悠久の賢者ベネディクトゥスはそろそろ死にたい

エテンジオール

Q1.なぜ無辜の少女はおもちゃに選ばれてしまったのか

 見切り発車なので人によっては不快なシーンがふんだんに使用される可能性があります。苦手な人はお気をつけ下さい。タグは随時足していきます。


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 悔いの残る死に方をした。詳しいことはもうほとんど覚えていないが、とにかく納得できなくて受け入れられない死に方をしたのだけは覚えている。あまりにも古い記憶過ぎて、自身の記憶なのに推測するしかないが、多分信頼できる人に裏切られたとか、不名誉かつ不本意な死に方をしたとか、そんなものではないだろうか。


 今となっては覚えてすらいないような過去の事でも、その昔の頃はたいそうなことだったのだろう。恨みに恨み悔いに悔い、現代日本でゾンビとして復活しようとしたところで謎の多胞体に、それはちょっとよくないとおもうから別の世界で成仏しておいでと言われて、気がついたら見知らぬ平原にいた。


 当然当時の私は宇宙猫になったし、その影響で一時的に悟りを開いて多胞体の言葉を意訳すると“悔いの残らない死に方をするまでは何度でも生き返られるような加護をあげるから、その世界で好きなように過ごすことで満足してくれ”という意味だと分かった。そしてその直後、役目は果たしたとばかりに悟りは閉じてしまったのである。意味が分からない。


 意味は分からないけど、とりあれず何があっても命の保証だけはされていることはわかったので、とりあえず草原を歩き回って、心地いい風が吹くその場所で水の一滴も見つけることができず、三日後に干乾びて死んだ。最後の方は少し、頭がふわふわして気持ちよかった。


 次の朝日が昇るのと同時に生き返って、悟りの内容が事実だったことを知り、私は何も怖くなくなって無人の草原を歩いた。生水でお腹を下したり、よくわからない草でお腹を下したり、綺麗な赤い花で再び悟りを開きかけたりと、様々なことを経験しながらようやく人に出会ったときには、私は何度もの死を経験していた。


 そんな状態でのファーストコンタクトはうまくいかず、雨風にさらされたことでほぼ全裸体であった私はスプラッタシャワーで遊んだ直後なことも忘れて駆け寄り、護身用であろう剣で首をスパーンと飛ばされた。勇者わたしは、ひどく赤面した。当然赤く染めた血は体の外側からだったが。いろいろ恥ずかしすぎて、死んでも死にきれない。



 そこからは、化け物と間違われたり殺されたりしていくうちに人々に馴染み、向こうの言語を習得することも、いつの間にかずっとお世話してくれるようになっていた少女と一緒に暮らしたりしていたが、ある日鎧を着た人たちに滅多刺しにされてから燃やされてしまった。どうやら私は、何度殺しても村を襲いに来る不死身の化け物だと思われていて、少女はそんな化け物の機嫌を保つための生贄扱いだったらしい。私は少し傷ついた。


 焼かれながらそんなことを知り、骨も残らないくらい焼かれたら全く別の所にリポップっすることを知った。まあ、あまり役に立たないことだ。


 それはさておき、自分の扱いを知った私は嘆いて、嘆いた。悲しくって、悲しかった。だから人の言語を覚えようとして、覚えた。その間に見つかってリポップすること三十といくつか。町に入ると、私は不死の化け物として指名手配されていた。


 けれど、こんなことでは私はいつまでたっても狙われて、心残りを残さない満足のいく死など望めない。それでは困ったことになるので、長い時間をかけて、知識と力を蓄えて、化け物なんて私に対して不名誉なレッテルを貼っている不届き者どもを根絶やしにした。その影響で文明が千年ほど逆戻りすることになったが、その千年は私が苦しんだ千年なので戻って然るべきだった。


 けれども残念なことに私はそれでも満足ができなかったようで、死ぬ事は出来なかった。まあ、まだ幸せになっていないのだから仕方がないだろうと思い、荒地と化した国跡に街を作り、300年かけて元の文明を超える国に育てた。人としての欲望は大方満たして死んでみたのだが、国の行く末を見たいという未練が生まれてしまい、死ぬ事は出来なかった。


 ならば今度は行く末を見たら、滅んだわが国の子らの生き残りの今後が気になってしまい、完全に滅びるのを見れば復讐をしたくなる。何も無くとも、滅ぼした国の孤児たちが気になって死ぬに死にきれず、いっそ世界中を不毛の大地に変えても、再び緑に覆われた大地を見たいと思ってしまう。


 その辺のことはだいぶ長くなるので割愛するが、何度死んでも、何度リポップしても、私が満足できることは無かった。私はどんな些細なことでも悔いに思ってしまうほど、感受性が豊かな人間だった。


 その後は数世代の虚脱と数世代の奮起、そして終焉を繰り返して、元々原生していた生命体はすっかりいなくなってしまった。今の世界にあるのは、どれもそれらを模して私が作り出した人造物である。魔法というものはとても便利だ。


 そんなことを繰り返しているうちに、次第に記憶は薄れて、自分が何回死んだのかすらわからなくなった。どんな死に方の経験があるかは覚えているけれども、合計数はとても覚えていられくなった。死なないことをいいことに自分の命を代償として使ったりしていたのだから、しかたがないと言えば仕方がない。




 話がだいぶ長くなってしまったが、もう少しだ。もう少しだけ、付き合ってほしい。


 そんなふうに、色々な経験をしてきた私だが、生来の優しさや真面目さゆえ、これまで人に対して積極的に悪意を持って接したことはなかった。とりわけ、恨まれて妥当な行動、悪逆非道を尽くしたようなことは、することが躊躇われた。


 けれども、私はそろそろ疲れたのだ。このまま生きて、あと何度人類を再興すればいい?何度滅ぼせばいい?私はいい加減終わりたい。でも、加護がそれを許してくれない。死ぬ前に誰かに感情移入して、ああしてあげたい、こうしてあげたいと思ってしまう優しさが、それを許してくれない。


 なら、今度は逆だ。死にたい、死んでしまいたい。是が非でも死ななくてはならないと思えるような死に方が、私に訪れたなら。そうすればきっと私は、悔いを残すことなく死ぬことが出来るだろう。


 そのために、一人の子供を虐め尽くそう。この子になら殺されてやらないとと思えるくらい、徹底的に虐げよう。それならきっと、心優しい私は自分の死を心の底から願えるようになるから。




 そのためにまずは、エルフの里に火を放とう。



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 タイトルとか紹介文とかまともにかける作者さんすごいよね。ガチで尊敬してる(╹◡╹)

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