Q11.なぜ助けた側が責められるんですか?
幼女の楽しいお勉強タイムはよくわからない感じで終わって、そのまま楽しい気持ちでルンルンしながらお部屋で翌日の用意を済ませると、次の日は今まで通りの授業だ。楽しい授業とお友達との会話を堪能したあとだけに、寂しさもひとしおだね。
楽しいのと比較したさみしい時間にちょっとしょんぼり気味な幼女がいつも通り王子たちに絡まれながら授業を受けて、お昼がすぎたら選択科目の実技の時間。昨日の選択科目が貴族課程寄りの座学で、今日のは冒険者課程よりの実技だね。幼女の愉快な仲間たち+αは不思議なことに皆同じ授業を取っているので、エフちゃん以外はみんな勢揃いである。やーい、仲間はずれー。こういう言葉がたくさんの悲しみを呼ぶんだよなぁ……。
仲間と信じて送り出した幼女が、何やらやんごとなきご身分の方に目をつけられていることを知り、ぴぃって鳴いてる斥候ちゃんは大好きなお兄ちゃんの陰に隠れてしまった。元々は身分差なんて考えたこともない孤児だったのに、随分と学園でオベンキョウさせられたようだ。おバカなところがかわいかった子が教養を身に着けて、それまでの言行に青ざめるのってとってもかわいいよね。最初の一回しか楽しめない不可逆の魅力だけど、これだからわからせはやめられない。
同じように信じて送り出していた仲間たちは、魔法使いちゃん以外はいまいち状況を理解できていないらしいね。幼女が雑な対応しているから自分たちもそこまで気をつかわなくていいかと、そんなことを考えている。下手に機嫌を損ねたら数日後には縛り首になっていてもおかしくないというのにね。
若干の命の危険がありつつも和やかに始まった授業自体は、連携の訓練をしてみようという、幼女たちにとってはあまりにも簡単なもの。訓練も何も普段は実践をしているのだから、こんなことをいまさらやっても、と思ってしまうだろう。学園側の考えとしては、ある程度鍛えた冒険者の卵たちと、実用レベル程度に魔術を習得した魔法使いの卵たちに、お互いがいる環境を覚えさせることが目的だから、とても理に適っているのだけどね。幼女のパーティーは孤児の子供たちとしては異常だったのだ。
もともと気心の知れた仲間と組んだ幼女のせいで、幼女のためについてきた三人が置いてきぼりにされて勝手に仲良くなっているけど、そういうこともあるだろう。友達の友達と二人きりになって、もともと仲介していたそいつよりも仲良くなってしまう。こういうことばっかりやってるから上手にお友達を作れないんだぞ、アリウムちゃん。
そうしてなぜか王子の友達だけが増えて、そのあとのおしゃべりの中で仲間たちまで王子と打ち解ける。側近君は、この方をどなたと心得るーって言おうとしていたけど、アリウムちゃんに黙らされたから何も言えずに、おしゃべりの中にも入れなくなってしまった。おかげでこの子もまた友達ができていない。君の仲間はこの子だけだよ、よかったね、アリウムちゃん。
実際に幼女に伝えたらすごく嫌な顔をしそうな感想を抱きつつ、様子を見てるのだけれど、やっぱり全体的に幼女に向けられる視線はいいものではないね。ふーむ、私の愛し子がこんな風に見られているのは、やはりあまり面白いものではないな。周りにこの子を不幸にするような環境は、あってほしくない。アリウムちゃんを不幸にするのはあくまで私が罪悪感を持つためなのだから、全く関係ない連中に不幸にされるのは心底気に食わない。
そもそも、アリウムちゃんは私の愛し子なのだ。かわいくて愛おしくてたまらないからこそ、いとし子というのだ。そうしなくてはならない理由がない限り、できるだけ幸せになってもらいたいと思うのは当然の親心である。ゆえに、私は幼女が理不尽に避けられているこの状況をゆるすことができぬ。必ずや、かの悲しき学園生活を除かねばならぬと決意した。私には人の心がわかる。私は、世界の賢者様である。
