A11.そこにいない加害者よりもすぐ近くにいて瑕疵がある人の方が責めやすいからしかたがないよね

 名前とか考えるのくっそ苦手だから地名とか一切出せない作者があたいです(╹◡╹)


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 セレンちゃんとエフの部屋から帰って、次の日の準備をする。とても不思議な時間だった。初めてあったはずなのに、初めてじゃないような感覚。ずっと一緒にいた仲間たちみたいに、一緒にいて安心できる感覚。


 なんでこんなにしっくりくるのか、わからない。セレンちゃんとはただ相性が良かっただけ?エフとは、去り際に、わたくしのことはどうか呼び捨てで呼んでください、と頼んできたあの子とは、姉妹だったから?


 わからない。考えようとすると、頭の中がふわふわして思考が回らない。けれど、考えられないということはきっと、考えなくてもいいことなのだろう。そんなに無理をして考える必要が無いから、考えられないのだろう。



 そういうことにして、考えることを辞める。もともと、頭を使うことは好きじゃないのだ。必要だから頑張っているだけで、本当は勉強も好きじゃない。得意にはなっていても、それは好きとは違うのだ。わたしはもっと、みんなとおしゃべりしたりして、何でもない時間を一緒に過ごしたい。


 少し悲しい気持ちになりながら明日の準備をする。今日が楽しかったから、おかしな気分になっているみたいだ。だって、わたしにとって一番大事なのは、楽しい今を過ごすことでなく、早く強くなって、立派になって、あの魔王を倒すことなのだから。そう自分に言い聞かせながら眠りにつく。わたしにとって大切なものが何かを心に刻みながら。




 起きた頃には、もうすっかり感傷的な気分は収まっていた。寂しさだけは少し残っているが、それも少しすれば勝手に収まっていることだろう。いつも通りに授業を受けて、午後からは楽しみにしていた実技の選択科目だ。


 仲間のみんなと一緒の授業、わたしが最初に入学しようと思った時に、思い抱いていた授業の形。どんなものになるかはわからないけど、みんながいるならきっとそれだけで楽しい。



 偶然同じ授業を受けていた王子とポチ、ハンナと一緒にやってきたセレンちゃんとも挨拶をする。昨日あったばっかりなのに、また会えたことがとても嬉しい。セレンちゃんもわたしの方を見て笑顔になってくれたので、きっと素敵なお友達になれているのだろう。


 その事にちょっとニマニマしていると、冒険者課程の人達がぞろぞろやってきた。その一番真ん中にいたのは、わたしの大事な仲間たち。みんなととても仲が良さそうに話していて、人気者みたい。元々誰とでも仲良くできる人達だったから、こうして人々の輪の中にいるのも納得だ。


 それに引き替え、わたしは一年かけてもクラスの中でまともな友達のひとりも作れず、みんなから距離を置かれている身。みんなとは大違いだ。そう思うと、自然と気分が沈んでいく。わたしみたいなのじゃなくて、わたしみたいに、友達も作れないような子じゃなくて、もっとキラキラした人の方が、みんなの仲間にふさわしいのではないだろうか。わたしみたいな、みんなと一緒の時を過ごせないエルフじゃなくて、普通の人間の方が、良かったのではないだろうか。



 たくさんの人に囲まれている仲間の姿を見ると、そんな考えで頭がいっぱいになる。わたしがみんなと関わっているのはみんなにとって良くないことなんじゃないかって、考えてしまう。わたしがいなければみんなは賢者街に帰る場所があったのにと。わたしがあそこに居られなくなったから、みんなもそうなってしまったのだと、そんな気持ちで苦しくなる。


「アリウムー!」


 でも、そんな不安な気持ちは、嫌な考えはわたしを呼ぶ声を聞いたらどこかに行ってしまった。わたしを見つけて駆け寄ってくれるみんな。ハンナもいるから、本当はわたしだけを見つけて走ってきた訳では無い。それはわかっている。けれど、わたしが必要とされているのだとわかって、わたしがみんなの仲間なのだとわかって、とてもうれしかった。


