第13話(3)パー太ぺー太の最期(レナ視点)

 あーもう! いらいらする! 

 なんで、男ってああいう見た目だけかわいいビッチにすぐだまされんの?

 とか考えてる、自信のない自分にもいらつくし。

 とにかく、あのバカ忍者が愛理ビッチなんかに構っているのを見ると、気にさわってしかたない!


 はぁ……。

 にしても。どうみてもキョウのあたしへの好感度低いよね? 

 そりゃ、日ごろの行いふりかえってみると、わからなくもないんだけど。

 あたしって赤坂愛理みたいに外面とりつくろったり、かわいく振る舞ったりってできないんだよねー。

 だから、あのビッチにこんなにいらつくの……? 

 あーもう! いらいらする!

 はぁ……。


 あたしが、20階層でため息をついていると。

 歪んだ顔の男が二人、こっちに気が付いて、ニヤニヤ笑いながら近づいてきた。

 同じ顔だから、たぶん双子。

 それぞれ首の左右対称なところに刺青が入っている。どう見てもカタギじゃない。さっき11階層でキョウが倒してた坊主刈りの男も刺青入りだったけど。


 こいつら、きっと、蛮槃會。

 蛮槃會の生き残りが、仇打ちに攻めこんできたみたい。

 いつのまにか、蛮槃會が20階層まで来れるようになってたなんて。

 うかうかしてらんないかも。

 恋する女の脳内会議なんて開催してる暇ない。


「なぁ、ペー太、女がいるぜ? 疼くぜ疼くぜ。打ちこみたい。打ちこみたいなぁ」

「おう、パー太、ありゃ、いい女だな。切り刻みたい。切り刻みたいなぁ」


 最悪。こいつら、ふたりいる分、邪悪さも2倍。

 あたしは、いらいらしていたし、そうじゃなくても2秒と見ていたくないタイプの奴らだったから、即座にファイヤーボールを連発した。


「ぐわぁっ」

「なんて巨大な炎だ!」


 目くらましのファイヤーボールをうちながら、距離をとって矢を連射。

 パラメータと装備から判断するに、こいつらの戦闘スタイルはどちらも近接タイプ。

 敵はわりとステータスが高くて2対1だから、危険は冒さない。

 近接タイプの相手には距離をとるのが鉄則。

 と思ったんだけど。


「なぁーんてね。こんなんきかねーぜ。なぁ、ペー太」

「おう、パー太。炎なんてきかねぇよな」


 あいつら炎耐性の装備っぽい。

 ファイヤーボールじゃほとんどダメージがあたえられなさそう。

 距離はつめられたくない。

 あたしはひたすら矢を放ち続けた。


「さぁ、じっくり打ちこもうぜ。アレでダンジョン入ってから108体目のお愉しみだ」

「おう、ゆっくり切り刻もうな。アレでダンジョンで108人目のお楽しみだな」


 ハンマーとナイフをそれぞれ手に持って、双子の悪人がこっちへ向かって走って距離をつめようとした……ところで、急に足をとめた。


「ん? 動きが変だ……」

「こりゃ、マヒかぁ!」


 当たり前。あたしがさっきから放っている矢は全部麻痺矢だから。状態異常効果を高めた改良麻痺矢を大放出。

 麻痺がきいてるのを確認して、あたしは一気に中距離まで距離をつめてムチをぶちこんだ。

 ムチで装備をはぎとってからファイヤーボールをうちこんで、また距離をとる。

 今度はちゃんと燃えた。


「熱いい! 熱いい!」

「体が燃えているぅ!」


「なんでこんな目にぃ!」

「助けてくれぇ! おれだち何も悪いこどしてないぃ!」


 あたしは、距離をとってファイヤーボールと矢をうちこみながら言った。


「悪いことしそうなこと言ってたじゃん。108人目って、あんたたち107人も殺してんでしょ?」


 双子の殺人鬼は炎の中から怒鳴り返してきた。


「だとしたらなんだぁ! 俺達は蛮槃會の殺し屋だぁ!」

「蛮槃會にでをだすと、酷い目にあうぞぉ!」


 やっぱり蛮槃會。

 どーでもいいけど、あたし、蛮槃會には容赦ないの。

 あの双子を始末するまでちょっと時間がかかりそうだから、長話すると。


 昔々、あたしがまだ純真無垢な小学生だった頃。あたしには「ミアお姉ちゃん」と呼んでた年上の友達がいた。

 高校生だったミアお姉ちゃんはとってもきれいで、ファッションやお化粧のことをなんでも知っていて色々教えてくれた。

 あたしはミアお姉ちゃんが大好きだった。


 お姉ちゃんはヤンチャな感じの彼氏と付き合っていて、ある時、その彼氏が蛮槃會とトラブルになって、そして、ミアお姉ちゃんは蛮槃會に拉致されて、命にかかわる重傷を負うほどレイプされた。

 そのときは一命をとりとめたけど、PTSDで、お姉ちゃんはオーバードーズと自殺未遂を繰り返すようになって、1年後、ついに死んだ。きっと、すぐに死ぬより、ずっと辛かったと思う。


 だからあたしは蛮槃會を許さない。

 といっても、たぶん、この双子はミアお姉ちゃんを襲った奴じゃない。だって、こいつらだったら、犠牲者を生きて返さないだろうから。

 でも、こういう奴らはダンジョンの養分にするのが一番。あたしの目的を果たすためにも。


 蛮槃會の双子殺人鬼は、丸焦げになって矢が全身にささった状態で、まだ生きていた。もう脅し文句を言うこともできなくなってるけど。

 ダンジョンって、弱いと一瞬で死ぬけど、逆にそこそこ強いとダンジョン外なら死ぬような状態でも簡単には死ねないんだよね。


 巨大なヘビみたいなモンスター、デビルアナコンダがちょうど二匹寄ってきたから、あたしは攻撃をとめた。

 とどめまで刺してやる必要はない。

 二匹の大蛇が噛みついたと思った次の瞬間にはパーとペーの全身に大蛇が巻き付いていた。

 バキボキとたくさんの骨が折れる音が響く。

 あのモンスターは獲物に巻き付いて全身の骨を折った後で丸飲みにして、腹の中で数時間かけてゆっくり溶かしていく。

 双子がモンスターの口の中にするりと消えた。

 この状態、中からは脱出不可能。すぐに外から仲間がモンスターを斬り裂けば、飲みこまれた人間がたすかることもあるけど。ここにいるのはあたしだけ。

 デビルアナコンダのふくらんだ腹をしばらく眺めて、あたしは次の階層にむかった。

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