27話 普通のおじさん、禁忌を犯す。

「シガ様、エイヨウドリンク凄かったですね!」

「すごかった。シガに負けた……」


 ククリが私を褒めてくれる。いや、栄養ドリンクをか。

 そしてエヴァは、なぜか私にライバル意識を燃やしている。


 いや、確かに私の魔法だが、私は何もしていない。


 そしていつの間にか名前呼びしてくれている。距離が縮まってくれたようで嬉しい。


『これ……いいんですか?』

『ああ、だが……その、これは秘匿のものだ。できればその……言いふらさないで何かあった時に二人に飲んでほしい』

『もちろんです。命まで助けて下さり、こんな大切なものまで……ありがとうございます!』

『本当にありがとう』


 結局、ミルには二本の栄養ドリンクを渡してきた。凄いポーションと考えると聞こえはいいが、もし誰かにそれがバレてしまえば危険なことになるかもしれない。

 あまり多すぎるのもどうかと思い、念の為に二本だ。


 空間魔法に収納し、確認すると栄養ドリンク8本、と記載されている。


 ……もし販売すれば、凄い値段になるだろうな。


 お金はありすぎて困るということはない、だが効力が良すぎると、私たち自身に危険が及ぶ可能性もある。

 製作者だと思われると更に厄介だ。いや、正しくは違うし、そうといえばそうだが。


 ……少し考えものだな。


「ククリ、この世界にポーションについて教えてもらえないか。前に訊ねたと思うが、歳を取るとすぐ忘れてしまってな」

「はい、下級、中級、上級、特級があります。私は下級しか飲んだことないので判断はできないですが、おそらく……エイヨウドリンクは特級クラスではないかと」


 なるほど……だがもう一つ、聞いておかねばならないことがある。


「ちなみにだが、その特級の値段はわかるか?」

「国によって税が違うので差異はありますが……100万ペンス、という話も聞いたことはあります。主に騎士や貴族が持っているらしいですが」

「ひゃく……」


 栄養ドリンクワンケースは、10本入りで2000円。

 現地値段で販売し、Nyamazonにペンスを戻したとしても一本、10万円……。


 それだけあればいいもがたくさん買えるな。


「ただ、特級ポーションは非常にレアなので、爵位持ちでもない私たちが販売なんてしていると……」

「ああ、もちろんわかってる。ひとまずこれは保留にしよう」

 

 この世界の命の値段は軽い。

 後ろ盾のない私たちが販売してタダで済むとは思えない。


 情報を集めることはするが、様子見だ。


 だが、後ろ盾ができれば……。


 私たちは、この世界でとんでもないお金持ちになるかもしれないな。


「ふふふ、ふふ、ふふふふふ」

「シガ様、どうしたんですか? 壊れたんですか?」

「シガ、壊れたー」


 ああ、異世界はやはり楽しいな。


 ▽


 船着き場に到着。

 地図の通りでホッと胸を撫でおろす。

 想像していたよりも人が多くてびっくりした。

 所謂、港町みたいなのもあるが、小規模のようだ。


「凄い、凄いですねシガ様」

「ああ、確かにな」


 一番驚いたのは、船の大きさだ。

 歴史の授業で見た「ガレー船」に近い。海賊が乗ってそうな雰囲気もあるな。

 元の世界と比べると随分と古いとは感じるが、これはこれで楽しみだ。


 ふと隣を見ると、私よりもククリが目を輝かせていた。


「もしかして船を初めてみるのか?」

「はい、ずっと森に住んでいたので」


 そういえばそうか、地図を見た感じでも海自体がそもそも少ない世界ではあった。

 とはいえ、正確ではないらしいが。


「シガ、これに乗るの?」

「その予定だ。売店はないだろうから、食料を揃えておくか」

「ばいてん?」


 ああ、そうか。わかるわけがないか。

 幼い頃、船に乗ったときはお菓子を食べていた気がする。

 やることがなくて暇な時のお菓子ほど美味しいものはない。


 となると……そろそろ解禁もありか。


 私の中のビーストが抑えきれないくなるのが怖く、封印していたが……。


 我慢の限界だ。


「ククリ、エヴァ、覚悟はいいか?」

「え、いきなりどうしたんですか? シガ様」

「シガ、どうしたの」

「先に……約束してくれ。決して、ハマ・・らないと」


 私の問いかけに、二人は顔を見合わせた。わけもわからず怯えている。

 いや今回ばかりは怯えさせているのだ。


 そのくらい……心配なんだ。


「よくわかりませんが、大丈夫ですよ」

「シガ、大丈夫!」

「……わかった」


 そして私は、船から離れた場所でNyamazonを詠唱した――。



「シガ様、もう一袋だけ食べませんか?」

「シガ、足りない」


 手に油をべっとりとつけた二人が、私に詰め寄ってくる。

 頬には、お菓子の食べかすを付けている。


「シガ様、明日の鮭おにぎり我慢するので、もう一つだけ」

「シガ、食べたい」


 ああ……ああ……そして私は……もう一袋をとりだす。

 するとまるで暴徒のように、ククリとエヴァが群がってくる。


 ものの数秒で取られ、パァンと音がして開いた。


「シガ様、この世のものとは思えないほど美味しいです……」

「美味しい……美味しい……」

「そうだろう。これが嫌いな人類は存在しないんだ」


 世界最高峰のお菓子【ポテトチップス】。


 これは、人類が生み出し禁忌である。


「……美味しいですシガ様、もう一袋だけお願いします」

「シガ、食べたい」

「ダメだ、やめてくれ、もう私に誘惑しないでくれ」


 コンソメ、のり塩、関西だし醤油、幸せバター、しょうゆマヨ。


 ああ、ダメだ。


 ダメダアアアアアアアアアアアアアアアアアア。


 この日以降、私たちにおやつの時間で設けられた。


 当然、【ポテトチップス】は欠かせないものになったのだった。


 それも、食後に。



「シガ様、このおすすめにある【コーラ】ってなんですか?」


 やめろ、やめてくれ。


 やめてくれ、ククリイイイイイイイイイイイイ。



 ――ポチ。







 

 



 

 


 







 

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