Whispers of Reconciliation

忽那 和音

プロローグ

 ピピピピ……。ピピピピ……。ピピピピピピピピ……。


 目覚まし時計の電子音でんしおんが鳴り響き、二度寝したいながらも、布団の中に入っていた右腕を体ごとねじりながら、頭上とうじょう近くにある目覚まし時計の電子音を止めようとボタンを押した。

 この時計の悪いところは、横のスイッチを日付表示ひづけひょうじの位置までずらさないと、五分後には再び音が発生してしまう。なので、横のスイッチが表示位置ひょうじいちまで動いたか確認するのは毎日の日課だ。


 起き上がりベッドの上を整え、寝巻のまま洗面所へ向かった。

 前髪をバンドで束ね上げ、ソープで洗顔をする。その後、さっぱりタイプの化粧水、乳液を優しくしみこませる。歯を磨き、最後に腰まである銀髪に癖毛くせげ混じりの特徴を持つ髪を整えた。

 癖毛は手入れに少々手間がかかる。毎日、コンディショナーやトリートメントをつけなければ、翌日には広がってしまうからだ。そして、朝には癖毛直しのスプレーも欠かすことができない。腰まであるロングの癖毛は髪同士で絡まないようによく梳かさなければならない。


 再び、自分の部屋へ戻り外出用の服装へ着替え身支度みじたくを済ませた。

 ここまでの朝の身支度は終了まで二十五から三十分ほどかかる。


「おはよう、ございます」

 小さい声で話をかけた相手は、台所で朝ご飯を作っている男性だ。

「あ、起きた? おはよう! 希和ちゃん、お箸とか出しといて」

 彼はピエール・ド・アズナヴール。三十一歳。ブラウンカラーの短髪。黒と茶色の瞳が特徴の男性。イギリスのフォーブル大学医学部医学科を卒業。現在は陰光いんこう大学医学部付属病院・脳神経外科のうしんけいげかで勤務している。

 朝食作りはピエールが担当しているが、それは簡単に焼くやレンジで温めるものがほとんどで、他の工程を行っているのは同居している少女。

 彼女は、閏間うるま 希和子きわこ。十歳にも関わらず、陰光大学一年生だ。二年生までは教養科目きょうようかもくとして、リベラルアーツ学群がくぐんに全生徒は所属となる。将来的には、ピエールと同じように医師になろうとしている。

 しかし、希和子はまだ未成年のため、成人男性と同居というのはまだ早すぎる歳。

 この状況になったのは、彼女の身勝手みがってさにあるが、結果論けっかろんとしてはこうするしかなかったとして、希和子の家族や学校側。そして、ピエールからは了承されている。

 当然、いかがわしい関係にはなっていないが、研究目的でぎりぎりな接触となるようなことも多々あり、周りが心配して少々監視されるようなこともある。


「\\\\\\いただきます//////」

「う~ん! 我ながら完璧だね。どう? おいしいでしょ」

「私が味付けしたからおいしい」

「も~、そこは僕のおかげだねと言おうよ」

「それよりも、今日は学会なんでしょ」

「あー! そうだった。早く用意を……うっ……」

「ご飯食べてからでいいじゃん、ピエール。お行儀ぎょうぎわるい」


 希和子は人見知りながらも、ピエールと和気藹々わきあいあいと生活をしている。


「\\\\\\ごちそうさまでした//////」


 二人は片づけをした。


 出かける直前、ピエールは希和子にあることを話した。

「あ! 希和ちゃん。もうすぐ、派遣はけんされたチームで特別に研究することがあって遅くなるから、その時は連絡するね」

「そうなんだ。大学側で?」

「そうだよ。あっ、そういえば、希和ちゃんと同い年の子もいたかな。中学一年だったと思うけど」

「ふーん」

「いつか会えるといいね」

「いや、絶対。話合わないから。私と会わない方が幸せだと思う」

「まぁ、まださっきの話だから。あ! 研究室に来ても……」

「それはいい!」


 気まぐれと自己中心的じこちゅうしんてきな生き方をしている。それは、自分を傷つけさせないためでもあるけど、他人を気づつけさせないためでもある。

 でも、この状況を見ると、やっぱり私は誰かに迷惑をかけている。

 けど、過去の私を後ろめたくは思わない。考えても、考えつくしても、あの時の私には家を捨てるという方法しか、私の新しい居場所を作ることしか方法が無かったから。

 だから、私は今のこの生活と人生を自分なりに精一杯生きる。


 希和子とピエールはともに家を後にした。

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