第10話
「アニキっっっーーーーー!!!!!」
「なっ!?」
僕の目の前に現れたその男の子は、ここから遠い場所へと飛ばしたはずの、アジトで助けた子だった。
どうやって、なんで僕を助けに、頭に思い浮かべる疑問や分からない事は多々あった。
でも助けに来てくれた事は分かる。
ならやる事は一つだ。
「アニキ早く……って乗るのはや!?」
「助けに来てくれたんだろ! サポートするけど今はお前だけが頼りだ。頼む!」
「……うん!」
男の子が何か言う前に乗った僕がそう急かすと、彼は少し嬉しそうに馬を走らせる。
(この黒煙は魔力探知を妨害しているのか)
反国家組織に関する情報でもあった避難用の黒煙。周りの黒い煙が魔力の壁代わりになっていて、魔力探知がしづらくなっている。
それをいい事に風魔法を馬に纏わせる。これで速度は上がるが、魔力を使いすぎると黒煙の中でも感知されるので、ギリギリバレない程度の魔力量にする。
倒れた怪物の背中を頼りに、黒煙の中でその背中の上を走っていく。男の子の馬の扱いは慣れた物で、僕のサポートがあるとはいえこんな場所をなんの躊躇もなく進んでいく姿には頼もしさがあった。
「周りの兵士達は……まだ混乱しているようだな」
「アジトで教えられた特別な撹乱だからね。すぐには収まらないよ」
黒煙の外から聞こえる兵士達の困惑した声。それで僕達は少しだけ安心するが──
「ッ!?」
困惑した声の中から僅かに聞こえた切り裂くような風の音。それに反応して剣を抜刀させながら背中へ大きく振る。
「逃がさないわよ魔王カイト!」
その直後に、黒煙を突き破ってきたクレアが僕めがけて剣を振るってきた。横から振るった剣と相手の縦から振るった剣が金属の音を鳴らしながら、しかしこちらの力がまさってクレアを押し返す。
視界が悪すぎる黒煙の中、クレアからすれば自分の居場所も分からない上に相手の居場所も未知数。
魔力もこの特別な撹乱用の黒煙で探知できないし、馬の音も周りの兵士の声でかき消されているはずだが……
(相変わらずの化け物具合だなクレア)
敵としては厄介、しかし魔王を相手にするならとても頼もしいので嬉しくもある。
でもクレアの攻撃に気付くのが遅れたせいで別の問題が出てしまった。
「子供がなんでこんな所にいるの!?」
(クソッ、見られちまった!)
攻撃を防ぐまではいいが、馬を操っている男の子まで意識を回す事はできなかった。
防ぐ事に精一杯だった僕はクレアが男の子を見てしまうのを許してしまう。
目を見開いて驚くクレアの隙をついて、魔力を使って馬をさらに加速させた。ただでさえ早かった馬が加速して風のようになり、すぐ後ろにいたクレアも黒煙に吸い込まれるように離していく。
「アニキ、今のはもしかして……」
「今は脱出することを最優先だ。全力でこの街から逃げろ!」
この街はすでに避難を完了しているはずだ。その予想通りに僕達が黒煙を出ても、その先は誰もいない殺風景な街だった。
馬も人が追いかけられるほどの速さは無く、追手も来ないまま町を出て、さらに遠くの森まで逃げ切ることができた。
「なぁ」
「何、アニキ?」
「ありがとな、助けてくれて」
「……そりゃあ人助けは当たり前だしね!」
草原が月の光に照らされている中、男の子の笑顔は満開だった。
⭐︎⭐︎⭐︎
そして黒煙が消え兵士達の混乱も収まった頃、一人の兵士が館から出てきたクレアを見た。
いつも暗い表情を表に出さない彼女には珍しく、思い詰めた表情をしていた。
何か不可解なものを見たような、認めたくないものを見たような。彼女の顔を見た兵士はそう感じた。
しかしこのまま話しかけない事はしない。
館の地下で発見した二人について話さなければならないのだから。
