Q3.なぜ弱った女の子にステーキを食べさせる必要があるのでしょうか?野菜くずと穀物を煮込んでミキサーにかければ十分では?

 18時31分って分換算すると1111分なんですよね。それが気持ちよくてこの時間にしたけど12:34の方がわかりやすくていいか……(╹◡╹)


 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


 丸焦げの焼死体と化した家族や知り合いしか残っていない里の中で、7歳の幼女がまともに生きることは出来るのだろうか。その疑問を解き明かすべく、私は滅びたエルフの里で観察を続けた。とかいうとまるで謎を追い求める探究家みたいだが、実際は自分が滅ぼした集落で幼女を眺めているだけである。こう言うとすごく変態っぽいな、実に度しがたい。


 そんな誰にも知られることの無い外聞のことはどうでもいいから置いておいて、記録としてはたった2日だった。何がって?かわいいかわいいアリウムちゃんが命の危機に陥るまでのタイムに決まっているじゃないか。一般的に水を飲まなくても3日は持つと言われているので少し短くも感じるが、無駄に沢山ゲロを吐いたり涙を流したりして水分を無駄にしていたのだから、多少短くなるのも仕方がない。


 横から見ていただけの私としても、焼死体になった幼子を弔おうと頑張って素手で地面を掘って、ボロボロ涙を流している姿には涙を禁じえなかった。私は極めて一般的な共感性を有しているので、可哀想なものを見たら涙が出るのは当然のことだ。特に石が引っかかって爪が剥がれてしまったところなんかは、思わず目を閉じて空を仰いでしまった。里だった森は真っ黒になっているのに、空はこんなにも青く美しく晴れ渡っている。たくさん地面に影が残っているから、影送りが捗りそうだ。みんなお空に送ってあげないと。


 とはいえこれもまた些事なのでどうでもよくて、大事なのはそろそろ死にそうなアリウムちゃんを保護することだ。不幸の一つや二つなんて、どうせその辺にころがっているのだから、今更ひとつ増えたところで対して変わらないのである。沢山作らないとねっ!!


 眠っているアリウムちゃんを適当に用意した寝床に転がしといて、私がするのはご飯の準備だ。アリウムちゃんには強い子に育ってもらわないといけないから、食べさせる餌にもそれはそれは気をつけなくてはならない。特に今なんて栄養が足りていないのだから、栄養価が高くて必要なものがギュッと詰まっているものを作らなくてはいけない。ところで奇遇なことに、私はつい2日前に沢山食材を入手したのだ。どうせだからこれを使って料理を作ろう。


 アリウムちゃんが見つけられないところで血抜きをすませておいた肉を回収して、何の肉かバレないようにバラバラにしておく。体毛や内蔵なんかはお薬の材料として使いまわせるので、取り分けて別の場所に移しておく。この生き物は捨てるところがないから素晴らしい。


 素材の味をしっかり楽しめるようにステーキにしたいので、お手ごろな塊部分を選んで、余分な脂肪を除く。人に必要な栄養素が全部入っている万能食材なのだが、可食部が少ないところはいただけないね。総重量の2割弱を占めている骨はそのままだと食べれないのでスープにしてしまおう。


 骨を綺麗にして、下茹して、臭み消しと一緒に煮込む。合計八時間もかかる作業なので、作っている途中でアリウムちゃんが起きてしまいそうなものだが、何も問題は無い。水分と一緒によく眠れるお薬を静脈から流し込んでいる。私はリスク管理ができるタイプなのだ。えへんっ!



 じっくり煮込んで数時間、そういえば昏睡する魔法かけておけば薬に頼る必要がなかったなとようやく気付いて、よわーい気付け魔法で幼女の意識を回復させる。わざわざ弱くしたのは自然な目覚めに近付けるためだ。いきなりパッと覚醒するのは、そこが知らない天井ならありだけどあいにくここは青空ハウスである。別名野ざらし。それならぼんやりする頭で状況を理解しきれない方が乙なものじゃないか。私はロマンとお約束を大事にするタイプなんだ。


 目をしょぼしょぼさせながら開けて、私のことを見つけて跳ね上がるアリウムちゃん。とりあえず落ち着かせるために、手元にあった豚骨もどきスープを飲ませる。少し、というかだいぶ飲みずらそうだ。しまったな、最初の水分くらいは、白湯でも用意しておくべきだったか。


 とはいえいい子いい子なアリウムちゃんは慣れない豚骨もどきスープでも文句を言わずに飲んでくれて、水を飲みたそうにしながらもお礼まで言ってくれた。私としたことがラーメンのスープと同じ濃さにしてしまっていたので、少し薄めておこうか。


 そんな考えは一切顔に出さずに、しれっと水を飲ませたら、私が戻ってきたらこうなっていたこと、何があったのかわかる範囲で教えてほしいと伝えて、アリウムちゃんから話を聞き出す。こんなことをしているとまるで私が必要も無いのにトラウマをほじくっている酷いやつみたいだが、これにも理由があるんだ。


