Q13.なぜようやく手に入れたはずの幸せも手からこぼれ落ちてしまうのですか?
幼女は卒業した。一時期は色恋にうつつを抜かして勉強に手がつかなくなるのではと心配していたが、どうやら賢者の寵児、私の弟子として、私の名前に傷をつけてはならないと頑張っていたらしい。そのおかげか、誰もが認める主席での卒業だ。健気でいい子だね。ガキの恋愛事情とか見てられるかって思ってしばらく放置していたんだ。ごめんね。
さて、優秀な成績で卒業した幼女だったが、その進路は多くの人の予想を裏切って、冒険者を続けるというものだった。魔術課程の卒業生なんて、上で宮殿仕え、中で貴族のお抱え、下で大商会。落ちこぼれが冒険者で大成功くらいのものなので、王子様直々のスカウトを蹴って冒険者を選ぶのは異例もいいところだ。エリート大学の首席卒業生が就職先にコンビニバイトを熱望していると言えば、その異例さはわかりやすいだろうか。
そんなエリート様をたらしこんだリーダー君は冒険者として世界一の幸せものだろうな。幼女を手放さない限り、人生の成功は約束されたようなものだ。まあ、それは捕まえた幼女が私のお気に入りでなければの話だったんだけど、私のことを知らないリーダー君にそんなことを言うのも酷だろう。それに、きっと打算で幼女に近付いたわけではないだろうからね。
しかしまあ、それはそれ、これはこれだ。リーダー君がいかに善良な人間であったとしても、幼女と共にあることを選ぶということは、自然と私の思惑の中に転がり込んでくるということである。こうなってしまうから、王子くんを避ける必要があったんだね。私もいたずらに国を乱すのは望んでいないのだよ。必要なら全然やるけどね。
そんなことを考えながら見守ることしばらく、幼女にも休息の時間は必要だろうから、私は何も手出せずに十年ほど置いておいた。幼女は相変わらず幼女のままで、リーダーくん達愉快な仲間たちはすっかり歳をとって、もう幼年組とは言えないどころか、青年にまでなってしまった。あんなにかわいらしかったのに、時間というものは残酷だな。
若いうちしか稼げない肉体労働に励んで一財産築いたところで、あとはそこで得た名声でのんびり過ごす日々。なんと理想的なアーリーリタイアだ。勤勉を是とする私には到底許容できないや。もっとさぁ、働けよ。
途中諸事情で2年ほど働けなくなった幼女がいなくても普通に冒険者として活動できていたあたり、彼らの才能自体は確かなものだったんだろうね。そんな実力派なパーティーのリーダーは世間からロリコンとして有名なのは、実に愉快な話だ。まあ、サイズ的に8歳児くらいの子供のお腹を3度も大きくさせていたら、そりゃあ世間での扱いはそんなものだ。リーダー君からしたら見た目同年齢の頃から思いを寄せていた相手だから、純愛だし、失礼だなと言いたくなるかもしれないけれど、多くの人はそんな細かいところは気にしないからね。恨むのなら幼女を成長できなくさせた私を恨むといい。恨まれたところで気にしないから。
産めよ増やせよにしたがって増えた子供たちは、幼女によく似ていてとてもかわいらしい子ばかりだ。若干一名、既にママの身長を抜かしているのがいいね。当然のごとく耳の長さはアリウムちゃんよりも短くて、ハイエルフではない混血種。ママより先に寿命が来ること間違いなしだな。純血種を残すために苦しんしていたレアお母さんが見たら憤死すること間違いなしだろう。それにしても、毎度の事ながら父親の要素が見えないな。これが優性遺伝の力か、托卵し放題じゃないかっ!
当然のようにリーダー君一筋を貫いている幼女を前に最低なことを考えつつ、今はまだ見守る時間。幼女はやっぱり幸せそうにしているのが見ていて一番楽しいからね。私の中にある父性的なものが、幼女の幸せを願っているのだ。リーダー君は好青年だし、娘をやってもいいと思えた。
さてっ!平和な時間はここまでだ!!愛し子の幸せそうな顔はいくら見ていてもいいものだが、ずっと続くと少し飽きてくるしマンネリになる。悠々自適なスローライフなんて、送るのも見ているのもとっくのとうに飽きてしまったのだ。それを楽しめる精神性を残していれば最初からこんなことしない、ということだね。
密かに下準備を始めて、行動に移すのはそこから一年後。まだまだお盛んなお二人の活動によって、幼女のお腹がまたぽっこり膨らんでくる。何度見ても犯罪的な光景だな。その中身が10年もすれば入れ物より大きくなるのだから、全く生命というのは神秘だ。エルフを頑丈に作っていなかったら裂けてたんじゃないか?