 少し泣きそうになってしまったのを頑張って我慢する。ここで泣いてしまったら、みんなから見たら仲間と会っただけで安心して泣いてしまう小さい子になってしまう。だから我慢しようとして、リーダーのリックが冒険者課程の人達にわたしのことを最高の仲間だと紹介してくれるのを聞いて、失敗しそうになる。このタイミングでそんなことを言うのはちょっと卑怯だ。マイクとミケの兄妹もそれに乗っかって褒めてきたおかげで、喜びよりも恥ずかしさが強くなって何とかなったけれど、これは心臓に良くない。


「ほう、アリウムの仲間か。冒険者課程で優秀な成績を収めているらしいな」


「殿下っ!そのような下賎な者共に殿下自らお声掛けなどっ!」


 わたしの仲間たちに目をつけて、自己紹介をしようとしていた王子と、それにすぐ反応してまたいつものように大きな声を出すポチ。いきなりの大きい声にミケがびっくりしてしまったのと、単純に耳が痛くなるのでお黙りさせる。


 突然の登場に驚いたらしい冒険者課程の人達が距離をとる中で、話しかけられたからと対応を始めるのはリック。礼儀作法的にはダメダメな接し方ではあったが、一応この学園では身分を笠に着たような行動を慎むように言われていることと、普段話さないタイプのリックに興味を持ったらしい王子が気にしていないおかげで大事にならなくて済んだ。知人と仲間が揉めるのは見たくなかったので、一安心だ。



 授業内容は魔法使いとそれ以外の連携のとり方についてというもので、元々そういうパーティーを組んでいるわたしたちを例にあげて説明したりしながら進んでいった。得られるものとしてはあまりなかったけれど、皆と一緒に授業を受けられたから、今はこれだけでもう満足だ。わたしたちとは別でパーティーを組まなくてはならなかった王子とポチにセレンちゃんが三人で組んで、何故か仲良くなっていたのは少し悔しい。


 授業が一通り終わると、あとは放課後。セレンちゃんがわたしとハンナのことをすごいと褒めてくれて、それと一緒にやってきた王子がみんなに話しかける。みんなはわたしとは違って人と話すのが上手だから、すぐに打ち解けていた。この一年間、なんだかんだで王子を警戒していたわたしがバカみたいだ。


 何か虚脱感を覚えながら、話には入ることができずに黙っている。普段の仲間との話を王子たちに見られるのはなんか恥ずかしいし、逆もそうだからだ。その結果、わたしとポチだけが黙り込んでいるよくわからない状況になってしまった。わたしもおしゃべりしたい。


 そんなことを思いながら、時間をかけるうちに少しづつ話に混ざれるようになって、1ヶ月もたった頃には仲良く話せるようになった。ずっと距離を取ろうとしていた王子も、ちゃんと話してみれば変なやつではあっても悪いやつじゃなかった。考えてみれば、向こうが仲良くしようとしているのに一方的に距離を取っていたのはわたしの方だったのだ。王子本人からは何もされていないのに。


 これからはもっとちゃんと向き合おうと思いながら、先生に頼まれた荷物を運んでいると、突然嫌な気配がして、何かが近くに降ってきた。


 荷物を投げ出して音の方を振り返ると、そこに居たのは昔見た時と同じ、黒くてうねうねした化け物。おとぎ話に載っていた、魔王のしもべの姿だ。わたしが倒さなくてはならない、アレの仲間。


 襲われている人がいて、すぐに助けなきゃと思って飛び出したら、手元に師匠から貰ったいつもの短剣がないことに気付く。学園は学ぶところで、戦うことは基本的にないから武器の持ち込みができない。


 一瞬取りに行くか迷って、襲われている生徒を見てそんな時間はないと判断する。戻ること自体はできるし、比較的近い位置ではあるがその間にどれだけの犠牲が出るかわからない。しかもこの周辺にいるのは多くが貴族課程の新入生、戦闘能力に欠ける者が多いのだ。


「『アイスダガー』」


 授業で習った氷の剣の魔術を少しだけ改変して、二本の短剣を作りだす。いつものものとは重さや形が異なるが、短剣であるだけまだましだ。持っているだけで伝わってくる冷気は手袋が多少緩和してくれるし、目の前の魔王のしもべがわたしの知っているものと同じならばどうせすぐに冷たさなんて気にならなくなる。