というわけで、少しの間温めていた秘伝の策、テロリストに襲われてみんながピンチの中颯爽と戦ったらヒーローになれるよね作戦、開始である。三日以上は煮込んでいたから、きっと沁み沁みでうまうまになっているはずだ。沁みているのは共感性羞恥の元だけかもしれないが。
今日こそその時と勝手に決めたのは、初めての選択科目からひと月ほどが過ぎた頃。私が保有している妹ちゃんたちの内で、私の要素を混ぜすぎて化け物になってしまった子たちをいろいろな所から落とす。なんでこんなにまともな私の一部を入れただけでこんなにもおぞましい生き物になってしまうのだろうね。便利だからそれなりの頻度で使っているけれども、やっぱりわからない。世界には不思議なことがたくさんだな。
突然降って現れた化け物たちに、校内は一気にパニックになった。神聖な学び舎の中に突然化け物が現れるだけでパニック必死なのに、よりにもよっておとぎ話とかに出てくる邪悪な魔王のしもべと同じ姿で、物語通り恐ろしい火を使ってあたりを燃やしているのだもの。信仰心にあふれた賢者教団の信徒ほど、この世の終わりだと悲観的になってみんなの足を引っ張る。こいつら本当に役に立たないよな、全く、いったいどんな間抜けをあがめているのやら。
みんなを守る力を持つ賢者教団員がこぞって役に立たなくなって、まともな結界すら張れなくなってしまったので、学園はもう火の海だ。一般の教員たちやよい子な生徒たちが頑張って鎮火活動に励んでいるからまだ無事だが、再生する化け物に心が折れそうになっている戦闘要員も多いね。たとえ絶望的な相手でも、命ある限り全てをかけて戦うのが冒険者の誇りじゃないのかよっ!!もちろん、ただの不定期雇用な傭兵業の真似事に、そんな立派な誇りやら覚悟なんかが備わっているわけがない。
一人一人と逃げだして、残っているのは若い子供たちだけでも無事に逃がそうと立派な志を胸に奮闘する命知らずだけだ。
そしてそんな中で、異常な行動をとる生徒が一人。我らが幼女ちゃんだ。悪い奴が現れたらいつでもすぐに駆け付ける日朝女児アニメみたいに颯爽と現れて、女児アニメにはないバイオレンスな戦い方で化け物を攻撃する。いくら再生する化け物とはいえ、凌遅刑はよくないと思うんだ。そんなんじゃいつまでたってもキュアキュアになれないぞ!
化け物を刻むことに集中しすぎて、自分が焼かれてもお構い無しなその姿はまさにバーサーカー。表情がもうね、幼女がしていい顔じゃなくなっているんだよ。百年の恋も覚めるレベル。
そんなやべー顔で戦っている幼女だが、本人の成長が著しいこともあり、なんとか防具全損くらいで一匹目にトドメを刺した。なんの罪もない哀れな命がまた一つ、肉親の手によって奪われたのである。とても悲劇的だね。
そんな悲劇を引き起こした幼女はそんなことは知らんとばかりに亡骸から目を背けて、自分の身を隠せるものをその辺の生徒からはぎ取る。上着1枚しか撮らなかったのは、武士の情だろうか。いや、幼女に武士道精神なんてあるわけがないから、ただそれ以上は必要なかっただけだな。サイズ違いの制服一式貰ったところで動きにくくなるだけだもんね。
目の前のものを倒したにもかかわらず騒ぎが収まらないこと、誰も加勢に来なかったことから、まだほかにも何かあると察した幼女。借りた制服の袖を、動きにくいからと本人の前でバッサリ切り落とす。持ち主の心とか考えたことないんか?
不安そうに震えている子達をその場に放置して、向かうのは別の悲鳴が聞こえる場所。がんばれヒーロー、救いを呼ぶ声はまだまだ沢山あるぞ!
声の元に駆けつけて、その場にいたのは大事な仲間たちだった。いつもの冒険者幼年組、もう幼女以外幼年でもなんでもなくなってしまったな。いや、幼女がいちばん歳上なんだけどさ。それはともあれ、彼らは幼女みたいにこいつらとの交戦経験がないので戸惑ってはいたものの、周囲に被害が出ないよう綺麗に立ち回っていた。学園の職員君さぁ、生徒のガキ共に練度で負けてるって恥ずかしくないの?