さてさて、幼女が身重になったところで、お師匠様からお祝いの品をプレゼントだ。だいぶご無沙汰だったから幼女も寂しくなっちゃったんじゃないかな。卒業祝いと出産祝い×3と結婚祝い、合わせると五つか。遅れて悪いけど、その分まとめてプレゼントするから許してくれるだろう。
というわけで、師匠からの気持ちがたっぷり籠った送り物は、突如襲来する妹ちゃんたちだ。5分の3が妹ではなく娘だから、娘ちゃんたちと言った方が正確かもしれないが、今更呼び方を変えてもこんがらがるだけだからこのままでいい。幼女が合成素材として優秀過ぎたせいだな。
そんな優秀な素材ちゃんは、プレゼントをたいそう気に入ってくれたようで、半泣きになりながら重い体を引きずって子供たちと逃げる。リーダー君は家族を守るために勇敢に挑んで行ったね。何かあっても自分の力ならみんなを守れるなんて根拠のない自信にあふれていた幼女は、思うように動けず、逃げるしかできない自分を、そんな自分が守るしかない非力な子供たちを歯がゆく思いながら逃げている。教育方針、間違えちゃったみたいだね。上手に育てていれば一番上の子は、妹ちゃんたちに勝てずとも、安全を確保したまま時間稼ぎくらいはできただろうに。
こうなってしまうから残酷な世界では力が必要なのだなあとしみじみしていたら、目の前に降ってきたもう一匹の妹ちゃん。これでこの街の最大戦力である幼女のパーティーメンバー全員の前に一匹ずつ妹ちゃんが現れたことになるね。仲間たちは皆、以前学園に送り込んだもの相手なら、ばらばらでも対処できるくらい強くなっている。
そのことはとても素晴らしいのだが、残念なことに強くなているのは妹ちゃんたちもなんだ。幼女の前に姿を見せなかった十年余りの間、妹ちゃんたちはたくさんの実験を乗り越えてきた。おかげで仲間達は、周囲の人々と協力しても時間稼ぎでいっぱいいっぱいである。どこかに二人集まったら、そのまま各個撃破されてしまっただろうからよかった。
さて、お腹には生まれる前の我が子、背後には愛おしい我が子たち、そしても目の前には認知していない娘。家族がこんなに集まるなんてすばらしいこともあるものだ。そのまま子供との心温まる時間を過ごすといい。
警戒しながら、子供たちに自分の後ろから出るなという姿は、幼女の癖に上位冒険者の風格が感じられるものだった。母の強さ、というものなのかもね。ところで幼女にとって母枠の人間はレアお母さんと女騎士ちゃんだけど、女騎士ちゃんお腹に子供がいたことが巡り巡って死んでしまったよね。押し込んであげるよ、君のトラウマスイッチ。
少し気持ちを揺さぶられて、結局覚悟を決めたらしい幼女は子供たちに逃げろと言って、自分が妹ちゃんを引き付けることを選んだようだ。お腹が軽ければ目の届く範囲にいさせて、守りながら戦えただろうけど、そのお腹だとできるのは魔法戦くらい。本来の戦い方ではないうえに、効きが悪い非効率な手段だね。
それでもギリギリとはいえ勝ってしまったのは、母は強しというべきかこのこの才能が恐ろしいというべきか。まあ、どちらにせよ結果は同じなのでどうでもいいか。
子供たちが先に逃げて、しばらく時間を置いてようやく幼女がたどり着いたのは、この街の避難所だ。何かあったときに身の回りの人を守れるようにと、幼女が大金を使って用意したセーフハウス。真価を発揮できれば、妹ちゃんくらいなら十体いても三日は耐えられるだろう。
そこに先にいたのは、愛しい我が子たちだ。みんな無事でよかったね。あとはお父さんがいれば、家族は勢ぞろいだね。
けれど不思議なことに、待てど暮らせどリーダー君は来ない。それどころか、何かあったらここで落ち合う筈になっている仲間たちすら、だれも来ない。魔力を使い果たしているせいで助けにすらいけない幼女はそのまま朝まで待って、ようやく静かになった街に出て目にしたのは、街のみんなを守るために傷だらけになった仲間たち。その中でも、リーダー君は重傷だったね。偶然途中で倒せた一匹目を皮切りに、救援が間に合った他とは違って、最後までほとんど一人で戦っていたのだ。
命を燃やし尽くしたかのように、力なく眠りにつくリーダー君。このままだと力尽きるのも時間の問題だね。幼女がすぐに直せる位置にいたらまだ助かったかもしれないのに、判断を間違えたみたいだ。数日後にリーダー君は、再び目覚めることなく命を落とした。
