第10話(2) ペロキンさんと再会(シン視点)

 車イスは、不便だ。ただ電車やバスに乗ってどこかへ行く、お店に入ってご飯を食べる、それだけで、いちいち連絡したりお願いしたりしないといけない。

 自分の足で自由に歩けなくなっただけじゃなくて、僕はこの世界で自由に動けなくなったのを実感する。


 誰かのたすけなしには生活できない。

 そんなことが、これからどんどんと増えていく。

 憂鬱だ。

 いったい僕はいつまでダンジョンに通えるんだろう。

 でも、後ろ向きに考えてもしかたがない。


 よし。ダンジョンの一日一日を全力で楽しもう。

 

 そう決意して、僕は今日もダンジョンに入った。

 11階層でキョウに会った。


「今日は35階層めざす?」


 ジャンヌさんに食材入手用ナイフをもらってから、僕らの探索は一気にスピードアップした。

 正確な数値はわからないけど、キョウが作るダンジョン料理を食べるとたぶん最大で30%くらい強くなっている気がする。

 でも、今日のキョウはなんだか様子がおかしかった。


「あー。俺、今日はちょっとこの辺りぶらぶらすっから。またな」


 キョウは僕の方を見ない。


「じゃあ、僕もいっしょに……」


「いや、俺は今日ちょっと、ひとりでいたい気分だから……」


 僕はちょっと心配になった。


「だいじょうぶ? 話、聞くよ?」


「いや、ショックなことがあってひとりでいたいとか、そういうんじゃねーから。気にすんな」


 キョウは何かを隠しているような気がする。でも、話したくないなら、しかたない。

「じゃあ、僕は行くけど……」と言っているところで、むこうから数人、人が歩いて来た。そのうちの一人、黄色い髪の人に、僕は見覚えがあった。


「あれ、このあいだの……」


 僕が町で不良にからまれて困っていた時に助けてくれた人だ。

 ペロキンさんという人気配信者で、動画撮影のできるとてもレアなドローンを持っているすごい探索者だ。


 キョウが舌打ちした。キョウは配信者の人に撮影されるのが嫌だからかな。

 キョウは「なんでこのタイミングで……」とブツブツつぶやいていた気がするけど、よく聞こえなかったから気のせいかもしれない。


 ペロキンさんは僕に気が付いて、驚いた表情になった。


「え? 君は、ひょっとして、あの時の車イスの……」


「あの時はありがとうございました」


 僕がお礼を言うと、ペロキンさんはなんだかとまどっていた。


「え? 君、まさか、探索者なの……? なんで裏ダンジョンに……?」


「はい。探索者です。ダンジョン内では普通に動けるので毎日ダンジョンで遊んでいるんです」


 そこで、キョウがドローンをゆびさして不機嫌そうな声で言った。


「おい。撮影とめろ。データ消せ」


 たしかに、未成年の僕らがダンジョンにいるところをとられるのはまずい。下手したら補導されかねない。


「ペロキンさん。あの、撮影は困るので、撮影ドローンをとめてもらえませんか?」


「あー。わかった。わかったよ。後で録画は消すね。それより、君たち、いつもここを探索しているの? ここって……」


 ペロキンさんの笑顔はなぜかちょっとひきつっている。


「この階層は通過するだけです。でも、はい、いつもこのダンジョンにいます」


 そこで、モンスターが出現したので、僕は槍で一突きにして始末した。


「ペロキンさんはよく来るんですか?」


「いや、ここは今日、初めて……ねぇ、今のモンスターって、かなり強くない? 100階層レベルのモンスターな気が……。それに、君のステータス、間違いだと思うけど……」


「ここのモンスターはたいしたことないですよ。ここはまだ11階層ですから。僕はステータスをみれないんです。そういうアイテムがでなくって。そうだ。せっかくだから、今日は一緒に探索してもらえませんか? ペロキンさんって、100階層まで潜ってるんですよね? すごいなぁ。僕らはまだ30階層台なんです」


「30階層……君、今、ここ、11階層って言った?」


 なぜかペロキンさんが青ざめているように見えるけど、体調悪いのかな。


 「早く行こうぜ」とキョウが不機嫌に言うので、僕らは出発した。

 歩きだしてすぐ、トラップがあった。

 僕はトラップを踏んでしまったけど、ただの足止め用のトラップだったので、何度か足踏みをしてトラップを破壊した。


 僕は念のため、周囲を歩きまわってトラップを確認した。

 ペロキンさんはこんなトラップくらい踏んでも大丈夫だろうけど、他にも一緒に来た人たちがいるから、念のため。

 いくつかトラップがあったけど、僕は全部踏み砕いて破壊した。


「おかしいな。普段はこんなにトラップないはずなのに」


 僕がつぶやいていると、ペロキンさんが僕にたずねた。


「君、なにげなくトラップを踏んで破壊してるけど、装備にトラップ破壊の特性とかつけてるの? そんな装備、聞いたことないんだけど……」


「いいえ。踏めば弱い罠なら壊せるんです。ここは11階層なのでトラップも弱いから。あれ? ペロキンさんはトラップって壊しませんか?」


「いや、そもそもトラップって壊せるの……?」


 ペロキンさんもキョウみたいに、トラップは起動前に駆け抜ける派なのかな。

 それはそうとペロキンさんは顔色が悪いし、ペロキンさんと一緒に来た人達ふたりは、なんだか震えている。風邪でもひいちゃったのかな。

 僕はちょっと心配しながら、一緒に進んで行った。

 

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