第15話(2)おばあちゃん(レナ視点)
あたしが欲しいのは愛。
だけど、わかってる。あたしは愛されるに値しない子。
だって、あたし、悪いこといっぱいしてきたもん。
だけど、そんなあたしのことを愛してくれる人が世界にひとりだけいる。
それは、おばあちゃん。
だから、あたしはおばあちゃん子。おばあちゃんが大好き。
パパはあたしが小学生の頃に死んじゃって、それからちょっとしてママは再婚した。
義理の父親は、お金はあるけど最悪の男。やたらと体を触ってきたり、お風呂に入ってきたり、寝ている所に近寄ってきたり。
これ、いつか襲われるなって思って。中学の頃は友達の家を泊まり歩いて、ほとんど家に帰らなかった。
家では不良少女扱いされてた。
実際、ヤンチャな連中とかとも付き合ってたけどさ。
でも、あたし、このまま家出少女として一生社会の底辺這いずり回るのはイヤだって思うようになって。
それで、死んだパパの方のおばあちゃんに泣きついたの。
あたしをおばあちゃん家においてって。
中学卒業の頃におばあちゃん家に引っ越して、それから、高校で夢の陰キャデビュー。こっち来てからは、うまくやってると思う。普通の高校生になれた。
全部、おばあちゃんのおかげ。
おばあちゃんはやさしい。
だけど……。
「はーい。おばあちゃん。お茶」
「ありがとう」
あたしは食後のお茶を運んだ。ダンジョンでゲットしたポーションとかをブレンドしたあたしのスペシャルなお茶。
「レナちゃんのお茶はとてもよくきくからね」
「そうでしょ。これのんで、元気になって」
おばあちゃんは、末期がん。
余命半年って数か月前に言われた。残りあと、数か月。でも、いつ死んでもおかしくないとも言われてる。
治療法は、もうない。
「おかげですっかり痛みもなくて、元気だよ」
ポーションでがんは治らない。抗がん剤の副作用やがんの痛みはやわらげてくれたみたいだけど。
「おばあちゃんの病気は、絶対、あたしが治すから」
「ありがとう。でも、あたしはもうとしだからね」
「まだ70歳にもなってないじゃん。おばあちゃんには、まだまだ長生きしてもらうんだから」
きっと、もしも命の重さに順位がついてたら、おばあちゃんの順位は日本で最後尾。
年寄りなんてきり捨てて、将来のある子どもや優秀な能力を持つ人を助けろって声が聞こえてきそう。
でも、あたしにとっては、おばあちゃんが一番。
おばあちゃんがいなくちゃ、あたしは生きていけない。
あたしみたいな悪い子がどんなに願っても、どうせ神様は願いをきいてくれない。
だから、自力でどうにかするしかない。いつもそうだったみたいに。
唯一の希望は、金印の万能薬。50階層の初回ボス討伐報酬。
偶然、工房でナビの話を聞いちゃったけど。
聞いたからには、引けない。
あたしが金印の万能薬を奪ったら、キョウは絶対にあたしを許さない。
前に、あいつがシンにゆずろうとしていた金印の栄養剤を盗ろうとした時ですら、あいつはガチギレしてた。普段は横取しても文句言うだけだけど、あの時は殺気すら感じた。
金印の栄養剤なんてそんなにレアでもないのになんで? ってそのときは思ったけど。
ダンジョン外でシンのことを知って、理由は理解した。
あたしが万能薬を奪ったら、あいつらとは、終わり。
それでも、あたしは万能薬を手に入れるつもり。
だって、あたしには、おばあちゃんしかいないもん。
誰かが言ってた。失恋は3か月もあれば忘れる。新しい恋が始まれば、もっと短い。
恋とか好きとか言ったって、どうせそんなもん。
ダンジョンで説教仮面に会って、あたしは頼んだ。
「説教仮面。いっしょに50階層のボスを倒して。なんでもしてあげるから」
「なんでも?」
「そ。あー。エッチなこと要求するつもりー?」
冗談で言ったら、あの堅物、真顔……顔は見えないけど、真顔な声で返してきた。
「そういうことは冗談でも言うものではない。だいたい、君は未成年じゃないか?」
「あたしは、バリバリおとなですぅー」
ま、こういう反応だろうと思ったから言った冗談だけど。
こういう反応する大人じゃなかったら、手を組まないけど。
あたしは真面目に説教仮面にお願いした。
「他のアイテムはなんでもあげるから、50階層の金印の宝箱手に入れるの手伝って」
説教仮面は少し考えて、こういう条件をだした。
「我々が目的のアイテムを手に入れたら、君は二度とダンジョンに立ち入らない。この条件なら受けよう」
「いいよ」
おばあちゃんを助けられるなら。
今までけっこう楽しかったけど、バイバイ、ダンジョン。
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