「戦勇者様、お怪我は大丈夫ですか?」
「……あ、ええ。大丈夫よ。何発か喰らっちゃったけど戦いに支障はないわ」
心配そうに声をかけてくる兵士に、自分の不甲斐なさに苦笑いをするように返答するクレア。だが兵士から見た彼女は、戦いの直後だと言うのに体の乱れを感じ取れない。
よく見れば戦う前に整っていた彼女の髪の毛はボサボサになっていて、所々燃えた後もあり戦いの激しさを表していた。
その反面、鎧の方は輝きを失うことも無く傷一つ付いていない新品同様の姿をしていた。鎧を着ているから分かりづらいが、呼吸や体の揺れ方から見ても彼女には余裕があると見える。
「そうでしたか。それで戦勇者様、地下で助けた少女二人について報告が……」
「ああその事ね。貴方達が助けてくれなかったらあの子達は犠牲になったかもしれないわ。ありがとう、でも報告って言うのは? まさか大怪我でもしたと言うの?」
「いえ、そんな事はありません。戦勇者様が守って頂いたおかげで無事救出することが出来ました。しかし……」
「しかし?」
そこで兵士は口を紡ぐ。さっき言った通りに二人は怪我なく保護しているがそこまではいい。
問題なのはその片方についてだ。
魔王復活の予言から長い時間が立ち、国が総力をあげても見つからなかった勇者と双璧をなす存在。
「恐らくですが、救出した二人のうち片方は、聖女様の可能性があります」
「なっ……!」
長い時間と大きい労力を使っても見つけれなかった存在が、呆気なく予想だにしないところから発見された時だった。
⭐︎⭐︎⭐︎
「どうやって俺がここにいるって分かったんだ?」
「会った時言ってたでしょ、スタイバ町に用事があるって」
「あぁ……言ってたな。それでわざわざヴァルハラ城から来たのか?」
追手が来てないのを確認した僕達は森の中で焚き火をしていた。目の前の男の子が取ってきてくれた、串をさして焼いた魚を掴んで食べる。……自分が作ったやつより美味しい。
男の子と一緒に焼き魚を食べた僕は彼が連れてきた馬を見る。パッと見でも分かるほどとても上品に仕上げられている。一体どうやって手に入れたのか。
「アニキがくれたお金を全部使った。それが一番早く着く方法だったし、アニキは魔王名乗っちゃったから大金は必要ないでしょ?」
男の子に聞いてみたらあっさりと教えてくれた。転送されたすぐ後に近くの町によって、そこで一番早い馬を買ったとか。子供相手に売って良いのかと思ったが、そこは僕があげた大量のお金で黙らせたらしい。
いや行動が早いな。
全く知らない場所に放り込まれたはずだ。放り込まれた男の子からすれば周りは未知だらけ、普通ならそれだけでプレッシャーが掛かってまともに行動できないと思うが……。
そこまで考えて自分が想定している前提が違う事に気づいた。
(この子は普通じゃ無い。アジトで教育された、それも精鋭クラスの暗殺者だ)
アジトの暗殺者は、時に遠く離れた標的を始末するために、一人旅をするらしい。もちろん近くの支部から刺客を送り込むのが普通だが、暗殺の難易度によっては遠い所にある支部の精鋭を送る事もあるだとか。前にクレアとロイに聞いた事だ。
それなら野宿の仕方なんて知っているだろうし、馬の乗り方や必要な道具の調達の仕方、捜査される時に足跡を残さない方法など、色々身につけているはずだ。
そしてスタイバ町で兵士たちを錯乱させた行動力。
間違いなく能力は高いとみて良いだろう。
(でもこの子は暗殺者の技量はあっても、まだ子供だ。とにかくこの子をもう一度戻さないと)
今回は助けてもらったが、それとこれとでは話は別だ。