 駆け寄って、刺す。近寄って、削ぐ。


 魔術で作った刃は切れ味がそれほど良くないから、足りない部分は手数で補う。もっとちゃんとした弱点とか、攻め方とかもあるのかもしれないけど、わたしのできる戦い方の中で一番消耗が少ないのはこれで、以前倒した実績があるのもこれだけだ。魔法を使って効かなかった時のことを考えると、どうしてもこれに頼ってしまう。


 大振りな触手の振り回しを避けて、体当たりをとびこえて、撒き散らされる火は諦めて受け止める。師匠が言っていた、コラテラルダメージというものだ。意味はよくわかっていないけど、多分こういう時に使うのだろう。


 飛んで跳ねて削いでを繰り返して、だんだん勢いがなくなっていく魔王のしもべを削り続ける。氷で作った短剣は何本もダメになってしまったが、元々こんなふうに自分で振るうためのものでは無いのでしかたがない。ダメになったぶんは何度でも作り直せばいい。身にまとっていた制服も、師匠の旅衣装みたいに特別な何かがあるものでは無いので、燃えてしまっても問題ない。僅かにある乙女心が、周囲に裸体を晒すことを躊躇いはするが、最低限しか治さなければ火傷まみれなので、見ていてうれしいものでもないだろう。


 不便なことだらけの中で、こんなに戦っていれば誰かが助けに来るだろうと思っていたが誰もこない。もしかしたら何かあるかもしれないと思いながら、魔王のしもべにピッタリくっつきながら削ぎ続ける。変にヒットアンドアウェイを繰り返すよりも、こうしている時の方が攻撃範囲や火の攻撃が少ない。まともに食らった時のダメージはその分大きくなってしまうけれども、とても効率的だった。


 耐久作業をするような感覚になりつつ戦い続けて10分ほど。どんどん弱っていくので、時間が経つにつれて楽になっていく。そのままほとんど抵抗しなくなった魔王のしもべを滅多刺しにして、最後に顔のような真っ黒の穴を真っ二つに割く。魔王のしもべは完全に動かなくなって、わたしの前で小さくなった。


 周囲で何とか自衛していた生徒たちに、とりあえずもうこの場は安心なことを伝えて、動けない人から助けるように言う。ついでに、近くにいた小柄な生徒にお願いして制服の上着を借りた。戦っているときならともかく、普通に立っている時や移動している時に裸なのはやっぱり恥ずかしい。戦っている時も恥ずかしいと言えば恥ずかしいけど。


 周りでいちばん小さい人に借りたはずなのにまだまだ全然大きかったから、動く邪魔になる部分を一通り切り落とす。裾が長いから一枚で下まで隠せるのはとても良かった。上は何枚か着てるけど、下はみんな一枚しか来てないから。さすがにそこまでもらうのはかわいそうだ。


 そんなことを考えながら他にも悲鳴が聞こえたのでそちらに向かう。目の前のやつにはトドメを指したのに、嫌な気配はまだ残っていた。加勢が来なかったことも踏まえれば、まだこれと同じものがいたとしてもおかしくない。


 そう思って、急いで声のする方に向かう。そこにいるのが何であったにせよ、多分わたしはこの学園の中でもかなり戦えるほうだから、役に立てるだろう。それにもしそこにいるのが魔王のしもべなのであれば、それはわたしが倒さなくてはならない存在だ。


 その先にいたのは、予想通りと言うべきか魔王のしもべ。周囲にあまり被害が出ていないのは、戦っている人達が守ったおかげだろうか。まだ倒せてはいないみたいだけど、被害者が居なければ上々だ。


 大丈夫そうだから後回しにするか加勢するか考えて、そこにいるのがわたしの仲間だとわかったのでそちらに向かう。多くを助けるということだけを考えるのなら他に回るべきかもしれないが、何よりも大切な仲間の安全の方が、わたしにとっては大切だった。魔王のしもべが体の周りに火を纏っているせいで、近付くに近付けない様子のリックとマイク。ミケが物を投げて注意を引くのと、ハンナの魔法で留めているようだ。遠くから見ていたよりもギリギリだったかもしれない。


