Q8.なぜ当たり前の幸せは突然壊れてしまうのでしょうか?だれが悪いんですか?

 エルフの何がいいって、寿命が長いから気軽にひとつの街で数年浪費させられることなんですよね(╹◡╹)

 これが人間だとこうも行かなくて、色々な場所で思い出をつくれせようとしたら長くても1.2年とかになってしまう。まああたいは飽きるからって理由でそのアドバンテージを捨ててるんだけどね(╹◡╹)


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 幼女が妹ちゃんをころころして、駆けつけた女騎士さんに持って帰られてから数年が経った。突然時間がたちすぎな気もするけれど、この数年間はそれだけ平和で見所がない時間だったからね。本人は楽しそうにわちゃわちゃしたり、たくさんの人との親交を深めたりしていたけれど、私としては見ていてつまらなかった。ほっこりはしたけどね。


 一向に成長しない幼女ボディに周囲から何かの病気かと心配されて、逆に幼女もどんどん老いていく周りにびっくりするなんて下りは何度もあったけれど、それはまあ種族が違うから仕方がない。周囲も幼女も、次第にそういうものなのだと受け入れていったさ。



 そんな幼女アリウムちゃん(20歳)が周囲から依然として幼女扱いを受けている話はともかく、どうやら一緒に冒険者として活動している子供たちがもっと上を目指すために学校に行くんだって。向上心がたっぷりな幼女もそれについて行きたいけど、今いる街の居心地が良すぎて迷っているのだとか。選択肢が多くて若者は羨ましいね。強制的に減らしてあげようか。



 というわけで、幼女がこの街から離れられない理由を探してみようか。何か問題があるのなら、それを解決してあげたくなるのが親心だからね。そうと決まったら幼女の妹育成実験を一時中断して、観察に移ろう。



 幼女のおてて越しに情報を集めること数日、事情はだいたい把握出来た。まず幼女を取り巻く環境としては、下宿先のホストファミリーこと女騎士さん、仲良し冒険者幼年組こと仕事仲間のミドルティーン男女二人ずつ、あとはいつも優しくしてくれる街の皆さんもろもろと言ったところだ。


 この幼年組がここの町を出て、さらなる上を目指すために学校で学びたいと考えており、幼女も私の書き置きに書かれていた内容から、そのことには同意している。向上心に溢れていて素晴らしい限りだな、少年少女。よーし、おじさんが一肌脱いで協力してあげよう!


 協力の約束を勝手にしたところで、今度は幼女が街を出たくない理由についてだ。おじさんはもう若者たちの向上心に心打たれてしまったため、強制的に消してしまう方のルートである。こちらの理由は、愉快なホストファミリーの二人に新しい家族が増えるらしい。なんともめでたいことだな。幼女にはもっと沢山作ってやったが。


 下宿人がいる横で仲良し()していた事実には驚くが、何年も一緒にいたらもう家族みたいなものだし、あまり気にしなくなるのだろうか。私にはもうそこら辺の機微がわからなくなってしまったので、なんとも言えない。


 要は、幼女がここにまだ残っていたい理由は、家族みたいに思っている二人の間に生まれる子供のことを見届けたいと、その子がどんな風に育っていくのか、お姉ちゃんとして見守りたいと、そういうことらしい。幼女、一人っ子で下のきょうだいに憧れていたからね。そうなるのも納得だ。


 本物の妹には気付かずに、嬉々としてコロコロしていた幼女の面白い感情ににっこりしながら、これからどのようにしてそれを諦めさせるか考える。


 要は、産まれてくる子供を見たいから別のところに行きたくないわけだね。合理的に考えよう、一番簡単なのは、その子供がいなくなることだね。何時でも帰ってこられるようにワープポイントを設置するのも手ではあるが、不幸なことに幼女にそんな高度なことは教えていない。もし知っていたらこんなふうに悩むこともなかっただろうから、かわいそうだね。


 もちろん私としても産まれてくる前の命を刈り取ることにはとても罪悪感があるのだが、幼年組の願いを叶えるためには仕方がないことだ。子供たちの無垢な願いと、生まれてすらいない命、本来なら天秤にかけられることの無いそれを私は無理矢理天秤に乗せて、子供の願いの方を下に固定する。


 昔の偉い人も泣くのなら殺してしまえホトトギスと言っていた。安眠を妨害する邪魔者など消し去ってしまえという素晴らしい名言だね。つまりは幼女の旅立ちを邪魔するホストファミリーにはそろそろ不幸になってもらうしかないということだ。他の方法も思いつくには思いつくが、ちょうど妹ちゃん2号の試験をしたかったのでそのついでにさせてもらう。一石二鳥、二兎を追って二兎を得る。これが合理的判断というものだ。


