僕の好きな子がいつでも可愛すぎている。

@mattya-tya

第1話 僕の好きな子が今日も可愛い。

「お祭りは好きですか。」

 そう言って緊張した面持ちで顔を少し赤くさせながらうつむきがけに問いかけたその姿に僕の胸がときめいてしまった。


 そのチラシに気づいたのは5日前のことだった。

 「祭り」という大きな字が目立つそのチラシはこの駅を利用した際に何回も見ているはずなのに意外と気づかないものだ。

 1週間後に開催される僕の地元では結構有名な花火大会だ。

 インパクトのあるチラシは1度気づいてしまえば気になるもので電車が来るのを待っている間はよく眺めていた。

 そんなことを数日繰り返していた今日、突然声をかけられたのだ。


 彼女とは同じクラスで半年前に隣の席になり同じ小説が好きと言うことで話が盛り上がり、それをきっかけによく会話をするようになった。

 僕は彼女が好きである。

 そして1ヶ月前のことだが彼女が僕に告白をしてきた。

 僕のことを好きだと、僕と付き合ってほしいという。

 夢か幻かと思ったが自分の手から分泌されている尋常ではない汗がこの現状が現実であるということを強く主張していた。

 そしてそれから晴れやかに僕たちは彼氏彼女の関係に、とうまくはいかなかった。


 彼女の告白を聞いてから何を喋っていたのか全くと言っていいほど記憶がない。

 気づいたら家に帰って自分の部屋で寝ていた。

 何が起きたか分からなかった。


 それから彼女が話しかけてくれるたびに僕は彼女のことを意識をしすぎてしまっていて、うまく喋れないし目も大きすぎるくらいに泳いでしまっている。大水泳大会だ。


 それでもこんなふざけた対応しかできていない僕にたびたび話しかけてくれる彼女に対しては申し訳なさが大きかった。

 

 

 そして現在また彼女は僕に話しかけてきた。きてくれたのだ。


 緊張するとなぜか丁寧な言葉にになってしまいますよね、と以前に何がきっかけだったが覚えてはいないが少し顔を赤らめた彼女から聞いたことがある。

 つまり現在、今も彼女は少し僕に話しかけることに対して少なからず緊張しているのだ。



 かわいい。


 こんなに可愛い子がこの世に存在しているのだろうか、いやいる。

 僕の目の前に実在しているのだ。

 

 僕は彼女のことがとても好きだった。

 こんなにもなにも話せない僕ではあるがとても、とても好きなのだ。

 

 彼女を前にすると色んな考えが吹っ飛んでしまう。それくらい彼女は魅力的な存在なのだ。



 

「あの、私の声聞こえてた?」

 不思議そうに困った顔をしながら彼女が少しうつむきがちになっていた僕の顔を覗き込みながら聞いてきた。 


 ハッとした。話しかけられてからどのくらい時間が経ったのだろうか。無視をしていたつもりはなかったがそう捉えられても不自然ではない。


 「う、ん。ごめん、聞いていたよ。大丈夫。」

 少し早口で言葉に詰まりそうになりながらも彼女に伝えた。

 

 「本当?嬉しい!」

 彼女の顔がぱっと明るくなった。

 とびきりの笑顔をみせてくれる彼女。聖女なのだろうか。可愛すぎる。


 「じゃあ、詳しい日程はまた連絡するね。あ、電車がきたからもう行くね。バイバイ。」

 そう言って微笑みながら控えめに手を降って電車に乗っていった。


 僕はといえば気づいたときには自分の部屋で座っていた。

 まただ。彼女と会話をすると記憶がなくなる。もちろん原因は分かっている。彼女のあの笑顔を見てしまうとそのことしか考えられなくなってしまう。


 吸って、はいてと大きく深呼吸してみる。



 参ったな。会話を何も覚えていないぜ。

 少しカッコつけたところで記憶が戻ってくる訳では無いがとりあえず落ち着こう。


 「また連絡するね」

 たしかに彼女はそう言ったのだ。少なくとも僕にはそう聞こえたのだ。

 連絡…?一体何のだ、なにか話をしたんだろうか。記憶がない。

 焦っても仕方ないとりあえず待っていよう。もし僕の聞き間違いであったらなにもない、ただそれだけなのだから。



 ふと携帯を見ると彼女からメッセージが来ていた。

 え!いつきたんだろう、全く気づかなかった。

 まさか彼女が可愛すぎるあまり彼女の名前の文字を見ただけで僕は記憶を失ってしまっていたのだろうか。さすがだ、可愛すぎる。


 いやいや、そんな関心をしている場合ではない。

 焦りながらも急いでメッセージを開いて読んだ。



 「こんばんは。

 さっき言っていたお祭りね18時に駅前に集合しよう。

 楽しみだね。」



 か、かわいい。

 すごい、彼女はメッセージでまでかわいいのだ。



 ん?いや、ちょっと待って。


 祭り。


 お祭り?

 


 祭りの前におをつけるのかわいすぎないか。もはや尊敬するしかない。


 いやそうではない。それどころではない。

 僕はいつの間にか彼女と祭りに行く約束なんてしていたのか。

 全く記憶にない。どうしよう。

 じんわりと額に汗が出てきた。手からもじわじわと吹きでてくる。


 彼女が、僕の好きな子がせっかく誘ってくれた祭り。行かないわけがないではないか。いや、行くしかない。

 しかし彼女の僕専用特殊スキルにより僕は記憶がなくなるのだ。それほど彼女は可愛いのだ。

 

 焦りながらも僕にはひとつの考えに行き着いた。

 1週間後までに彼女と普通に会話ができるようになる。そのために明日から特訓するんだ。

 これしかない。


 そうすれば1週間後の祭りも何も問題ないし何より普段から普通に会話ができるのはとてもいいことだ。これは良いことづくめだ。


 彼女には「ありがとう、よろしく」と当たり障りのないように返信をしておいた。

 



 そうと決まれば明日からの輝かしい未来を願って僕は早々に眠りについた。



 眠りにつく前にふと思い出した彼女のメッセージ。

 「ね」って。

 可愛すぎないだろうか。ふむ。

 

 

 

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