猫を助けたらお嬢様の飼い猫でした

あおいゆっきー

第1話

「にゃー (誰か助けて!)」

 学校が終わり家に帰る途中、少し離れたところから動物の鳴き声が聞こえた。

 辺りを見回すと少し汚れたネコがこちらを見ていた。

 心配で声をかけ、近づいていく。

「どうした? 迷子か? 怪我してるじゃないか」

「にゃっ (なんだ、こっちに近づくな)」

 警戒しているようで、睨まれてしまった。

「怪我をして動けないでしょ、治療をしてあげるから」

 するとその猫は怪我をした足を見てからこちらを見る。

「にゃー (わかった、治療だけだからな)」

 ……治療以外に何をすると思ったのか気になるけど、ここは何も聞かないでおこう。

「よし、そしたら家で治療をするか」

「なぁー (家に着いたらすぐに降ろせよ)」

 そんなに僕に抱っこされるのが嫌なのかと考えながら家へと向かった。

 よく見ると毛並みが整えられているので、どこかの飼い猫かもしれない。


 家に着き、さっそく治療をすることにした。

 幸いにも軽い怪我だったので治療はすぐに終わりにすることができた。

「よし、これで大丈夫だよ」

「にゃーお (ありがとう、感謝はする)」

 こちらをチラチラと見ながらお礼の言葉を伝えてくれた。

 ツンツンした態度をとっているけどしっかりと感謝の言葉は伝えてくれるんだよね、とニヤニヤしながら眺めていたら……目が合った。

 おっと、あぶなかった一番大切なことを忘れていた。

「……えっと、治療も終わったことだし、聞きたいことがあるんだけど、君の名前と家の場所を教えて欲しいな」

「にゃにゃっ (名前はコノハ、家は見つけてもらった場所から少し離れた大きな家)」

「……大きな家?」

 あのへんだと確か、大きな家は一つしかなかったはずだけど。

「にゃっ? (言葉が理解できてる?)」

 猫が、こちらをびっくりした顔で見ていた。

 ……初めから話していたんだけど気が付かなかったのかな?

「ん? ……あー……実は」

「生まれつき、動物と話すことができるんだよね」

 まあ、なんで話せるのかは全然わかってないんだけどね。

「ひとまず、今日はもう暗くなってきているし、明日になったら君の飼い主さんを探しに行こう」

「にゃ (よろしく)」

 治療をしてから、雰囲気がだいぶ優しくなってくれた。

 それにしてもこのモフモフ、よく眠れそうだ。


 起きると、布団の中に丸まっている猫が居た。

「……そうだった、怪我をしたコノハを助けたんだった」

 寝るのが遅かったこともあり、もうお昼前になっているし早めに出発したほうがいいだろう。

 ん? なんで遅かったかって? 

 そんなのコノハと話していたからに決まっているだろう。

 会話をしているうちに甘えてくれるようになった。

……まあ、昨日聞いた話では、綺麗なお嬢様に飼われているという情報もあったけど。

 あそこの家はお金持ちの家だから、貧乏な僕は苦手なんだよね。

 まあ、可愛い猫のためだから頑張るけど。

「にゃ〜 (おはよ〜)」

「おっ、おはよー」

「にゃ? (どうしたの?)」

「あっ、いやなんでもないよ。そろそろ出発しようか」

 あぶなかった、顔に出てしまっていたらしい、これから出かけるのだから気をつけないと。


「ここでいいのか?」

「ニャ (そうそう、ここ!)」

 到着した場所は予想どおり、お嬢様の家であったが、コノハのためだし頑張ろう!