 というわけで、たくさん養殖した妹ちゃんたちの元に向かう。無機質な部屋の中で毎日毎日拷問みたいな訓練をしている可哀想な子供たち。どの子も、アリウムちゃんの血縁だね。みんな私が作った。製造段階で色々添加することで成長の方向性に違いを持たせているのだが、一部がそろそろ実用段階になったんだよね。


 というわけで今回送り出すのはこの娘、アリウムちゃんのお母さんことレアさんの細胞と、なんと私の細胞を混ぜて作ったかわいい娘だ。レアさんはアリウムちゃんに食わせたからもう居ないんじゃないかって?ははっ、生き物なんて肉片の一欠片でもあれば作り直せるんだよ。滅びと再興を繰り返してきた私には、多様性の確保のために獲物の一部を保存しておく習慣があるのだ。


 話を戻して、今回の子、とりあえずシーちゃんとでも呼ぼうか。滅多刺しにされた一人目の妹は今後ビーちゃんと呼ぼう。もう思い出すこともないかもしれないけどね。エーちゃん?Aはアリウムちゃんだよ。


 このシーちゃんだが、とにかく自己顕示欲が強い。いや、正確には、愛されること、私に注目されることに飢えていると言った方が正しいか。他の養殖物達みたいに疑問を持つことも無く、誰よりも真面目に訓練して、自分より成績優秀な子のことごとくを潰してきた。そんなにパパのことが好きなのかい?嬉しいなぁ。


 諸々の試験の結果を考えれば、単純な性能で言えばアリウムちゃんよりも優秀だね。私に対する忠誠心もとても高い、実に、実にいい駒だ。だからといって優しくしてあげるつもりはないんだけどね。だってこんな罪悪感の欠片もなく人殺しができる子なんて、殺されたいとは思えないもの。


 このシーちゃん、こんな適当に付けた名前で馬鹿みたいに喜んでいるシーちゃんに、いい子だから周囲に悟られないように女騎士さんを連れ出して、自然に見えるように始末しなさいと命令する。とりあえず期間はひと月ほど、ざっくりな命令だが、軽く微笑みかけながら言ったら耳をピコピコさせながら受け入れてくれた。このガキ超ちょろいな。アリウムちゃんが難攻不落に思えてくるくらいだ。


 全くどうしてこんなに都合のいい子に育ったのか。やはり私の教育洗脳の賜物か?教育者の素質の塊かもしれない。いや、ただ都合のいい子だからここまで育つことが出来ただけだな。都合の悪い子達はシーちゃんが嬉々として処分していた。処分された失敗作たちは、腐ってもエルフの系譜だからほかの姉妹たちに食べさせたよ。その分強くなれるし食費も浮くからね。蠱毒かよ。


 余談だが、シーちゃんの見た目はほとんどアリウムちゃんだ。正確には、お母さんのレアさんと瓜二つだったアリウムちゃんと瓜二つだ。お母さんの遺伝子強すぎかよ。お父さんや私の要素はどこに行った。


 劣性遺伝なオス共の話はともかく、促成栽培で育てたシーちゃんは成長をおくらせているアリウムちゃんと同じ年頃に見える。並んでみた時の違いは、心做しかしーちゃんの方が全体的にくすんで見えるくらいか。素材はほとんど一緒のはずなのに姉よりも暗く見える妹ってかわいいよね。どうしよう、こう考えるだけでこの子を愛せる気がしてきた。


 そんな冗談は置いておいて、シーちゃんを野に放つ。なるべく人を傷つけないようにとは言っておいたけど、果たしてどうなる事やら。もし万が一アリウムちゃんに危害を加えるようならその場で焼き殺さないとな。私の愛し子を傷つけるものなんて、この世界にはいらないのだ。



 以外にも私の言うことを素直に聞いてくれたシーちゃんが行動を起こしたのは、2週間後だった。それまでは森で魔物を刻んだり、街中でボヤ騒ぎを起こす程度。街は大騒ぎだったが、私の想定より全然マシだ。結界なんかに頼るからこんなことになるんだよ。


 しかしまあ、そんなに連続しておかしなことが起こると、当然街の人たちも原因究明いや、解決に乗り出すわけだ。その結果として、有志の街人と、ある程度以上のランクの冒険者が駆り出されて街の中や周辺の見回りをすることになった。結界よりも賢い人間を使うことになったわけだ。


 その中には幼女も入っていたが、今は関係ないので置いておこう。私が幼女の話を後回しにするなんて珍しいこともあるものだ。明日は雷かな。


 話を戻して、シーちゃんの行動だ。シーちゃんは一通り騒ぎを起こすと、場所を森の中だけに絞る。街の人は安心しながらも、警戒を緩めることはせずに有志が山狩りを始めた。森だけどね。


