冒険者と紹介
エレノーラの店にやってくると、メガネの奥の目が見開かれた。そうしてレニーの隣に目を向ける。
「やぁエレノーラ、この人はクーゲルさん」
「クーゲルさんか。私はエレノーラ・キャンディ。エレノーラで構わない」
「こんな美人さんが店員さんとは。いやぁ運が良い。クーゲルだ、よろしく」
カウンターを挟んであいさつを済ませる。
クーゲルは早速己の杖を背中から引き抜き、エレノーラに向ける。
「コイツの代わりになるような杖を作成してほしい」
エレノーラは両手で慎重に受け取る。あれこれ触ったり、傷を確かめたりして唸る。
「うーん、限界が近いようだね」
「わかるか、急ぎなんだ」
レニーは無言で店内を物色し始める。
いつかの美容効果のあるポーションは売れ続けているらしい。目立つ場所に置かれたままだった。
「レニーと同じような仕組みでコイツくらいの杖はできねえか?」
「魔弾使いか、珍しい。レニーくん以外に需要があるとは思わなかったよ」
エレノーラのからかうような声にレニーは舌を出す。
「そりゃ、世界中探せばいるでしょ」
「全く、私は杖職人じゃないんだが」
肩をすくめてエレノーラは言うが、表情は楽しげだった。
「クーゲルさん、お金は」
「たんまりあるさ」
「性能はそうだな、この杖と同じようなものでいいか」
「できれば良くしてもらえると良いが」
相談している中でレニーは壁に立てかけられた一本の杖を見る。
レニーが以前使っていた、壊した杖と全く同じ杖がカウンター奥の壁にあった。
「予算はこれくらいだ、どうだ?」
「問題なさそうだ。取り寄せや他の職人との相談もある。期間はふた月ほどはほしい」
エレノーラとクーゲルで契約のやり取りが始まる。
レニーはしばらく暇を持て余した。
魔道具店といっても品物は置かれているスペースは小さな店でしかない。品物はすぐに見終わった。
「壁の杖、気がついたかい?」
クーゲルに契約書を書かせながらエレノーラが聞く。レニーは静かに頷いた。
「本物?」
「レプリカだ。私のお気に入りだったんでね」
レニーの使っていた杖。その最期を思い出す。
魔弾の通じない相手、瀕死の自分。
火力重視の火属性によるエンチャントサーキットを使い、更には魔力をオーバーロードさせて木っ端微塵だった。
「……ごめん」
散々無茶な使い方をするなと怒られてはいたが、レニーは杖を特別に思っていた。己についてきてくれる相棒のようなものだったからだ。
同じものを壊したくなくて、完済したものの、借金してまでより上等な杖を製作してもらった。
「二度目の謝罪はいいさ。君の命を救えたのなら本望だ。二代目も一代目のように良く使ってくれ」
レニーは左のホルスターに収まるクロウ・マグナを見る。
軽く叩く。
「もちろん」
エレノーラは満足げな笑みを浮かべると、腕を組む。
「早撃ちもできるし無茶な撃ち方でも平気だ、傑作だぞ傑作」
「感謝してる」
本当に、と。
誰にも聞こえない呟きをする。
「よし出来たぞ」
「毎度あり。支払い一括で前払い、いい客を連れてきてくれた」
契約書と硬貨の入った皮袋を受け取りながらエレノーラは鼻を鳴らす。
上機嫌だった。
「この杖、一日預からせてくれ。設計に使う」
「なら明日受け取りに来るぜ」
「夕方くらいなら確実だ」
「オーケー」
クーゲルが領収書を受け取る。レニーに振り返り、親指を立てた。
「サンキューレニー。さっ、行こうぜ」
「邪魔したねエレノーラ、また来るよ」
「あぁ、待ってるよ。主に支援金」
レニーは苦笑いを残して、店を後にした。
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