第16話(1)元ブラック社畜の探索者(敵視点)
青山平八26歳。元ブラック企業勤務の社畜。
かつて彼が勤務していた企業は、新興のダンジョン探索会社だった。薄給で毎日100階層まで探索を強いられていた青山は、偶然、100階層でS級モンスターに襲われていた美少女配信者ハルル(18歳)を助け、彼女のダンジョン録画に映りこむ。
美少女配信者の動画がバズり、規格外の力を持つ青山は一躍、時の人となる。
ちょうどそこでブラック企業を追放された青山は、美少女配信者ハルルとともにダンジョン配信者となり大成功をおさめる。
以上、青山の大成功にいたるまでの道のりすべて、やらせである。いや、演出である。
そもそも、配信動画に演出のない動画なんてない。
だから、青山の成功はしごく真っ当なものである。
会社員だった青山は確かに100階層まで潜っていた。それに配信者ハルルは実在した。
その他はすべて仕組んだこと。
青山の勤務先は、世界的にはブラックだったが、日本企業の中ではホワイトだった。
装備・アイテムの供給、各種探索サポート、そして何より定年までの安定収入に魅力を感じて、青山は、このダンジョン探索会社に就職した。
だが、青山は探索者として本人の予想以上に才能があり、就職前に思っていた以上の成果をあげるようになった。そしてしだいに会社に利益を吸い取られるのが嫌になった。
だから青山は、大人気“美少女”配信者ハルルにコラボを持ち掛け、独立することにしたのだ。
ちなみに、美少女配信者ハルルが18才だというのは嘘だが、実年齢は24歳だから、配信者としてはかなり良心的なサバの読み方だ。なにせダンジョン内では40才くらいサバをよんでいる者もいる。
ダンジョンメイクを落とした素顔のハルルも、わりとかわいい方だから配信者としてはまったく良心的な盛り具合だ。
青山の計画は、うまくいった。
フリーのダンジョン探索配信者となった青山はかなりの大金をかせぐようになった。
有名人とも知り合いにもなった。
きれいな女達がまわりを囲んでチヤホヤしてくれるようになった。
だが、それに比例して青山の金遣いは荒くなった。
日本を牛耳る最上層の金持ちは、けた違いに金持ちだった。
彼らと同じように遊ぶには、もっともっと金を稼がないといけない。
無限ループのように、金は稼いでも稼いでも足りないように感じた。
通常の金印アイテム売却と配信収入だけじゃ、豪華なセレブの暮らしには足りない。
青山は独立してから、フリー探索者としての依頼も受けていた。
依頼主からダンジョンアイテム入手の依頼を受け、そのアイテムを入手してくるのだ。元々ダンジョン探索会社が行っていた事業のひとつだ。
より多くの金をかせぐため、青山は仕事の難易度と量を増やしていった。
そもそも青山はとある“チート装備”を持っていたため、高難易度の探索も可能だったのだ。
ある日、青山はとある日本の権力者から依頼を受けた。次期首相候補とまでいわれている政治家だ。
決して口外しないこと、という条件とともに依頼されたのは、万病を治す金印アイテムの入手。
おそらくその政治家は不治の病で余命が長くないのだろう。
金印の栄養剤や解毒薬の類は不要とのことだ。すでに試していて、効果がなかったのだろう。
心当たりといえば、万能薬。
問題は金印の万能薬はいまだかつてダンジョンで見つかっていないことだ。
だが、政治家からの情報によると、実は公表されていないだけで、海外のダンジョンであらゆる病気を治す金印アイテムが見つかったことがあるというのだ。
それは、ダンジョン100階層のその先にある上位ダンジョンの宝箱で見つかったという。
同じようなダンジョンが、国内にもあるはずだ。そのダンジョンに潜り、万病を治す金印のアイテムを見つけてこい。
報酬はいくらでもはずむ。
青山は、そんな依頼を受けて、裏ダンジョンに向かった。
・・・
「アオハルー! みんなアオハルしてる~? アオハルチャンネルだよ~! 今日は今話題の裏ダンジョンに来てるよー!」
自撮り棒をもつ美少女配信者ハルルのハイテンションな声が不気味なダンジョン内に響いた。
青山は金印の万能薬探しのついでに裏ダンジョンの動画配信をする予定でハルルを連れて来た。
録画アイテムの中には自動撮影してくれるドローンも存在するが、ハルルがもっているのはスマホ型の撮影機だから手動だ。
青山は裏ダンジョンの情報を可能な限り入手してきた。
裏ダンジョンは1階層の移動が10階層の移動に相当するという信じられない難易度のダンジョンだった。
青山には通常のダンジョンなら何百階層まであっても攻略できる自信があった。
だが、一気に10階層分の移動をしてしまうということは。普通のダンジョンならその間に手に入れていたはずの装備やステータスアップが一切存在しないということだ。
つまり、各階層で通常の10倍以上のステータス上げをしないといけない。それを知らずに挑んだ愚か者が次々に命を落としたのは無理もない。
だが、このダンジョンの特徴を知っていたとしても。正攻法で攻略するにはとてつもない努力と忍耐心が要りそうなダンジョンだった。
このダンジョンに適性を持つ者がいるとすれば、きっとそれは、バカみたいに慎重で、ダンジョンへの異様な執着心を持ち、不断の努力を苦としない努力家だろう。青山には、そんな探索者がいるとは思えなかった。
そして、ダンジョンの攻略がうまく進んだとしても。この裏ダンジョンには四天王と呼ばれる存在が別格として存在するらしい。
その異様な強さと葬られた探索者の数から、四天王の4人は、実は探索者ではなくダンジョンがつくり出したモンスターだとも噂されていた。
このダンジョンでは、手段を選んではいられない。
青山は決断した。あの“チート”武器を使うと。
青山の力の源、ダンジョンでの成功をもたらした、あの武器。
「ハルル。探索者と遭遇した時には録画をきれ」
「え、ハ、ハイ……」
配信動画の中ではハイテンションなハルルこと春田瑠理香だが、実は動画の外ではいつも暗くて気が小さい、小声でしゃべる臆病者だった。
その分、青山にとっては奴隷のように使える都合のいい女だったが。
「これから見ることは、誰にも口外するな」
青山はそう言いつけてから、あの武器を取り出した。
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