 さてさて、ところで女騎士さんは街の中でも腕が立つ人だったね。それも、森に熊さんポジのキメラを軽くいなせるくらいの。そんな人には当然、真っ先に声がかかるわけだ。いくら身重とはいえ、体調も安定している時期で、その気になれば軽い運動くらいなら問題なくできるときたら、女騎士さんもやる気になってしまうわけだ。


 心配しつつも止めきれなかった周囲から、絶対に無理はしないことを約束させられて、そして本人もそのつもりで山狩りに参加した。実際に、女騎士さんからすれば山狩りなんて大した危険もないものなのだろう。同行者の中には命の危険を覚悟しているものもいるのに、強い人間っていうのは気楽なことだね。


 そうしてまんまと街から出ることになった女騎士さん。シーちゃんはここまで考えてボヤ騒ぎを起こしたのかな?もしそうなら我が子の予想外な知能の高さにパパはびっくりである。


 この時点で怪しまれないように連れ出すという一番の難問をクリアしているわけだ。正直無理難題を言ったつもりだったのでここまでできているのは本当に予想外。生きた時間が違うからいろいろなことを知っていて、みんな知らないことを知っているから賢そうに見えるだけで、発想や地頭なんかでは凡人なのがばれてしまう。恥ずかしいね。


 しかし、ここまで状況を作れればもう成功したも同然だな。このままざっくりやっちゃって、雲隠れすれば終わりだ。謎の事件を追っていた女騎士はその犯人と思われる存在に殺されてしまった。犯人は確保できないまま逃げられ、それ以降犯行はなかったのでもう安全だろう。少し後味が悪くなるが、これであれば犠牲も最小限で済むし、筋書きとしては悪くないだろう。あとはシーちゃんが女騎士さんを刺して終わりかな。



 そう思って待っていたら、なぜかシーちゃんは女騎士さんたちの前に姿を現した。いくらアリウムちゃんよりは強いとはいえ、女騎士さんよりは弱いくせにだ。不意打ちで仕留めれば確実にやれたはずなのに、こんなところで姿をさらすのはいただけない。自分の強さを私にアピールする機会と勘違いしたのか、はたまた自分なら勝てると勘違いしたのか。どちらにせよダメだな。私はシーちゃんの評価を二つばかり下げる。


 このまますぐに行動に移して、処分して帰ってこれたら再教育、しくじるようなら明日には他の姉妹たちのおやつにしようと決めて様子を見ると、シーちゃんはわざとなのか、なにか意図があるのかその顔を山狩りの参加者に曝す。私の幼女にそっくりな顔、比べてみなければ、この場の人々はアリウムちゃんがいるのだと勘違いするだろう。


 そこで私は気付いた。このガキ、女騎士さん殺しの罪をアリウムちゃんに押し付ける気だ。みんなの前で、女騎士さんを殺せば、自然とその疑いはアリウムちゃんの下に向かうだろう。こんなことをしようとした理由は嫉妬だろうか、自分よりも弱いのに、私の関心を一身に浴びている幼女が妬ましくなったのだとすれば、納得はできることだ。


 シーちゃんを使ったのは間違いだったなと、どのタイミングで焼き殺すか考える。評価はもうどん底まで下がっているし、幸いにも幼女は街の中をパトロールしているので、無罪の証明はできる。シーちゃんがこの場で消えても、そこまで問題はない。


 そう考えながら様子を見ていると、シーちゃんは人々に見つかった直後に、アリウムちゃんと掛けられる声を無視して森の中に姿を消した。どうしたんだと呆気にとられる人々の中で、女騎士さんだけが心配して追いかける。私にはもうシーちゃんが何をしたいのかわからなくなっていた。


 そのまま逃げて、でも女騎士さんからは逃げきれなくて、つかまりそうになったところで振り向きざまに何かの液体をかけて、魔法で姿を隠す。その場には見掛け上、女騎士さんと一匹の魔物だけが残された。


 その魔物は、目の前にのこのこやってきた獲物に口から液を垂らしながら喜ぶ。それは、目の前の獲物がもう無力なことを知っていたからだ。それに気づいた女騎士さんは、すぐに警戒して逃げ出そうとして、自分の体が動かなくなっていることに気付く。シーちゃんから、なにかの液体をかけられたせいだった。


 液体は、その魔物の体液だった。その体液は、もし触れたらキメラでも瞬く間に動けなくなってしまう、強力な麻痺毒だった。


 その魔物が、女騎士に近付く。自身の末路を悟った女騎士は、そのことが受け入れられないのか呆然と立ち尽くして、倒れ込んだ。


 その魔物は、ローパー先輩だった。獲物が来れば男でも女でも関係なく苗床にしてしまう、恐ろしい尊厳凌辱生物だ。


 少し遅れて到着した山狩りメンバーが目にしたのは、既に達磨になり果てて、全身のいたるところに触手を刺されている女騎士さんの姿だった。素晴らしい終わらせ方に、私は一度処分を決めたシーちゃんにご褒美をあげることを決意した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る