他の仲間たちは、若干の後遺症が残るくらいで済んだ。これも、幼女がその場で治せていれば問題なかったこと。回復魔法は時間経過とともに難易度が上がっていくから、怪我をしたらすぐに治すのがセオリーなのにね。
たくさん犠牲者が出た中で、リーダー君のお葬式も一緒に行われた。幼女は数日前までの幸せそうな表情が嘘みたいに、人生に絶望したかのような顔で弔い、一月後に子供を産む。愛した人が最後に残した、もう一人の家族だね。人数だけで言えば元に戻ったけど、そんな事実ではどうしようもない空気が家中に蔓延している。かつて幼女がここまで子供の誕生を喜ばなかったことがあっただろうか。
あまりの様子に見ていられなくなったので、ここらで少しメンタルケアをしておこうか。幼女には幸せになる時間はあっても、うじうじと落ち込んでいる時間はないのだ。それは幼女にはいらないものだよ。
というわけで、家族と死に別れた幼女にご対面。酷い顔しているなぁ、ちゃんとご飯は食べているのかい?君だけの体じゃないんだから、健康を1番に考えないといけないよ。それはそうと色々限界そうなアリウムちゃんの姿はエフちゃんあたりに需要がありそうなので、映像記録をしっかり残しておく。手土産にしたらきっと喜ばれるだろうね。
久しぶりに会った幼女は、私のことを見ると感極まったようで抱きついてきた。そのままわんわん泣き出して、突然のことに驚いたらしい子供たちがびっくりしてやってくる。そこで目にしたのは、未亡人になったばかりの母が見知らぬ男に抱きついている姿。うん、不倫相手だな!こんにちは、私が君たちの本当のパパです。
そんなことを言っても良かったのだが、それをしてしまうと幼女とのこれからの関係が壊滅的なものになってしまう。幼女の人間関係を壊滅的にするのは別にいいのだが、まだ微調整が必要になることもあるだろうから、私が信頼を失うのは惜しい。
というわけで、子供たちには幼女の師匠として自己紹介をして、久しぶりに心から信頼できる相手に会えたことで緊張の糸が切れたのか、眠ってしまった幼女を寝室に運んであげる。子供たちはこんな母親の姿を見たのが初めてだったからか、終始驚いた様子だった。
幼女が起きてくるまでは、子供たちの相手をして時間を潰す。実は私は子供が大好きなのだ。頭の中がスカスカな子供たちは適当に魔法で綺麗なものでも見せておけば、すぐに心を開いてくれるからね。この純粋さはとても便利で、一度安心出来る相手として刷り込んでおくと何年経ってもそれが残っていたりするんだよ。だから私は子供が大好きだ。
よその家で勝手にご飯を作って子供たちに食べさせ、幼女が起きるのを待つ。子供たちに食べさせたのは普通の食事だけど、幼女に食べさせるのはいつものエルフ飯だ。最近あまり栄養を取れていないようだったから、ここらで完全栄養食を食べさせておかないとね。
目覚めた幼女に、話をするよりも今は先に食べなさいと言ってエルフを食わせる。その後はのんびり近況報告を聞いて、適当に同情して見せればこの子はちょろいからすぐに誘導できるのだ。
自分の人生をめちゃくちゃにした魔王を、そのしもべ達を許せないと復讐に燃えるその姿は、いつぞやの尖っていた頃の幼女が戻ってきたようだな。尖っていたと言ってもモヤッとボールくらいのものだったけど。
あの子達はどうするのかと聞いてみると、子供たちは自分の復讐に巻き込みたくないから、セレンちゃんのところか、エフちゃんのところに預けたいとの事。セレンちゃんはともかく、エフちゃんに預けるとか正気かこの幼女。あれはあんな中身だけど、一応表面上は次期王妃様だぞ。賢者の寵児の子のためなら普通に受け入れそうなのがこの国だが、こんな庶民暮しが染み付いた子供に宮殿生活は酷だろう。
それならこの子達はひとまず私が預かろうと言って、子供たちを回収すれば今回の目的は達成。ついでに、子供たちを最低限鍛えておいてほしいと言われたので、新しい暇つぶしにも事欠かなさそうだ。
そうして、幼女は再び復讐の道を歩み始めるのだった。長い休憩だったねっ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます