Q15.なぜヒーローは遅れてくるのですか?

 どうしようどうしようと慌てた様子で私の元に報告に来た幼女。あまりの慌てように、本当は私が適当に用意したガラクタだがら気にしなくていいよと教えてあげたくなるが、そんなことをしてしまったらこれまでの積み重ねがパーになるので我慢する。


 とりあえずご飯でも食べなさいと食事に誘って、食べさせるのは大きなオムレツ。幼女が取ってきてくれた、貴重な飛竜の卵で作った、栄養満点の一品だ。食べても強くなれないから、幼女に食べさせる必要は無いのだけれども、いいものが手に入ったらおすそ分けしてあげたくなるし、それが愛し子なら尚更のこと。私の中の溢れんばかりの父性の表れだな。


 まさか私の美食のためにパシられたとは考えてもいないであろう幼女のニコニコ顔を眺めたら、次の準備だ。その間に幼女を適当なところに送り出して、一年ほどかけて用意したのはだるま状態にした出来損ないのエルフ。


 コレを以前の遺跡に送り出して、可能であれば持って帰ってくるように伝える。全身に不気味な刺青を彫っておいたから、知らずに見れば呪われているように見えるだろうね。死にかけの状態を私の血で無理やり生かしているだけだから、あながち間違いとも言えないかもしれないが。


 もちろん、可能であればと伝えている以上、可能じゃなくする仕込みもある。私からの愛に飢えているシーちゃんを再び配置して、姉妹の感動の再会を演出するのだ。シーちゃんの前でひとしきりアリウムちゃんの話をしたばかりだから、きっと以前とは比べ物にならないほどの敵意を示してくれるだろう。シーちゃんにとって幼女は、自分の欲っしてやまないものを最初から待っている妬ましい存在だからね。


 そんなシーちゃんに頼んだのは、アリウムちゃんの目的と同じエルフを使ってよくわからない儀式を成功させること。それが無理そうなら魔王のしもべに堕とすこと。幼女のサブ勝利条件は穢れを撒き散らされる前に止めることだ。自分で言っていて穢れってなんだよと思ったが、まあ、あんなおぞましい生き物は見ていてばっちぃから穢れってことでいいや。


 無理そうなら面倒なことになる前に君が介錯してあげてくれと伝えたから、幼女はきっと殺してくることだろう。最初は連れ帰ろうとするだろうが、ぷんぷんシーちゃんを相手にそんなことができるはずもない。シーちゃんが余計なことをしゃべらないかだけが心配だけれど、あの子は私に嫌われることを何よりも恐れているからね、たぶん大丈夫。もしだめだった時は二つほどこの世界から消さないといけないものが生まれることになるが、その時はその時さ。


 というわけで幼女にお仕事の連絡。タダ働きだからボランティアって言った方がいいかもしれないな。あとはソファでのんびり休みながら様子を見ているだけだ。上手く行けば儀式の最中に幼女が突入して、そのままシーちゃんとの戦闘開始だね。


「パパ、唐揚げって卵使ったっけ?ママが取ってきた飛竜の卵液ってまだ残ってる?」


「使わなくてもいいけれど、私は使うものの方が好みだね。テトラの好きなようにするといいよ。もし使うのならほら、これを使うといい。使わなければ明日の朝ごはんにするから冷蔵庫に入れておいておくれ」


 私のことをパパと呼ぶ少女は、幼女を成長させたような姿をしている、幼女の娘のテトラちゃん。紹介文で頭がバグりそうだな。名前からしてわかるように、4番ちゃんだね。実の父を産まれる前に失っていることで、私のことをパパと呼ぶようになったかわいい娘モドキだ。昔のピュアッピュアな幼女に、愛情を注いで育てたらきっとこんなふうになったのだろうな。


 幼女がやろうとした時は、やんわりと拒絶していた料理を教えてあげると、にこにこしながら作ってくれるようになった。まだたまに料理を焦がしたりして、あまり上手とは言えないが、いつかママに美味しいご飯を作ってあげたいと日々花嫁修行に励んでいる。その割には私の好みに寄せようとしているのは、ちょっと思考誘導や暗示が効きすぎたせいだろうか。まあ、20年もしないうちに別れることになるのだから別にいいか。


 ちらちらこちらを見ているテトラちゃんの前で出来上がった料理を食べて、ありがとうと美味しいよと言えば、露骨な程ににまにまするので好きなようにさせる。本当なら食事中にも別の作業をしたいのだけれど、さすがに子供が作ってくれたご飯を、本人の目の前で雑に食べられるほど私の心は強くない。自分で作ったものならながら食べが基本なのにね。


 そうしているうちに、幼女は遺跡にたどり着いたようだ。思っていたよりもお早い到着だね。ヒーローは遅れてくるものだから、つまり早くついた幼女はヒーローではないということだ。どうして自分がこんな目にあっているのかもわかっていないだるまエルフには悲しいお知らせだな。