ヴァルハラ王国に転移できる石はもう無いから、近くの村に下ろさないと行けない。勇者に見られたとはいえまだ一回だけ、あくまで洗脳された事にしておけば返す事ができる。
そう考え込んでいたら話しかけて来た。
「アニキ、また僕を返そうとしてるでしょ」
「……まあそうだな。お前がついて行きたいと言う気持ちは分かるけどそれでもこの旅は危険すぎる」
前にも言ったがこれから行く場所は屈強な冒険者でも油断すれば死んでしまう魔境だ。しかもそんな場所で準災害級の化け物と戦わなければならない。
人類側の最強の力である光の魔力を持ってようやく準災害級と半々で勝てるかなんだ。いくら精鋭といっても暗殺者、いや子供である男の子にこの旅は危なすぎる。
「それだけじゃ無い。僕と一緒に来ると言うことは世界を敵に回すと言う事になるんだぞ」
ヴァルハラ王国は世界でも力を持っている国だ。そんな場所で、しかも兵力の中心である王城でロイが殺されて王様が殺されかけたとなれば、他の国達も魔王退治に行動を移す。
しかも大勢の人間から追い詰められるのに、人類のサポートは一切無い。必要な物は店で買えず食料や回復アイテムも全て自然から自分達で調達して行かなければならない。これは精神をすり減らす様な旅だ。
その事は男の子も承知しているだろう。だがこんな旅に何の罪も無い子供を巻き込む気にはなれなかった。
「分かってる!」
「分かってない! お前は自分から死にに行く様なことしてるんだぞ。何でそこまでについていきたがるんだ!?」
「もう置いていかれるのは嫌なんだ!」
「───」
段々声が大きくなった僕の声を悲痛な叫びがかき消す。反発することや声を荒くする事はあっても、男の子から泣きそうな声を聞くのは今まで無かった。
(……置いていかれるのは、いや、か)
懐かしくて、悲しくなるから思い出したくない、僕を変えたくれたあの時の風景が脳裏を過ぎる。
結局の所、生みの親は居なかった僕だけど、育ての親はいた。もちろんクレアの両親だ。
最初に光をくれたのはクレアだ。でもそこから闇いっぱいの視界を開いてくれたのは両親の二人だった。家事の手伝いをしていた時、クレアの家で話し合ったりちょっとふざけたりして笑った日々。
今まで知らなかった暖かさ──前世の記憶でやっと名前がわかった──家族愛に触れた僕は、凍り切った僕の心を溶かしていってくれた。
大切な物をくれた大切な人達。それがクレアの両親、育てのお父さんとお母さんだった。
「お父ちゃんもお母ちゃんも僕を置いてった! その後も酷いことばっかだったけど、ようやくアニキに会った。僕が生きたいと思える大切な人にやっと会えたと思ったのに……!」
でもそんな大切な人達は呆気なく失ってしまった。
両親を失った僕はもしかしたら自暴自棄になって、その勇者の力で誰かを傷つけたかもしれない。でもそうはならなかった。僕の隣にはクレアがいてくれたから。
『クレア……僕は強くなる。魔物が来ても倒せるくらいに、人を守れるくらいに。二度と、こんなことが起きないように!』
僕にとってクレアも光をくれた人、大切な人だ。だから二度と失わないために誰よりも強くなるんだと前に進む事ができた。
(……でもこの子は違う)
僕の大切な人がクレアや両親の様に、彼の両親がそれだ。
そして僕と同じ様に、まだ子供の頃に大切な人達を呆気なく失ってしまった。
そこからの違いは大切な人がまだ残っていたか、いなかっただけか。
魔物によって壊された日常が戻る訳もなく、生きる活力も失って惰性と生存本能でダラダラと生きていく。その矢先にアジトでの洗脳。
ここまでされたなら普通自殺する。いや実際に死のうとしたんだろう、その結果が山で初めて出会ったあの時だ。
なら何でその後に自殺しようとしなかったのか?
