第14話 死への口づけ
ダイナの死体が見つかったその日にエルシュ、シュミナール、ラウルは謁見室にて皇帝ラドギウスと対面していた。
「魔導師ダイナの死因は不明なのか」
ラドギウスが神妙な面持ちで尋ねる。
「侵入された形跡はありません。死因は不明、外傷は全くありませんでしたが病死でもありませんでした」
「魔法攻撃の痕跡もありませんでした。正直言って不明だらけです」
シュミナールとラウルが答えると、ラドギウスは重くため息をついた。
「尋問塔に入れる人間は魔法省と騎士団の中でも限られた人間のみだ。外部から侵入していないとなれば内部犯の可能性もあるが…ジャノスほどの魔導師であれば尋問塔に侵入することは容易いのではないか」
「お師さまであれば可能だと思います。ただ…」
エルシュは訝しげな顔で言う。
「あのお師さまが、捉えられるであろうと見越した魔導師をわざわざ殺しにくるか疑問です。口封じしたいのであればこちらに送り込む前に捉えられた場合に発動するよう記憶の錯乱魔法でもかける方が得策ですし、捉えられると見越していた以上、万が一捕まっても漏れて困る情報はダイナはそもそも保持していなかったと思います」
エルシュの言葉にその場の誰もが頷いた。確かにジャノスであればそこまで考えているだろう。
「だとすれば、ジャノス以外に尋問塔に侵入してダイナを殺すことができる人間が他にいるということでしょうか」
シュミナールの言葉に、場の空気が一気に重くなる。
「だとしてもその人間に何らかの形でジャノスが関わっている可能性はある。今後も引き続きこの件については情報を集め、各自注意するように。どんな小さなことでも構わない、何か情報が得られたらすぐに報告してくれ」
ラドギウスの心配はもはやエルシュとジャノスに限らなくなった。ジャノスの他にも高等な魔法を使える者がいて、万が一その人間がジャノス側だとしたら…帝国を脅かすかもしれない存在が不気味に大きく膨らんでいった。
◇
「そうか、ダイナはエルシュを連れてくることができなかったか。仕方あるまい」
ジャノスの前に膝まずく男が一人。白髪で綺麗な赤い目をしておりフードを被っていてもその端正な顔立ちはよくわかる。ジャノスの言葉に男はうっすらと微笑んだ。
なぜならその男こそ、ダイナの命を奪った張本人だからだ。
尋問塔の一室でダイナはジャノスの迎えを今か今かと待ち侘びていた。
「ジャノス様はいつになったら助けにきてくださるのかしら」
その声が部屋の中に響いたその時。
「助けには来ないよ」
ダイナの目の前に突如魔法陣が現れ、人が出てきた。その人物の顔を見てダイナは微笑む。
「あら、お前だったの。早くこの拘束を解いてジャノス様の所へ連れて行ってちょうだい」
直前の言葉など全く聞こえていないかのような発言に男は思わず苦笑した。
「ねぇ、僕の話聞いてなかったの?」
「お前如きの分際で何生意気な口を聞いているのよ」
男の言葉にダイナは苛立ちを隠せない。その様子にまた男は笑う。
「君のそういう、自分は誰よりも優れていて他の人間はみんな下だと思っている態度、ものすごく嫌いだったよ」
微笑みながらダイナへ一歩ずつ近づいていく。
「ここから出られると思っているんでしょう、出られないよ。二度と」
ダイナの目の前に来て、被っていたフードを下ろした。
「僕が君の魂も魔力ももらってあげるね」
怪しく微笑みながらダイナの顎に手を添え顔を少し上に向かせる。
「お前、一体何を言っているの」
苛立ちながらもふと目の前の顔を見ると思わず釘付けになる。この男、こんなに美しい顔をしていただろうか。
そうぼんやり思っていると、いつの間にか男はダイナに口づけていた。
驚きで目を見張ると同時に、皮膚越しに青白い光が見えダイナの体内から魔力が口を通して男に流れていくのがわかる。
「……!!!」
青白い光がどんどん移って行き、最後に光の大きな塊が男に流れ込んだ。唇を離すとダイナは息絶えていた。文字通り抜け殻である。
「ふふ、君って魔力だけはそこそこ大きいからね。魂は…ちょっと汚れちゃってるけど僕の中ですぐに綺麗になるよ」
親指で唇を拭うと男は嬉しそうに笑った。
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