 儀式の終盤で接敵する胸熱な展開を予定していたのだが、早くついてしまったせいでまだ中盤、しかもよりにもよって、シーちゃんが次の準備のために一時退席しているタイミングだ。なんてこった、神は私を見捨てたか!と思ったが、私の信望する多胞体は最初から私の事なんて見守ってくれていないだろうし、どちらかと言うと私の想定よりも美味しい展開になりそうだ。


 儀式の贄として祭壇に捧げられたエルフの子供、子供のエルフは雌雄の区別が付きにくいのだが、全部剥かれているこの子は股に物があるからオスだね。そんな少年は肘や膝から先がないのだけれど、仰向けの状態で手足の落とし残しの部分に杭を刺されているんだ。少し前まで自分の子供がこのくらいの年齢だった幼女にとっては、だいぶショッキングな光景かもしれないね。


 中に何がいるのかわからないから音を立てずに忍び入った幼女は、それを見て思わず息を飲んで、少年のエルフ耳が耳敏くそれを聞き分ける。


 しかし、聞き分けられたところで、それに気付けたところで、つい直前まで酷いことをされていた少年には、怖い人がまた戻ってきたようにしか思えない。まだ元気が残っていたようで、やめてと、来ないでと騒ぎ出してしまった。


 幼女からすると、とんだ失敗だね。この子を助け出すことが目的なのに、その救助対象に騒がれてしまったのだから。まだ新しい流血の跡なんかを見れば、すぐ近くにこれをやった犯人がいることは想像にかたくない。それなのにこんなふうに大きな声を出されてしまったら、助けるための難易度が一気に上がるからね。


 これはまずいと悟ったらしい幼女が少年に駆け寄って、急いであやす。あなたを助けに来たのとか、わたしは何も酷いことをしないから信じてとか、そんな当たり障りのない言葉をかけて、何とか落ち着かせる。


 少しすると少年は落ち着きを取り戻して、幼女のことをお姉ちゃんと呼びながら、助けてとお願いした。幼女はそんな声に対して任せてと安請け負いをして、少年から杭を抜く。とても痛そうに叫んだ少年だが、それも幼女が回復魔法をかけるまでの短い時間のこと。優秀な回復術師のおかげで四肢以外は綺麗に治った少年に、何かを感じとった幼女が動かないで大人しく待っていてと声をかける。


 その声に答えるように出てきたのは、何に使うのかよく分からない道具を沢山抱えたシーちゃん。作った私すらわけのわからないガラクタだから、それを持ってきたシーちゃんは尚更だろうね。それでも任せられた仕事のためと頑張った矢先に目の前に現れた光景は、大切な生贄の前で何かやっている恨めしい相手の姿。


 両手に持っていたものを投げ出して、すぐに戦闘態勢に移る。少年の叫び声が不自然に落ち着いたから、違和感を持って急いできたのかな。


 幼女とシーちゃんはお互いに睨み合って、そしてそのまま戦いを始めた。形勢は相変わらず、シーちゃんの方が優勢だね。幼女も前回の邂逅と比べればだいぶ対策をねってきたようだけれど、一年や二年の努力で追いつけるほど、才能の壁はやわなものではない。


 幼女の頑張りには努力賞をあげたいけれど、それ以外には特に見所がない戦闘シーンだね。半分脳停止しながら眺めて、ようやく面白くなってきそうなところで集中する。2人とも同じものを守ろうとしていると、戦いがなんだかだれるね。供物としての価値をあげる儀式を途中で切り上げることに決めたシーちゃんが、私の血を取り出す。ところでこのエルフはなんのための供物なんだろうね。私にはわからないや。


 それを阻止しようとする幼女と、攻めに攻めるシーちゃん。そもそもスペックに劣る幼女が人を守った状態で叶うはずもなく、呆気なく少年は魔王のしもべになった。体が作り替えられていく中でもお姉ちゃんと助けてを言っていたあたり、なかなかにトラウマポイントが高いのではなかろうか。少なくとも私なら間違いなくトラウマものだ。こんなことになるくらいなら、せめて人間の形を保ったまま殺してあげるべきだったね。


 幼女に対して暗い感情をぶつけたシーちゃんが、目的は達したからとその場から逃げ出して、その場に残されるのは目の前で幼い子供を化け物にされた幼女と、元々だるまエルフだった魔王のしもべ。全く、判断が遅いっ!


 辛そうにしながら幼女は対処して、助けられなくてごめんなさいと言う。悲しみを押し殺したような顔、見ていると心が締め付けられるね。こんな顔が似合う幼女が、出会った頃はいつもにこにこなお花畑系幼女だったのだ。時間の流れ、そして私の行動とはなんて残酷なものなのだろう。悲しいね。


 私はテトラちゃんが鼻歌を歌いながら部屋のお掃除をしているのを眺めながら、そんなことを考えていた。



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 見えた!完結の糸!(╹◡╹)

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