その理由もわかっている。そこまで僕も鈍感じゃない。
(両親が亡くなって彼が一人になった時に、川で僕が助けたからだ)
大切な存在が消えて、人格を否定される様な事を受けたり、悪行をさせられようとしたり、そんな絶望の中で、孤独になった彼の心の世界に僕が入ってきた。
最初は偶然だった。
もし僕があそこで野宿をしなかったら、もしこの子が流れてくるタイミングがズレていたら。きっと彼は死んでいた。
でもそうはならなくて、川で助けた後で、アジトでまた助けた。野宿した時も時間は僅かだったけど、クレア以外で久々に、心置き無く話せた気がする。
状況も環境も違うけど、野宿や馬で一緒に乗ってた時の空気はまるで、クレアとクレアの両親達と楽しく話していたあの家庭の様だった。
(……あ)
そこでようやく気づいた。さっき鈍感ではないと言ったのは何だったのか。
心の中で言っておきながら、その中身までははっきり理解できなかった。でも今は違う。僕の過去と彼の今を比べてようやく気づけたのだ。
(僕がクレアに光を見出した様に、この子にとってのそれは僕なんだ)
今更、見出せた答えに体が重くなるのを感じていく。
「お父ちゃん達が死んでから生きていていい事はないと思ってた! あそこは痛い事しか無かったし、お母ちゃんの約束破って人殺しもしようとした!!」
男の子が僕に抱きついてきた。だが僕と目を合わせようとせず顔を下に向けたまま。体も震えてて、火の音に紛れて水の音が聞こえてくる。
「そんな事があったけど、でも……あの時嬉しかったんだ。アニキを助けれた事、アニキにありがとうって言ってくれた事」
声もだんだん震えて行く。まるで置いていかれるのを怖がっている子供の様だ。
──もしあの時の自分から、クレアが離れていったら耐えられるか?
もちろん出来るはずがない。そしてこの子は昔の僕だ。今僕がやろうとしている事は絶対に受けいられないとわかる。
助かる助からないの話じゃ無くて、この子には僕しかいないんだ。この子の閉じ切った心の世界を開く事が出来るのは僕だけだ。
「…………」
「だから……っ」
男の子の声が詰まって静かに後ずさる。僕のだんまりを、男の子は返すつもりだと解釈した様だ。
「ほら、アニキ俺。アジトで色々教えられたからさ……野宿の仕方とか視察とか人殺しとか、色々出来るだ。道具として使っていいからさ……」
僕に目を合わせず段々と小さくなる声、今にでもどこかへ消えて行きそうな声が僕の耳に届く。
この子をここまで追い詰めたのは自分にも原因があると分かった僕はもう一度男の子を見つめる。
改めて思うが昔の僕にそっくりだ。外見や年齢も違うが、この感じはクレアに出会う前の僕だ。
それならこの子の世界を開く方法は簡単だ。彼女と初めて出会った、あの時の様にすればいい、
「それに……いてっ。何すんだよう……」
そう懐かしさを思いながら、話している男の子にデコピンをした。
「……分かった。観念して旅に連れて行く、町に戻すのはなしだ」
「! いいの「あと!」……何?」
「それよりも先にやらなきゃいけない事がある」
僕は手を差し伸べた。いきなりの行動に困惑している彼をみて苦笑いしながら昔話をする。
「僕も昔は一人ぼっちだった。その時に親友がしてくれた事でさ、お陰で今の僕がいるんだ。それに、お前はすごい奴さ。たった一人で国の精鋭を潜り抜けてきたんだぞ。けっして道具なんかじゃ無い」
それに、とつけて話を続ける。
「お前と話してた時はなんか、久々に楽しいって思えたし、だから──」
そう。
僕がクレアに救われた様に。今度は僕が救う番だ。
そして僕が救われたあの時に彼女は、手を差し伸べてこう言ってくれた。
──友達になろう──
「…………うん! う、ん。なる……なるよ!!」
男の子は今まで塞き止めていた壁が崩壊した様に涙を流しながら僕の手を掴んだ。
⭐︎⭐︎⭐︎
「ごめんアニキ泣きついちゃって。……あまりにも嬉しかったもんでさ。服ベチョベチョになって無い?」
「問題無い。お前には美味しい魚を用意してくれたしな、これぐらいどうってこともないさ。それに魔術でほらっ」
「おぉ。サラッと無詠唱で」
服についた涙を片手で軽く触り魔術で拭き取る。
あの後抱きついてきた男の子は長い間動かず、僕も同じように泣き止むまでじっとしていた。
数分たってようやく収まり、今は彼がとってきてくれた食料で食事の続きをしていく。
