をソテーしたものを挟みます。これも美味しいですよ」

「ん、りゅしかの飯はなんれもうめー」

「ふふふ、ありがとう」


 準備をするルシカの側で、ハルがしゃがみ込んで見ている。


「ハル、邪魔になるぞ」

「邪魔してねー」

「そうか?」

「ん」


 ハルちゃん、そんなにお腹が空いていたのか? その時だ。どこからか、可愛らしい音が聞こえてきた。


 ――キュリュキュリュキュリュ……


「ん? ハルの腹の音か?」

「はりゃへった」

「アハハハ。ハルもう少し待ってくださいね。スープを温めますからね」

「ん」


 ちびっ子だとお腹の音まで可愛いのだろうか。ハルだからか?


 ――グリュリュリュ……


「あら、ごめんなさい」


 シュシュのお腹の音らしい。


「お前、スゲーな」

「何よ、リヒト。失礼だわね」


 ハルのお腹の音と大違いだ。可愛さの欠片もない。


「長老、この近辺には何もいませんね」

「そうか。イオス、カエデご苦労だったな」

「ルシカ兄さん、手伝うわ」

「大丈夫ですよ、もう温まったら終わりです」


 ルシカがスープを温める。カエデが鶏肉ソテーのハンバーガーを皆に配る。

 ハルはもう食べるお口になっているぞ。


「カエデ、スープもお願いしますね」

「はいな」


 そして、皆で『いただきます』だ。ハルが待ってましたとばかりに、大きなお口を開けてあ~んと齧り付いた。


「うめー!」

「本当、とっても美味しいわ!」


 腹ぺこコンビが早速齧り付いている。


「ふふふ、ありがとう」

「ハルは何食べても美味いんだな」

「らってりひと、りゅしかのちゅくりゅ飯はなんれもうめー」

「あんだって?」


 また、リヒトがどこかのおじさんになっている。もういい加減ちゃんと理解できても良さそうなものだ。


「りゅしかはしゅげーな。冒険に出りゅなりゃじぇってーにりゅしかと一緒じゃなきゃだな」

「あんだって?」


 もう、リヒトはいい。いい加減に理解しよう。


「アハハハ!」

「リヒト様、冒険に出るならルシカ兄さんは一緒じゃないとって言うてるねんで」

「おう。なら最初によく1人で冒険に出ようと思ったな」

「らから、いしょいでだかりゃぁ、わしゅれてたんら」

「あん?」


 はいはい。さっさと食べてイノシシだか熊さんだかを討伐しよう。そして、精霊樹を植えよう。メインの目的が何なのかをよく忘れがちになる。精霊女王のピンチなんだからね。


「食べたら精霊樹を植えるなのれす」


 コハルはしっかりしている。ちゃんと覚えていた。だが、コハルのほっぺもプクッと膨れている。沢山入れているらしい。


「こはりゅ、ゆっくり食べな。のろちゅまりゅじょ」

「大丈夫なのれす。溜めているなのれす」


 ああ、メルヘンな2人だ。見ていてなんとも微笑ましくもあり、可愛らしい。そして、平和だ。

 

「ハルも慌てないで食べてくださいね」

「ん、りゅしか」


 ハルのほっぺもコハル程ではないが膨れている。モグモグと夢中で食べている。


「うめー。しゅーぷも超うめー」

「な、美味いな」


 これはリヒトにも理解できたらしい。短文ならOKなのか?


「さてコハル、もう少し奥に入るか?」

「そうなのれす。人里にあまり近いと傷付けられてしまうなのれす」


 コハルは、よく考えている。この領地は木の産業が盛んだ。と、いうことは、人が簡単に入る事ができる範囲に精霊樹を植えてしまうと、精霊樹が見えていないヒューマン達に傷付けられるかもしれない。

 出来るだけ、人が入らない場所の方が良いだろう。かと言って、遠すぎるのも駄目だ。何故なら瘴気を浄化する目的もあるからだ。

 一行が馬に乗ってパカパカと進む。大森林の中でも自由に馬で走り抜けるエルフ達にとって、ヒューマンの国にある林など平原とそう大して変わりはないらしい。


「この辺りでどうだ?」

「いいなのれす」


 コハルがハルの胸元から顔を出す。さあ、またコハルの出番だ。今回はコハルも重要な任務を担っている。精霊王から精霊樹の実を沢山預かっているんだ。

 ハルの亜空間からコハルとヒポポが出てきた。シュシュも元の大きさに戻り、ググッと身体を伸ばしている。


「ああ、やっと元に戻れたわ」

「ぶも」

「ね、そうよね~」


 シュシュとヒポポは何か話している。この国だと窮屈ね~等と話しているのだろうか? ン? ちょっと待て。シュシュもヒポポが喋っている意味が分かるのか?


「あたしは聖獣だからぁ、すぅ~ぐに学習しちゃうのよぉ。天才って言うのかしらぁ〜」


 そんな問題なのだろうか? 精霊獣という存在に慣れたという事だろうか? 白い奴はよく分からない。


「ピヨピヨなのれす」


 コハルが突っ込んでいる。余程ピヨピヨがお気に入りらしい。


「コハル先輩、スルーしてッ」


 早く植えてしまおう。コハルが亜空間からりんごの形をしたクリスタルの様な精霊樹の実を取り出した。コハルが小さな両手に乗せると自然に地面へと吸い込まれていく。同じ事を繰り返し、幾つも実を植えた。


「長老、お願いなのれす」

「おう、任せなさい」


 またまた長老の出番だ。

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