信頼出来る特攻持ちが帰ってきたパーティーは安全第一でやっていたそれまでの方針を翻して、攻め手として幼女を採用する。この中で一番火あぶりの経験があるのは間違いなく幼女で、こいつらへの殺意が高いのも幼女、火に包まれても物怖じしない狂人も幼女だけなので、自然な布陣だね。仲間たちの目が、大切な人を死地に送り込む家族みたいになっていることを除けば、何も問題ないと言っていい。
そんなふうに仲間に見守られて、魔法使いちゃんの水魔法に守られて、たくさん頑張った幼女は二匹目の妹も討伐できた。何度切っても焼いても再生する化け物、討伐方法が回復できなくなるまで削ぎ続けるしかないってハードモードだよね。全く、私に似て生き汚いんだから嘆かわしいことだ。もっと潔くスマートに死ねばいいのに。
私に似て生き汚いことに目をつけて、こいつらがどうしたらスマートに死ぬのかを模索してみたこともあるのだが、唯一効果があったのは私のことを食べさせることだった。強化の薬を取りすぎて細胞がぶっ壊れるみたいな感じなのかな、ある程度食わせると、全身がボロボロになって風化していくんだ。もちろん私がやっても同じことにはならなかったので、全く意味の無い研究だったけどね。
またもや素っ裸の全身火傷まみれになって頑張っていた幼女がその辺の生徒から服を奪って、今度はみんなで纏まって次のところに向かう。同じ敵と戦う時って、だいたい一番最初が辛いよね。一人で倒した後に仲間と合流できたのなら、もうよっぽどのポカがない限りは安心だ。そして安心した頃が、人間いちばんしょうもないミスをするのである。私はそれを死にゲーで覚えた。
さて、一体どんな素敵なポカをしてくれるのかと期待しながら見守っていると、幼女は火傷まみれになりながらも危なげなく全部倒してしまった。全部と言うと少しだけ語弊があるな、他の子達がみんなで頑張って倒した一匹を除いた四匹を、みんなより早く倒してしまった。時間経過でサポート要因が増えたとはいえ、大戦果だね。 まさにヒーロー、英雄的活躍と言えよう。
さて、これでみんなも幼女の凄さがわかっただろう。戦闘能力の高さと、焼かれながらでも戦える強靭な精神、最後まで切れることの無い集中力。まさに英雄的ではないか。さあ、人の子らよ。これまで自分たちが避けてきた幼女に、腫れ物扱いしてきた幼女に感謝をして頭を垂れるが良い。そのままたくさんお友達になってあげてね、かわいくて自慢のわが子なの。
そんなふうに私が作戦の大成功を確信していると、なぜだか幼女たちの顔は暗かった。こんな完璧な作戦に成功したのに、そんなことあるかと思っていたら、十数人の被害者が出ていたことに心を痛めているらしい。なんだそんなことか、私もとても悲しいと思うけれど、これも必要な犠牲だったんだ。アリウムちゃんにお友達を作ってあげるためには、あなたたちの犠牲が必要だったのよ。運が悪かったと諦めなさい。
しかし、そう思っていたのは私だけだったようで、自分勝手な若者たちはどうしてもっと早く来てくれなかったのかと文句を言っている。誰よりも苦しみながらみんなのために頑張った幼女に対して、ただ助けられるのを待つだけだったものたちがだ。
これは良くない。良くないね。自分の無力さを棚に上げて人のことを責めるのは、精神安定の観点で言えば最高の方法だが、誰かと関わるとなると最悪だ。いいこと言ったな、こういうのは、自ら死ぬためにここまで努力をしている私が言うからこそみんなに響くのだ。誰にも聞かせていないけど。
もっと早く来れば○○はー、とかなんでもっと早くーとか好き勝手なことを言う学生たち。随分速さにこだわるなぁ、RTAでもしてるの?もっと心に余裕を持って生きなさいよ。
みんなを助けるために頑張った幼女が、何故か悪者扱いされているのを見るのはとても気分が良くないね。こんなことを考える連中なんて、そもそもアリウムちゃんのお友達にふさわしくないのかもしれない。そうなるとここにいさせるのは何もいいことがないので、学園ごとまるっと消してしまうのも考えた方がいいかもな。
そう思って一人悲しい気持ちになっていると、近くで立ち尽くしていた側近くんが突然大きな声を出し始めた。いきなりすぎてびっくりしちゃうね。そのままなにか話そうとして、幼女の悲鳴みたいな拒絶の言葉で黙らされたのはさすがに可哀想だ。何かいいことを言おうとしていたのに。
黙らされたことでこの場は収まるかと思ったところで、その言葉を引き継いだのは王子。普段の残念ストーカーと同一人物とは思えないほど真剣な顔と無駄にいい声で、ゆっくりと学生たちをなだめ、咎め、演説を披露する。これにはずっとストーカーを見る目でしか見てこなかったアリウムちゃんもポッとなっちゃうね。最初からそうしていれば良かったのに。
それを受けて気まずくなった学生たちの一部が謝りだしたら、あとは早かった。一度責める空気がなくなってしまえば、その後にまた責めるのは勇気がいるからね。王子くん、見事に幼女の好感度を稼げたようだ。やったねリーダー君、ライバルが増えたよ!
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