「さっきはああ言ったけど、旅が危険なのは変わらない。もしダメだと判断したら嫌でも返すからな」
「分かってるぜアニキ。アニキの邪魔にならないようにするからさ。でもサポートなら任せてよ、自信はあるぜ!」
「そうか。それは期待できそうだ」
さっきよりもずいぶん明るくなった彼をみてこちらも少し笑みが溢れる。
一応旅には連れて行く方針になったが、優先順位を変えるつもりは無い。何事も命あっての事だ。さっき言ったように旅についていけないと判断したら、問答無用でヴァルハラ王城までひとっ飛びするつもりである。いや、王城だとクレアにぶつかるな。近くの村にしておこう。
「まあ最初に旅の話だが、お前が子供だからと言ってずっとお守りをするわけにはいかない。いくら俺でも無理があるからな」
野宿は常に魔物の危険がある。今は光の力で寄り付かないが、時間が経つに連れて弱くなるからずっと無防備ではいられない。
それに場合によっては盗賊や暗殺者、終いには騎士まで相手にする可能性がある。
「だからこれからは訓練をする。時間がある時に限るが剣の練習や格闘戦、その他もろもろ叩き込むぞ」
「いいぜ! アニキについて行くんだ。それぐらいは覚悟してる。……ちなみにどれくらいを目標に?」
「人間なら国の精鋭騎士と一騎討ちできるくらい、魔物なら準災害級から頑張って逃げれるくらいに」
「うわキツすぎだろ。というか魔物の方……この旅ってなんの目的でしてるんだっけ」
細目になりながらも、目標の魔物の異常な強さを聞いて、この話題の核心に近づいた彼。僕は少し感心しながら説明して行く。
「その説明はまだだったな。僕たちの旅の目的は四大魔剣を手に入れる事、そしてそのゴールとして魔王を倒す事だ」
「そういえばアニキって魔王らしく無いというか、元々そう思ってたけど。アニキは勇者だしあの姉ちゃんもなんか凄そうだったし、それよりなんで国追われながら旅してんだ?」
「あぁ、それは……」
そうして僕は前世の記憶の事はあまり触れないように、今までの事を話した。
村でいじめられてた事。
その時に幼馴染とその家族に助けてもらった事。
村を滅ぼされた事。
実は幼馴染の彼女が本物の勇者であった事。
村で助けてくれたロイが魔王側だった事。
そして絶大的な信用をされていたロイを殺した事で追われる身になった事。
これらを話していた時、男の子の顔は明るい顔からだんだん険しい顔に変わっていった。
「……なんでアニキは旅を続けるんだ?」
そこまで僕が過酷な状況にいるのにこうして行動できているか、過去の話を終えたら聞いてきた。
その質問に考えることもなく、自然と平然に答えを返す。
「クレア、勇者を助けたいからだよ」
小さい頃の僕を助けてくれた彼女に恩返しをする為に、ゲームのような寂しくて悲しい終わりにさせない為に僕は魔王役を演じる。
そう意気込んで答えたら、男の子は子供らしい笑顔になった。
「改めて聞くがこの旅は過酷なもんだぞ。それでもついてくるか?」
「もちろん! アニキの恋人を助ける為に、俺も頑張らなくちゃな!」
「なっ!? クレアとはそんな仲じゃ……片想いなのは確かだけど」
恥ずかしくなりながらも、ニヤリ顔で言ってきた男の子の言葉を否定できない。前世を思い出す前は彼女に抱いてた感情の事がよく分からなかったが、思い出したあとはそれが恋心だと分かってしまったからだ。
「ならアニキ。全部終わった時に思い告げちゃおうぜ。アニキなら大丈夫だ、きっと上手く行く」
男の子は純粋な笑顔でそう言ってきた。
そうなんの根拠も無い男の子の言葉だが、なんとなく元気が出た気がする。この子と話している内に、いつの間にか本当に仲良くなっていたらしい。感情が変化するほどに。
「それじゃあ友達として頼むぜ……ええと」
そう名前を呼ぼうとして致命的な事を思い出した。それなりの付き合いをしていたはずなのに男の子の名前を知らなかったのだ。
「俺の名前はユウキ! これからの旅よろしくだぜアニキ!」
そう困っている僕を見て、男の子はすぐに察して名前を教えてくれた。
そしてさっき僕がした様に差し伸べてきたユウキの手を、今度は僕が掴んだ。
「俺の名前はカイト。偽勇者で偽魔王をやってるもんだ。よろしくユウキ」
「おう!」
カイトとユウキ、一生の親友である二人はこうして旅に出ることになった。
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