第7話(3) ベンケイ退治

 11階層で出くわした変な奴は、いきなり笑顔で俺に勝負を挑んできた。

 このおっさん、きっと勝負好きの熱血体育会系野郎なんだろう。

 でも俺は体育会系は苦手だ。


 無視して通り過ぎようかと思ったけど。ゴーグルに表示されたそいつの武器の攻撃力を見て、気が変わった。

 薙刀みたいな大刀は攻撃力1006。俺の双剣の5倍以上の攻撃力。

 デカい分、使いまわしが悪そうだけど、それでも、あの攻撃力はすげぇ。たぶんダンジョン下層の宝箱じゃないとでない。


 それに、こいつの防具はたいしたことない。

 相手のステータスはわからないけど、シンのような極端な防御特化じゃないかぎり、俺の双剣で刃が入らないことはなさそうだ。


「勝った方が相手の武器をもらえるんだな? いいぜ」


 俺は腕をクロスさせて双剣を順手で引き抜いた。


「いざ、尋常に勝負!」


 熱血体育会野郎は、大薙刀を振りまわし、襲いかかってきた。

 でも、むちゃくちゃ遅い。

 どんなに強い武器でも、あたらなければ意味がない。


 俺はひとっとびに、薙刀を構える大男に接近して、体をひねりながら双剣2本をふって頭上にある敵の上腕を斬った。1本目の剣で斬った同じ場所に2本目をたたきこむ2連撃だ。こうすると、別々の場所に2撃あてるよりも切断率があがる。

 双剣は攻撃力が弱いから、こういうテクニックが必要になる。でも、なれれば自然にできる。

 ボス戦とかは、俺はこんな感じで3連撃4連撃してダメージアップをはかる。


 そのまま俺はダンジョンの壁を駆け上がり、天井付近で壁を蹴り、もう片方の腕にも双剣をたたきこんで切断した。

 切り離した腕を剣で刺してから地面をけって、俺は敵と距離を取った。

 一丁上がり。

 思ったより楽だった。


 大男は何が起こったかわかっていないような呆然とした顔で、血の吹き出る両腕を見ている。


 俺は、相手の両手ごともぎとってきた大刀を地面におろし、足で踏んづけて自分の剣を抜いた。


「俺の勝ちだ。これはもらっていいんだろ?」


「な、お、俺の、最強のイワトオシ……やるものか! それは俺の刀、俺の命だ!」


 武器も両手もないのに、熱血体育会野郎はこっちにむかって走りだそうとしていた。


「やだって言っても、返してやらね」


 俺は身を低くしてダッシュ、敵の両足を斬ってからまた距離をとった。

 それから、大刀にくっつく邪魔な手をはぎとって、ゲットした獲物をアイテムボックスにしまった。

 そこで、大男が前のめりに倒れた。


「俺の、俺の、最強の、イワトオシ、俺の魂、俺の命よりも大切な、最強の……」


 短くなった腕を必死に伸ばし、地面を這いながら、悲愴な顔でずっとそんなことを喚いている熱血野郎は、ここに放っておけば死ぬ。

 だけど、俺はわざわざこいつを終点までひきずっていってワープ装置に投げといた。

 生かしといたら、またいい武器を持ってきてくれるかもしれねーから。



 翌日。シンは俺の武器を見て言った。


「キョウ。双剣が格好良くなってるね」


「ああ。強化したんだ」


 あの大薙刀は、攻撃力1000超えだったけど、重くてデカくて使い勝手が悪かったから、双剣の強化に使って溶かしちまった。やっぱ、武器は使い慣れたタイプじゃねーと。

 攻撃力は100弱あがって、いろいろ属性・特性がついた。

 これで次の10階層くらいはいけそうだ。

 あの熱血武器野郎、早くまた来ねーかな。


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