40話 普通のおじさん、努力おじさん。

「ステータス、オープン」


 キミウチシガ

 レベル:29

 体力:B+

 魔力:B+

 気力:A+

 ステータス:やや高血圧、心は若者

 装備品:一般的軽装備(高い)、軽装靴(やわらかい)、サバイバルナイフ、業物剣

 スキル:空間魔法Lv.4、解析Lv3、短剣Lv5、気配察知Lv3、隠密Lv3、冷静沈着lv4、魔獣召喚Lv4、

 格闘Lv2、君内剣Lv5、火魔法Lv3、水魔法Lv3、風魔法Lv3、土魔法Lv2、魔法糸Lv3、高速移動Lv1

 固有能力:超成熟、お買い物、多言語理解、限界突破、能力解析、並列思考

 レベルボーナス:自然治癒(弱)、身体強化(弱)

 称号:異世界転生者


 久しぶりに確認してみてみたが、そろそろレベルボーナスがもらえそうだ。

 新しく高速移動が追加されている。

 おそらくビービーのおかげで習得できたのだろう。


「シガ様、瞑想ですか?」

「ああ、エヴァと時間を潰していてくれ。考えたいことがある」


 小川の近くで、私は思い出していた。

 エヴァを襲った二人組のことだ。


 彼らは私より強くはなかったのかもしれないが、戦闘に慣れていた。

 特にギリという男は、変身後、凄まじい速度と硬度だった。


 業物の剣を頂いたが、使いこなす為には色々と必要なことがある。


 それは――。


「さて、どうなるか」


 私は剣を構えた。

 前には大きな岩がある。普通に切れば当然刃こぼれするだろう。


 だがそうじゃない。

 

 剣を自らの腕、手、身体だと思い込み魔力を流し込む。

 そうすれば自ずと切れ味がよくなる、はず。


「いくぞ――」


 そして私は、大きく振りかぶ――。


「……いや、待てよ」


 冷静になる。もしこれで失敗したらせっかく頂いた剣がポッキリ折れてしまう。

 するとどうする? 私はメンタルよわよわおじさんだ。


 凹むことは間違いない。


 きっとアロンアルフアではくっ付かない。


「……やめよう」


 よし、まずは木の棒からだ。


 そして対象も岩じゃなくて木にしよう。


 ちょっとアニメや小説の見過ぎだったかもしれない。


 おじさん――反省。



「さて、二度目の正直だ」


 そこそこ手に馴染む木の棒を構える。

 目の前には大木、私の理論では、問題なく叩き切れるはずだ。


 呼吸を整えて、目を瞑る。

 このほうが魔力の流れをより認識することができるのだ。


 腕から手、そして指、最後に木の棒に流し込む。


 そして――。


 ――コン。


「……あれ?」


 木の棒はそのまま大木にぶつかるも、特に何もなかった。

 これではただのわんぱくおじさんだ。


 何が……何かが足りない……。


 そうか、わかったぞ。


 私はエヴァを助ける時、ククリと共に戦う時、もっと集中していた。


 それを思い出せ。


 ――再び木の棒を構える。


 そして――振りかぶる――。


「――ズドオオオオオオオオオオン」


 すると木の棒は凄まじい破壊力で、大木をなぎ倒した。

 その音は耳をつんざくようだった。

 そしてその威力がみてわかる。なんと大木が、根っ子から抜けてしまったのだ。


 上部で羽を休めていたであろう鳥さんたちが慌てて避難する。

  

 ……申し訳ない事をした。


 その時、遠くから声が聞こえた。

 ククリが、エヴァが、私の名前を叫んで向かってきている。


 私はなぜか咄嗟に木の棒を隠した。

 ただの木のを。


「シガ様、何があったんですか!? え、な、なんですかこれ!?」

「大木が、倒れてる……」


「え、ええと……と、特訓だ。特訓をしていたんだ。そして成功したのだ」

「……これをシガ様が? もしかしてですけど、その後ろにサッと隠した木の棒でですか?」


 思い切りバレていた。恥ずかしい。

 

「あ、ああ。そうだ。魔力を通わせたらどうなるのかなと思ってな」

「……シガ様、人間をやめるおつもりですか?」

「やめる……とは? どういう意味だ?」

「シガ、規格外」


 難しい単語を知っているエヴァはさておき、ククリは本当に驚いていた。

 私はこの世界の常識をあまり知らない。


 そしてどういう意味か教えてもらった。


「そんなに難易度が高いことなのか?」

「はい。確かに過去、剣や武器に魔力を通わせて戦う人はいました。でもそれは伝説や偉人だけです。シガ様は、そのレベルってことですよ」

「はは、ははは」


 軽く苦笑いをしてしまう。

 そ、そんなに凄いのか。


 正直、ぽっと思いついただけなのだが、ククリの目が真剣だ。

 もしこれを業物の剣でするとどうなるだろうか。


 ……それは、私が想像してもとても恐ろしく感じた。


「まあでも、シガ様はむやみやたらに剣を振りかざすことはないですもんね。といっても、努力しすぎは厳禁です! 世界が壊れちゃいますから!」

「シガ、世界を壊す」


 まさかの努力禁止を言い渡され、私は肩を落とした。

 少年漫画を好み、愛してきた私にとって、汗を流し未来を見据える尊い行為だ。


 だが、危険だ。


 思わず右手を見る。私の力は強大すぎる。


 これはまさに野獣ビースト


 私の内なる力が、いま解き放たれようとしているのか?


「シガ、また自分の世界に入ってる」

「たまにあるんですよね」


 そんなこんなで私は新しい能力を手に入れた。


 固有能力:魔力付与。

 少し調べてみたところ武器に属性を付けることも可能みたいだ。


 色々と試してみたいが、まあのんびりでいいだろう。


 あくまでも私は、この世界を楽しみたいだけだ。


「もうすぐで次の国、ストラストだ。水が多い街と聞く、楽しみだな」

「ええ、楽しみですね!」

「冒険者として、初めての街!」

「そうか、そうなるな。よし、到着したらお祝いだ」


 エヴァは出発する前、冒険者登録だけ済ませておいた。

 急いで出たので貴族との繋がりは残念ながら消えてしまったが、また一から始めればいい。


 三人での初依頼も楽しみだ。


 さて、どんな出会いが待っているかな。

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