 私はここにいなかったことになっていることもあるし、それだけではなくアリウムちゃん自身の認識がどうなっているのかも確かめられる。もちろん魔法の力を使えば頭の中を覗き見ることくらいは簡単に出来るが、それはプライバシーの観点からするべきではない。これが一番だ。つまりは、私は人の道に反したことはしたくないのである。


 その結果、アリウムちゃんにストレスがかかって吐いてしまったのは、まあ仕方の無いことだ。ニンゲンの、それも幼女の精神がそんなにストレス耐性を持っているわけがないのだ。虐待されていたとかならまだ耐えられる可能性はあったが、このアリウムちゃんは私が自信を持って断言できるほどの温室育ちである。生まれながらにして決まっていた婚約者?周りと違って自由に遊べない環境?うるさいなぁ、野菜だってストレスをかけることで美味しくなるんだよ。トマト先輩を見習いなさい。


 それはともかくとして、吐くのは良くないよね。仕方がないこととはいえ、良くないよね。せっかく私が手間隙かけて作った豚骨もどきスープなのに。食べ物は大切にしなくてはいけません。もったいないお化けになって出てきちゃうからね。


 とはいえ、ゲロになってしまったらそれはもう無価値だ。私の優しさをふんだんにアピールしがてら、アリウムちゃんの吐き出した大切だったものを掃除する。まあ、今回は胃の中に大切なものが入っている状態でフラッシュバックさせた私が悪いとも言えるので、素直に謝っておこうか。ごめんなさいができてえらい。私えらい。


 少し落ち着くまで様子を見て、大丈夫そうになったら晩御飯を食べさせる。食欲がないと言っているが、何も食べないと体に良くない。そして私が用意したのは、必要なものが全部入っている万能食。空きっ腹にはパンチが強いかもしれないが、食べてもらわないことには始まらない。これまでずっと食べてきたお肉やお野菜なんかは、ついしっかり私が消し炭にしたからね。これ以外に食べれるものなんて、そもそもなかったのである。


 ほかの食べ物がないことを伝えると、アリウムちゃんは少し顔を青くしながらも食べ始めた。とっても貴重で、大切なものだと伝えたから緊張しているのかもしれない。いや、ただ吐き気を我慢しているだけだな。せっかく素材の味を活かしたステーキにしたのに、もったいない。ちなみに私は素材の味なんかどうでもいいのでおろしニンニクと醤油をぶっかけて食べてる。エルフの舌には合わないようだけど、これが美味いんだ。ニンニクはかければかけるほど美味くなる。異論は認めよう。


 がんばって、用意された食べ物を食べきったアリウムちゃんを眺めて、よく食べきれたねと褒める。他に何も無かったとはいえ、他のものよりも食べずらい物を食べさせたのだ。私も油でやられる体質なのでそのつらさはよく分かる。


 そこからは、周囲の人を全て失って落ち込んでいるアリウムちゃんのケアだ。私も何の意味もなく里を焼き払ったわけではない。ここから私を殺すためにアリウムちゃんには頑張ってもらわなくてはならなくて、その動機付けの一環だったのだから、それっぽい話に誘導する必要がある。本当はもう少しゆっくり思考誘導をしようと思っていたのだが、今のこの子のメンタルを見ると、なるべく早い方がいいと思った。このことを苦に自殺なんてされてしまったら、里を焼いた意味もなくなっちゃうからね。



 里を襲った私のことは、おとぎ話に出てくる魔王ということにしておく。永い眠りから覚めるたびに何度も何度も世界を滅ぼして、人の営みを台無しにし続けているという、わるーい存在だ。たまに地下の遺跡から現行技術をはるかに超えた遺物が出てくる理由とされているものでもある。……まあ、要はやけっぱちになったりした時の私のことなのだが。


 嘘はついていないのだから問題ないか。あれが魔王と言われているのは本当。ただ、その正体が私であることや、動機がアリウムちゃんを苦しませるためということを話していないだけである。日本だったら詐欺でアウトだな。


 後はなんか適当にそれっぽい理屈をこねこねして、私が魔王と戦えないと話しつつ、アリウムちゃんの心が復讐に染まるようにする。私は一応賢者様だからね、自分で戦わないためには理由が必要なのだ。


 その気になってくれたみたいなので、サポートすることや修行のお世話をしてあげることなども約束する。あんなにお勉強を教えてもらいたがっていた私から直々にお世話をしてもらえるのだ。望みがかなってよかったねっ!!


 そのわりには全くうれしそうじゃないし、むしろ悲壮感と憎しみに染まってしまっているが、まあ、目的に対して執着心が良いことだ。このまま壊れない程度に思いつめて、自分をいじめてくれるように祈ろう。



 ああ、子供が自責の念で苦しんでいるのを見るのは、心が痛いなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る