「リックっ!マイク!状況は!?」


 そちらに駆け寄って、攻めあぐねている様子のリックに声をかける。というか、攻めあぐねるも何もリックとマイクは武器すら持っていなかった。考えてみたら学園の中なのだから、わたしと同じで当然だ。とりあえず氷で二人の分の武器を用意して、いけそうなタイミングがあればなにかするように伝える。


「ちょっ!無茶だ、アリウム!」


 服装が素敵になっていることは適当に誤魔化して、先程同様アイスダガーを出して両手に持ち魔王のしもべに飛び掛ると、リックは信じられないようなものを見たように叫んだ。ちなみに先程の火傷跡は移動中に回復させてある。人前に出る時に身だしなみを整えるのは最低限のマナーだと師匠も言っていた。それに、そうじゃなくても加勢が火傷まみれだったら逆に心配になってしまうだろう。


 ちょっと焼けるけどあんまり気にしないように伝えて、魔王のしもべにダイブ。本当はちょっとどころじゃないけど、素直に伝えたら絶対止められちゃうからね。わたしの仲間はいい人ばかりだから、その可能性がある。それに、上手く行けばほとんど焼けないかもしれないから完全な嘘という訳でもない。


 自分に言い訳をしたら、あとはもう戦うだけ。切って、裂いて、削ぐ。さっきからずっとやっていたことだ。体の構造が基本的に一緒で、ただむやみに暴れるしかしてこないおかげで、どんどん動きがわかるようになっていく。どうかわせば攻撃を食らわないのか、どうすれば効率よく攻撃できるのか、時間が経てば経つほど戦いやすい。


 そのおかげで、さっきと比べたら攻撃を食らう回数はだいぶ少なかった。それでも、全く食らわなかったわけではないので服はダメになってしまったが、回復した回数だけで言えばさっきの半分くらいで、二体目の魔王のしもべは動かなくなる。私の力だけではなく、みんながサポートしてくれたおかげだからそれほど自慢できることではないが、これならまだ戦えそうだ。


 戦い終えたことで少しだけ気を抜いて、わたしの戦い方に文句を言おうとしているっリックに、彼が話し始めるよりも先にまだほかにもいると伝えて、早く次の準備をするように伝える。まだ何か言いたそうにしているのに対して、急がないといけないのだと真剣な顔で言ったら、なにかを発散するかのように頭を掻きむしった後、終わったらお説教だとだけ言ってわたしに上着をかけてくれた。


 わたしの気持ちを尊重してくれることがうれしくて、わたしの格好に気をつかってくれることがうれしくて、ありがとうと小さい声でお礼を言う。照れくさくなって、そのまま上着の襟で顔を隠す。そうしたらさっきもらった上着以上におおきくてぶかぶかなことに気付いたので、次の戦闘の邪魔にならないように邪魔なところを切り落とした。


 次のところは、わたしたち魔術課程の生徒が使う寮の近くだった。入学時点で特に実力がある人が集まっていただけあってか、ほとんど実戦経験なんてないくせにまともに相手できていたようだが、何度攻撃してもすぐに戻る回復力にやられてか、もうみんな魔力は使い切ってしまっていたらしい。この場の全員の魔力で使える魔法の規模や威力を考えれば、ダメージ量的にはわたしが一人でやれる量よりも格段に多いだろう。それでもこうして健在な姿を見せているということは、やっぱり魔法が利きにくいのだろう。近接メインで戦ってきてよかった。


 まだ何とか余裕がありそうな王子たちには、普通に魔法を使わせてもあまり役に立たなさそうだったから、わたしたちが使う武器を作ってもらう。切れ味と形や重さの兼ね合いで氷の武器にしているが、やっぱり氷は脆いし、使っているうちにすぐ溶けてしまう。何度も作り直すのは手間で、その度に責め手が緩むことになるので、補給があるのはそれだけでありがたい。


