銀髪美少女なAIちゃんはヤンデレ過ぎて僕を殺したい
崖の上のジェントルメン
1.Kanzaki Ai
「……はあ、あっついなあ……」
僕は手で汗だくになっている顔を扇ぎながら、窓の外を見ていた。
耳をつんざくほどにやかましく鳴る蝉時雨が、窓の外から聞こえてくる。
真っ白なグラウンドは、暑さのあまりぼんやりと滲んで見える。たぶん、僕の目の前に湯気が立っているからだろう。
「なあなあ!
蝉時雨よりもやかましい声で話しかけてきたのは、
彼はいつの間にか、空席である僕の隣に座っていて、「今日だぞ!今日!」と、興奮冷めやらぬ様子だった。
「ついに今日!“あの子”がやって来るぞ!悟!」
「……うん、そうだね。楽しみだよ」
「なんだあ!?お前、楽しみなわりにはテンション低いなあ!」
「いや……暑すぎてさ。ちょっとダウン気味なんだ」
「かー!体力ねえなあ悟よお!ほれ!もっと熱くなれよ悟!心が熱くなりゃ、この日差しも逆に涼しくなるってもんだ!」
「なんのこっちゃ……」
純一の暑苦しい、理屈とも言えない理屈を聞いて、余計に気分が悪くなってきた僕は、額に浮かぶ汗を手の甲でぬぐった。
「それにしても!どんな子なんだろうなあ!めちゃくちゃ楽しみだぜ!」
純一は相変わらずウキウキしている。確かに、僕も純一ほどではないにしろ、今日僕らのクラスへやって来る“彼女”については……とても興味があった。
(……仲良く、なれるだろうか?)
いや、そもそも“仲良くなる”という概念が、彼女には存在するのだろうか?
分からない。ただ、ひとつだけ言えることは、彼女はこの茹だるような暑さを……まるで“感じないだろう”ということだ。
「……それは、ちょっとだけ羨ましいかな」
そんな僕の独り言は、蝉時雨の中に溶けていった。
「皆様、おはようございます。RH-2型アンドロイドのNo.237と申します」
教卓の前に立ち、僕たちクラスメイトを見渡す“彼女”は、薄く微笑みを浮かべながらそう言った。
彼女の顔は、その言葉通り、まさに人間離れしていた。
銀髪のショートヘアが、左眼に少しかかっており、青い瞳はまるで空のように澄んでいる。唇はロボットとはまるで思えないくらいに赤く、情熱的だった。
人から前もって言われなければ、絶対に人間と間違うほどに、彼女は精巧だった。精巧かつ、あまりにも美しかった。
「このクラスでは、『
そう言って、彼女は僕らへ笑いかけた。
彼女……神崎さんが動く際、少しだけ普通の人間よりも瞬きが遅い。人間が0.1秒で瞬きをしているとすれば、彼女は0.2秒ほど……ワンテンポ人間よりも遅くなっている。それが唯一、彼女がアンドロイドだと想わせる動きだった。
「みんな、一応もう一回お話しておくね」
担任の青柳先生が神崎さんの横に立ち、僕らへ説明した。
「神崎さんは、実験段階の最新型AIを搭載していて、人の感情について学習できるか?を実験しているの」
神崎さんは先生の説明を聴きながら、うんうんと頷いている。そして、先生の言葉に代わって自分で自分のことを説明し始めた。
「全世界的に、鬱病などの精神疾患が、近年増加傾向にあります。それと対比して、どの国も明らかに精神科医が足りない状況です。日本は特に、10代の自殺率が高く、国としても早急に対応が必要なところです。ですので、私どもAIが人の心を理解できるようになれば、自殺防止の運動やカウンセリングなど、幅広く活躍できるものと思われています。人の心を理解するためにも、皆様と共に勉学に励み、共同作業をこなしていければと考えています。この二学期の間だけになりますが、どうぞよろしくお願いいたします」
そこまで一息に話し切ると、彼女はぺこりと頭を下げた。
青柳先生は満足げな表情を浮かべて、「自己紹介ありがとう、神崎さん」と言った。
「まあ、ちょっと特殊な境遇だけど、大事なクラスメイトには変わりないから、みんな仲良くしてね」
最後にそう付け加えた先生は、彼女を席まで案内する。
それは、僕の隣だった。一番後ろの窓際が僕で……その隣が彼女だった。
「……よろしくね」
僕がそう言うと、神崎さんは口角を上げて、目尻を下げた。
それが僕と彼女の、初めての会話だった。
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