心を落ち着かせてからインターホンを押し、待つこと数秒。

「はい、どちら様でしょうか?」

「あっ、猫を拾ったのでこちらにお伺いしたんですけど」

「猫!? 猫を見つけたんですか!!」

 予想以上に大きな反応が返ってきて、驚いていると。

 玄関の扉が開き綺麗な女性がこちらに走ってきた。

「コノハ!! どこに行っていたの!!」

 コノハのことを見てみると、安心したような凄くうれしそうな表情をしていた。

 口では強がっていたが、やはり不安だったのだろう。

 ほっこりとした気持ちで眺めていると、声を掛けられた。

「あなたが、コノハを保護してくれたのですか?」

「そうですね、無事に再会できたようでよかったです」

 すると、お嬢様は少し考える素振りをしてから僕に近づいてきた。

「あの、保護してくれたお礼に良ければお茶でもしていきませんか?」

「えっ、ですが……」

「ダメ......ですか? 少しお話をしたかったのですが」

 しゅんと落ち込んでいる女性を見ているのが気まずくなり、コノハを見る。

「にゃ〜 (のぞみお嬢の話相手になってほしい)」

「のぞみお嬢様?」

「あっ、すみませんまだ名前を伝えていませんでしたね」

「改めまして、私の名前はのぞみです。改めてコノハを保護してくれてありがとうございます」

 自己紹介をしているうちにお茶会をするということで話が進んでしまった。

 コノハがニヤニヤとこちらを見ていた。


 いざお茶会が始まると、コノハがのぞみさんの膝の上ではなく僕の膝の上に乗ってきた。

 コノハを撫でながらのぞみさんを見ると驚いた表情をしていた。

「どうしたんですか?」

「あっ、いえ私以外に懐いていることに驚いて、どのようにしたのですか?」

「あー……コノハには話したんですけど」

 コノハに話したようにのぞみさんにも伝えた。

 最初は半信半疑だったが、コノハに教えてもらった事を伝えると最終的には納得してくれた。

 全然納得してくれなかったので体重の話をしたら睨まれてしまった。

 のぞみさんはそれならと、話を切り出してきたが、目が笑っていなくて怖かった。

「先程お伝えしたように、コノハはなかなか懐いてくれず、私しか遊び相手がいなくて、もしよろしければ遊び相手になって欲しいのです」

 コノハの遊び相手になれることは嬉しいけど、お金持ちの人のもとに何度も訪れるのはと思ってしまう。

 それに家が貧乏なのでバイトもやらないといけなかった。

 悩んでいることが顔に出てしまっていたらしい。

 それなら時間があるときだけでも、ということでつい了承してしまった。

「はい、僕でよければ」

「本当ですか! それでしたら家の者に迎えに行かせますので家の場所を教えてください」

 笑顔で言われ驚きながらも伝えていた。

 そのとき、のぞみさんの小さな呟きが聞こえてきた。

「……あそこのアパートはもうすぐ取り壊されてしまいます」

「えっ、何を言っているんですか」

「……あのアパートは私の父が管理していて、老朽化のため取り壊しが行なわれる予定なんです」

 信じられないと聞き返してみたが同じ言葉を返されて、これからどうしよう、どこに住めばいいのか、という言葉が頭の中を支配していた。

「ですのでコノハのお世話係として住み込みで働きませんか?」

「……どうしてそこまでしてくれるんですか? 僕とあなたは今日初めて会った他人ですよ」

「確かにあなたと私は、今日初めて会いました。ですがこうして話しているうちに、もう少しお話をしたいなと思っているんです。それに、コノハが懐いているんです悪い人のはずがありません!」

 なんの曇りもなく、真っ直ぐな言葉を返され一瞬驚いてしまうが、今後に関わる内容なので返事はまた今度にしてほしいと伝えてこの日は帰ることにした。


 とりあえず今日は頭の中を整理しようと一晩休むことにした。

 次の日、どうしたものかと考えていると玄関から猫の鳴き声が聞こえた。

 扉を開けるとコノハが居た。

「コノハ、どうしてここに?」

「にゃ (のぞみお嬢が熱を出して寝込んでしまって)」

「なんでそれを僕に伝えてくれたの?」

「にゃー (私があんたと遊びたいからに決まっているでしょ、それにのぞみお嬢もあんたともっと話したいみたいだし)」

「そっか、でも……」

「にゃー (いつまで悩んでいるの、全て完璧な人はいないの、頼るだけなのが嫌なら出来ることを探しなさい、そうすればやりたいことが見つかるから)」

「にゃ (ついでに私の遊び相手になりなさい)」

「なんか猫が言うようなことじゃないような気がするけど、おかげで考えがまとまったよ」

 まさか猫に諭される日がくるなんて思ってもなかった。後でなにかお礼をしないと。チュールでいいかな?


 お屋敷に行くと、使用人が対応をしてくれた。

 のぞみさんに会わせてくださいと言うと、とても困っていたけれどコノハに協力してもらって通してもらった。

 部屋に入るとのぞみさんはベットから起き上がろうとしていた。

「えっ! ……どうしたのですか?」

 急に来たからか、かなり驚いている。

 話したいことはたくさんあるが、まずは元気になってもらいたい。

「いえ、熱がでてしまっているのだから仕方がないですよ」

 使用人の方に頼まれたものを渡しながら会話をした。

 

 どうやら看病の途中で寝てしまったようで気がつくと毛布が掛けられていた。

 覚えのない毛布に戸惑っていると。

「気持ちよさそうに寝ていたので起こすのが悪いと思って、すいません」

 声のしたほうを見るとのぞみさんがこちらを見ていた。

「看病しないとなのにすいません」

「いいですよ、看病をしようとしてくれたことが嬉しいので」

 よかった、怒ってないみたいだった。

「それで今日はなぜここに?」

「コノハからのぞみさんが寝込んでいると聞いて」

「そうですかコノハが、どうしてこのようなことをしたのですか?」

 のぞみさんは笑顔で話しているけれどその笑顔が何故か凄く怖い。

「にゃ (寝ているときにこの前のことを呟いていたから話したいのかと思って)」

 コノハの話していることを伝えると「んにゃ」のぞみさんからコノハの鳴き声みたいな声が聞こえてそちらを見ると顔が赤くなっていた。

「いや、それはですね、コノハの遊び相手は大切ですし、私も話し相手は少ないのでお話できるのは嬉しいのですが、あの、その……」

「コノハのお世話係になってくれませんか!」

 焦っているのか急にまくしたてられて驚きはしたものの、ここにくるまでのコノハとの会話で既に考えはまとまっていた。

「はい! よろしくお願いします」

「本当ですか! ちゃんと聞きましたからね! やっぱなしはなしですよ!」

「にゃ (よろしくー)」

 とても慌ただしくなってしまったけど、これからコノハとすごせるのがすごく嬉しい。

「コノハこれからよろしくな」

「ニャー (昨日遊んで貰えなかったからたくさん遊んでもらうからね)」

「お手柔らかに頼むよ」

「あれ、ちょっと私は? 私の話し相手にもなってくれますよね?」

のぞみさんのことをスルーしてしまい拗ねられてしまうこともあったけどこれから頑張ろうと心の中で決意を固めた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

猫を助けたらお嬢様の飼い猫でした あおいゆっきー @aoiyukki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