 先程までよりもずっと状況が良かったことと、そもそもそれなりにダメージが入っていたようで動きが良くなかったこともあって、ここでの戦いはいちばん簡単に終わった。



 問題だったのは、最後のところだ。学生が多く集まって、まともに戦っていられる人ももう居なくなっていたところ。そこに居たのは、倒れてしまった生徒たちと、全身火だるまになってもう動かない何か。そして、それらの真ん中で、周囲を燃やしながら闊歩する魔王のしもべ。


 大きな火柱が上がって、駆け付けた時にはもうそうなっていた。到着するのが、少し遅かった。急いで無事な人を避難させるために攻撃したが、傍目に見るだけでももう間に合わない人が何人もいる。それでも1人でも無事でいられるようにみんなでがんばって、削りきる。


 途中嫌な気配が減るのを感じて、4体目を倒したタイミングで完全になくなった。みんなもそれが肌でわかったのか、先程までの警戒は解ける。周囲で怪我をしていた人達もそれがわかったのか、一様に安心したように見えた。王子がわたしのことを気遣って上着をかけてくれる。


 けれども、それだけでは終わらない。悪いやつをみんな倒したからハッピーとはいかない。だって、怪我人がこんなに居て、もう治せない人も沢山いるのだ。そんな中で、一体誰が戦いの終わりを喜べるだろうか。残るのは悲しみと、行き場のない怒りだけ。


 それが行き先を求めて、溢れ出した。本当に向けられるべきところは魔王のしもべだけれど、それはもうわたしたちが倒してしまったからいない。なら、行く先は間に合わなかったもの。ここを一番最後にして、犠牲者が出る原因をつくったわたしだ。


 なんでと、どうしてと、言葉が投げられた。そんなことを今更言っても意味なんてないとわかっていても、わたしに言ってもお門違いだと、きっとみんなわかっているはずなのに、それでも感情の行く先がほしいのだろう。わたしもそうだったから、よくわかる。


「お前たちッ!文句を言う相手がッ!」


 でも、わかるということと平気だということは一緒ではない。気持ちはわかるけれども、そんなふうに言われるとわたしもやはり傷つく。でも、今は仕方がないのだ。そう思っていた時に、声を出したのはポチだった。


「だまってっ!!」


 きっとポチは、わたしのことを嫌な言葉から守ろうとしてくれたのだろう。それでも、今のこの人たちには気持ちを向ける先が必要なのだ。その先がないと、きっと壊れてしまうのだ。だから、今は言われたままでいい。


「それなら、私が話そうか。そうだな、多くを語ってもきっと届かないだろうから、要件だけまとめよう」


 それなのに、ポチの言葉を引き継いでしまったのは王子だ。お願いだから何も言わないでと、余計なことをするなと言う。


「やめないさ。人を守るために働いた者に対して向けられるのがこんなものだなんて、為政者の見習いとして止められるはずがない。学生よ、悔しいのなら強くなれ。もう何も失いたくなければ、研鑽しろ」


 努力は、その分だけ力になるのだと。そうして手に入れた力で、今度は自分が守って見せろと。王子は柔らかい言葉でそう伝えて、わたしのことを言葉から守ってくれた。


 きっと、その言葉に裏の意図なんてないのだろう。けれどその言葉は、かつて誰も守れず、一人だけ生き残ってしまったわたしにそのまま帰ってきた。わたしの過去を知らない人からの、わたしの努力を肯定する発言。守りきれなかったけど、確かに守れた事実が、胸の中で広がる。


 うれしいなんて、思ってはいけない。まだまだ途中なのだ。もっともっと強くなって、しもべではない魔王を倒さなくてはいけないから、しもべなんかに手間取っているようではダメなのだ。


 そのはずなのに、王子の言葉はわたしの深いところに刺さってしまった。弱いところに刺さってしまった。


 かけられた上着が、わけもわからないくらい特別なものに思えてしまう。これでもう大丈夫だと微笑みかけてくるその顔を、直視することができなかった。



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 ちょっと別のやつの続き書くので1週間を目処に更新休みます(╹◡╹)


 https://kakuyomu.jp/works/16817139559160315896


 興味があったら読んでみてね(╹◡╹)

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