12話 普通のおじさん、次の国へ向かう。
一ヵ月後――。
妖魔の森からほど近い洞窟。
暗がりの中、魔狼十体が、縄張りを荒らされたことに憤慨していた。
私とククリは余計な会話もせず、目くばせのみで意思疎通した後、同タイミングで駆ける。
「ガウッガウウウウ!」
「――
手の平から粘着性の糸を地面に放つと、まるで網のように離散して静かに付着する。
魔狼は生来力が強く、俊敏性ににも優れている。。
牙は鋭く、噛まれると肉だけではなく骨にまで到達する。
だがそれは、踏ん張りの利く地面がある場合のみ。
先頭で駆けていた数体の魔狼の前足に糸が絡むと、すぐに足が止まる。
長い間拘束できるわけでないが――命を絶つには十分だ。
「今だッ! ――はぁっ!」
「ハァアッ!」
私は左を、ククリは右の魔狼の首を切断した。
だが私だってバカじゃない。
「――
敵を分断、メラメラと赤い壁が出現し、私とククリの姿が分かれて視えなくなる。
だがこれはあえてだ。
炎が収まった時、全ての魔狼が首だけがない状態で転がっていた。
「……情報と違うな」
「そうですね、ですがよくある事です。牙だけ取ってNyamazonに放り込みますか?」
だがその時、気配察知が反応する。
奥からのそりと現れたのは、通常の魔狼の二倍、いや三倍はある大型だった。
なるほど、こいつがそうか。
「ククリ、時間はかけたくない」
「わかりました」
洞窟内部を隈なく調べたわけではない。他にも魔狼がいて囲まれてしまえば危険だ。
私は、先日覚えた魔法を詠唱した。
『身体強化』だ。ククリ曰く一度しか掛けられないらしいが、限界突破という魔法も覚えたのだ。
それにより、私は五回以上付与することが可能になった。
先手を駆けたのはククリだった。自ら囮をしてくれる勇気に感服しつつ、足を溜める。
「ガアアアアアアアアアアアアウッッッ!」
初撃の鋭い爪を防いだククリの後ろから、私は瞬時に近づくと、腕にすべての魔力を漲らせ一撃で首を落とした――。
キミウチシガ
レベル:20
体力:B
魔力:B
気力:A
ステータス:心臓高鳴る、溢れる高揚感、勝利の雄たけび
装備品:一般的軽装備(やや高い)、安全靴(やや硬い)、サバイバルナイフ、ロングソード
スキル:空間魔法Lv.3、解析Lv2、短剣Lv4、気配察知Lv3、隠密Lv2、冷静沈着lv3、
魔獣召喚Lv3、格闘Lv2、君内剣Lv4、火魔法Lv2、水魔法Lv2、風魔法Lv2、土魔法Lv2、魔法糸Lv2
固有能力:超成熟、お買い物、多言語理解、限界突破、能力解析、並列思考
レベルボーナス:自然治癒(弱)、身体強化(弱)
称号:異世界転生者
ククリ・ファンセント
レベル:14
体力:C+
魔力:B
気力:B+
ステータス:高揚感、やや緊張気味
装備品:C級軽防具(高い)、鉄の剣、綿の白下着
スキル:魔法Lv:0、格闘Lv:4、料理Lv:3、剣術Lv:4、隠密Lv:2、気配察知Lv:2、
固有スキル:パーティーボーナス、超成熟恩恵
▽
冒険者ギルド、隣接された酒場の連中が、私とククリを視ていた。
以前は彼女に対して冷評な視線を送っていた連中も、今は全く真逆、尊敬と畏怖が合わさった複雑な表情を浮かべている。
私たちは強くなった。過度な自信ではなく、他人からみても間違いなく。
酒場で飲んだくれている冒険者はもはやククリに敵わないだろう。
驚いたことにククリは私よりも努力家だ。
寝る間も惜しんで剣を振り、二人で何度も仕合をした。
スキルの手助けをもらっている分、私のほうがズルい気がするが、それでもククリは私を肯定してくれる。
本当になくてはならない存在だ。
「これが大型魔狼の牙で、こちらが通常個体のだ」
「もう……ですか!? 昼に受注した依頼を……こんな早く……あ、すみません! すぐにお支払いします!」
「頼む、それと今日でこの街から出る。――色を付けてくれると嬉しいな」
ニヤリと微笑むと、顔なじみの受付のお姉さんが笑う。
「わかりました! 任せてください! でも、シガさんがいなくなると寂しくなりますね。ククリちゃん、また遊びにきてね」
「はい! もちろんです!」
シャンプー&リンスの売れ行きは好調だった。
おかげで私が思っていた以上のまとまったお金が入っていた。
次の国の名前は『オストラバ』。
今より大きな国ではあるが、それ故にさらに大勢の人種がいるらしい。
楽しみもあるが不安もある。
貴族についてはビアードから話が通っているらしく、『ギール』という方を訊ねる予定だ。
換金を終えると8等級に昇格した札をもらって、ギルドを後にした。
夕方、私たちはビアードに別れを告げて馬車に乗り込んだ。
相乗りも可能だが、幸いなことに貸し切りだ。
「この国最後の食事も鮭おにぎりでいいのか」
「はいっ! 最高ですよお、美味しいはうう……」
「ククリ、次の街の近くにはダンジョンとやらがあるらしい。情報収集を終えたら行ってみないか」
「はいっ! もちろんです!」
私たちはゆらゆらと馬車に揺られ、頬にご飯粒を付けているククリを眺めながら、次の国へ向かった。
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