第10話 亀しゃんのお歌

「じゃあまたみんなで行くのね。ミーレ、イオス、ルシカも頼んだわよ」

「はい、奥様」


 3人が任せて下さいと頭を下げる。


「おりぇ、シュシュと行けりゅけろな」


 ハルちゃん、まだ言っている。


「おりぇとこはりゅとシュシュで冒険してみたいし」

「ハル、それは諦めなさい」

「じーちゃん、しょお?」

「そうだな。まだハルはちびっ子だからな」

「けろおりぇ『ちゅどーん』できりゅじょ」

「ハルが寝ている間に魔物が出て来たらどうする? 人攫いだっているんだぞ」

「しょっか。しょうらな」


 やっと納得したか?


「起きてしゅぐに『ちゅどーん』できなきゃな」


 いや、ハルちゃん。それは違う。


「ミエークの都合もあるだろう。リヒト達も準備をしておきなさい。出来るだけ早く行ってくれるように話しておこう」

「父上、お願いします」


 ハルは早く行きたいらしいぞ。また、シュシュと抜け出したりしないか?


「ハル、待つんだぞ。直ぐだからな」

「りひと、わかっちゃ」

「ヨシ、風呂いくぞ」

「おぉー」


 リヒトの実家に帰った時の恒例だ。ベースでもリヒトとハルは一緒に風呂に入って洗いっこしている。

 此処の風呂は大きくて半露天風呂なんだ。ハルのお気に入りだ。もちろん、ベースの風呂も大好きだ。ベースの裏に作られているガーディアン専用の露天風呂だ。

 大きな岩で浴槽を囲んであり趣きがある。一時期ハルが保護した亀さんが住みついていた事があった。それ以来、ベースの露天風呂に入ると少し体力が回復するんだ。不思議だ。

 その亀さんは今はもうエルヒューレの中央にあるウルルンの泉に到着して住みついている。

 そんな事があってからハルは、湯舟に浸かると亀さんのお歌を歌うようになった。

 そして、今日も元気よく……


「もっしもっしかぁめよ~ かぁめしゃぁ~んよぉ~♪」


 絶好調だ。今日は風呂場に入ったとたんに歌い出したぞ。お歌にあわせてお尻もフリフリしている。大サービスだ。


「ハル、なんだその歌は?」


 珍しく一緒に入っていた長老が聞いた。長老、お年なのになかなかしなやかな筋肉をしている。細マッチョだ。カッコいい。イケ爺だ。お髭も決まっている。声まで何気にイケボだ。

 長老とルシカ、イオスが並んで身体を洗っている。イオスも綺麗な筋肉がついている。ルシカは二の腕の筋肉が意外と発達している様だ。弓を使うからだろうか。


「長老、亀さんの歌だそうですよ」

「ルシカ、なんで風呂で亀だ?」

「あれ? 長老、知らないッスか?」

「なんだ? イオス」

「あれッスよ。ウルルンの泉に聖獣の亀が住みついているでしょう?」


 イオスが説明をしている隣りでハルはリヒトに頭を洗われている。椅子に大人しくチョコンと座っていて身体全体の丸いフォルムがなんとも可愛らしい。お手々は揃えてお膝の上だ。


「ああ、水神様の使いだな」

「その亀がベースに迷いこんだ事があったんスよ。それで、ハルがヒールをして助けたんです」

「ほう、ウルルンの泉に来る前か?」

「そうッス。迷ったと言ってましたよ」

「迷った?」

「ハル、流すぞ」

「ん」


 リヒトがハルの頭にお湯を掛ける。ハルが小さな両手で目を塞いでいる。背中も丸いが手の甲も丸い。ついでにお腹もまん丸だ。


「テュクス河からウルルンの泉に行こうとしていたらしいッスけど途中で寝てしまったそうです。で、気付いたらベースにいたと」

「そんな訳ないだろう。方向が違うぞ」

「でも、そう言ってましたよ」

「ハルがまた引き寄せたかのぉ」

「りひと、交代ら」


 今度はハルがリヒトの背中を洗うらしい。プリンプリンしたお尻をフリフリしながら両手でゴシゴシとリヒトの背中を洗う。うん、お尻がとっても可愛い。

 長老達はもう洗い終わり湯舟に並んで浸かっている。


「その亀がベースの風呂に暫く住みついていたんですよ。それから風呂に入るとハルはあの亀さんの歌を歌うんッス」

「ハハハ、風呂に全然関係ないんだがな」

「いえ、長老でもですね」

「ルシカ、どうした?」

「その聖獣の亀がいたからでしょうね。ベースの風呂に入ると少し回復するんですよ」

「ほう、ウルルンの泉も回復効果が少しあるようになったぞ」

「やっぱ、あの亀ッスね」

「しかもだ。浄化の効果も高くなってな、ウルルンの泉の水で回復薬を作ると効果が高いんだ」

「そうなんですか?」

「エルヒューレ産の回復薬は効果が高いと評判だぞ」

「ハハハ、亀さんスゴイッスね」

「ハル、入るぞ」

「ん」


 リヒトがハルを抱っこして湯舟に入って来た。やっぱハルちゃん最初の頃よりお腹が出ている。ルシカの飯は超美味いと言いながら食べ過ぎているんじゃないか?


「ふゅ~、気持ち良いなぁ~」

「ハル、亀を助けたのか?」

「ん? あのでっけー亀しゃんか?」

「そうだ。ウルルンの泉にいる」

「フィーれんかと一緒に乗りゅんら。おともらちら」

「え!? ハル、亀に乗るのか?」

「長老、そうなんですよ。フィーリス殿下と2人して乗って城の中庭を闊歩しているんですよ」

「ハッハッハッハ! 水神の使いの聖獣に乗るか!?」

「らってシュシュにも乗りゅ」

「まあ、そうだな」


 おや、今日はシュシュが入っていないな。


「シュシュの奴、今日は風呂だというとバックレたんッス」


 ああ、逃げたらしい。


「せっかく綺麗にしてあげるのに」


 シュシュは風呂が嫌いらしい。と、いうかルシカとイオスの洗い方が嫌なのだと思うぞ。お湯を顔面から容赦なくぶっかけるから嫌がるんだ。


「洗ってやろうと思ったのに」


 だからだね、イオスとルシカは確信犯だろう? 面白がっていないか? ルシカまで。


「もっしもっしかぁめよ~ かぁめしゃぁ~んよぉ~♪」


 風呂場にハルちゃんの歌声が響く。うん、やはり絶好調だ。

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