異世界に転移した日本で生きるオタクの話

第1話

　西暦２０３０年一月二十四日木曜日。日本は突如として上空に現れた黒い球体に包まれ、暗闇へと沈んだ。幸いにも闇は数分程度でなくなったが、問題はそれだけにはとどまらなかった。

初めて異変が発覚したのは事件からほんの数分後。海外にサーバーが置かれていたサイトが一斉に停止したことだった。その二日後には翼を背に生やした蜥蜴、いわゆるドラゴンが東京上空を滑空していたという情報があらゆるメディア媒体で取り沙汰され、ここが今までいた世界ではないと言うことが現在日本にいる約一億五千万人の周知するところとなった。

更に一か月が経過すれば日本を我が領土にしようと異種族が進行を開始。当然日本はこれに対抗。しかし、異種族の半永久的に使用できる魔法を相手に日本は有限資源を使用するイージス艦や戦闘機。とても敵うはずはなく、たった一週間で日本は降伏。不平等条約の下、日本では中立貿易国として日本中で異種族が跋扈し、某SF人情なんちゃって時代劇コメディーのような風景へと早変わりしたのだ。

　そんな壮絶な約二か月の後、桜が満開となる四月一日の私立大江山高校の入学式。校長先生と生徒会長、教育委員会の長々としたお話を乗り越えて、担任の先生の案内の下、この俺、天野零が一年間をクラスメイトと共に過ごす一年三組の俺の席に座り台に立ち、話し出す

先生を見る。

「えー、このクラスを一年担当することになった。鬼塚翠だ。担当科目は理化学全般。分からないことがあれば基本職員室にいるので質問に来るように。早速だが、君たちに紹介したい者がいる。入ってこい」

　先生のその言葉とともに勢い良く教室の前のドアが開きそこから軽快な足取りで入ってきた人影がさっと黒板にアルファベットを書き出して書き終わるとこちらを振り向いた。

「Schön,dich kennenzulernen！初めまして日本の皆さん。ボクの名前はジャンヌ・タイタニアです。妖精の国、アルヴンから留学しに来たエルフです！」

　尖った耳に綺麗な薄緑かかった金髪。整った顔立ちにGカップほどあるであろうたわわな実りのおっぱい。しかもボクっ娘。正直に言ってめっちゃタイプ。

「ではタイタニアの席は天野の隣だ」

　何というご都合展開だろうか。短い髪を靡かせながらタイタニアさんが俺の隣の席にある空いた席目指して歩いてくる。タイタニアさんが横を通り過ぎたところで鼻先にフローラルな香りが漂ってくる。

「よろしく」

「う、うん。よろしく・・・」

　こんな美少女に笑顔で挨拶されたのなら思春期の男子高校生として緊張して返事がドギマギした物になるのは仕方ないと主張するのは間違っているのだろうか？いや、間違ってはいない。

「よし、まずはクラスの自己紹介から始めようか」

先生のその言葉を聞いた瞬間、左隣に座る美少女エルフに目が移る。

先ほど盛大にドアを開いて自己紹介をやってのけた後にこれは些か酷ではないだろうか。クラスの中でもなかなかに困惑した雰囲気になっている。

「出席番号一番の・・・・・天野。一発かましてやれ」

　わざとらしく出席簿を見ながらそう言うが完全に無茶ぶりだ。席順が出席番号なだけに仕方がない。だがこの困惑しきった空気を変えることができるだろうか？いや、やるしかない。やらなければどっちにしろ俺の高校生活は黒色だ。

「えー、大江山中学出身の天野零です。知ってる人もいるかもしれないですけどどうかよろしくお願いします」

　これでいい。無難な自己紹介なら転ぶことはまずないだろう

　俺が頭を下げたと同時に周りから拍手が巻き上がる。しかし・・・。

「そうか。君はサラノと言うのか」

　左隣の美少女エルフがつい数秒前に名乗った名前を見事に間違えて呼んだのだ。

「人の名前を新品みたいに言うな。俺の名前は天野零だ」

「失礼、嚙みました」

「違う、わざとだ・・・」

「かみまみた」

「わざとじゃない！？」

　・・・・・失敗した。ついつい、このやり取りに乗ってしまった。学校でやってはいけないことの一つ。アニメやマンガ、小説などのセリフを現実に出す。これをすればたちまちオタクのレッテルを張られて陰キャラ扱い。スクールカースト最底辺へと追いやられ俺のモテモテスクールライフは水泡に帰す。

「へぇ・・・・・」

　ニマニマと笑いながら俺を見る目の前のボクっ娘をにらみながら次のモテモテプランを考える。バレたことは自業自得とは言え、原因はコイツ、ジャンヌ・タイタニアだ。コイツは俺の障害でありこの一年は関わらないように注意しなければならない。

「いつまで立っている。自己紹介が終わったなら早く座れ」

「あ、はい」

　先生に注意されて急いで席に座る。

「それでは次の人」

「はい。私は――――――」

　その後は滞りなくクラスメイトの自己紹介が進んでいき、先生が連絡事項を話していく。

「明日から本格的に授業を開始する予定なのでそのつもりで。それでは今日は終わりとする」

　そう言って先生が教室を出るとともにクラス中から話し声が聞こえ始める。

「よぉ、今からカラオケいかね？」

「お、いいね！じゃあ、女子も誘うか」

　よくもまぁ、ここまで初対面の人間相手にこうも馴れ馴れしく話しかけられると思う。女子にモテるためにはこう言うスキルも必要なのだろう。だが、ハッキリ言うがこの俺にできることなんて誘われるのを待つことくらいだ。

　対して、隣の美少女エルフをちらりと見れば・・・。

「妖精の国ってイケメンばっかなんだ」

「あぁ。ちなみに、一般的な食べ物はじゃがいもとビール」

　ドイツかよ・・・、と心の中で悪態をつきながらカバンを持ち教室を出る。やはり俺にとってあの空間は居心地が悪いようで気分が悪い。

「あー、モテたい」

　自分の欲望を口から零しながら廊下を歩き一年一組の教室の前で足を止める。

　この学校は一学年五クラス三十人の編成でクラス分けは成績順に一組から入れられていく。つまり三組は良くも悪くも普通の成績ということだ。

　教室にゆっくりと首を突っ込み目当ての人物を探す。

「何してるんだい？」

「あ？人探しだよ、人探し。今日は五丁目の柴田の婆さんのところにある変な箱の処理に行かなきゃいけねぇえってのに・・・。って」

　俺はその警戒すべきはずの声に振り向くとそこにいたのはジャンヌ・タイタニアだった。

「タイタニアさん。なんでここに・・・」

「ジャンヌでいいよ。ボクと話が合いそうなのが君しかいなさそうだったから追いかけてきたんだ」

「俺はあなたと話が合いそうにないのでＵターンしてどうぞ」

　今は彼女と話している場合ではない。そもそもこんなところを探し人に見られれば恐らく半殺しにされることは間違いない。

「だいたい俺とジャンヌさんじゃ―――――」

「ぬるぽ」

「ガッ」

　またしてもつられて言ってしまう。俺は諦めてため息をつき、ちょうど鳴ったスマホを確認する。着ていた通知はLINEのもので相手は俺の探し人その人だった。

『ごめん！居心地悪かったら先に婆さんの家行ってる。PS三組に美少女エルフの留学生が来たみたいやけどソイツに靡いたらコロス』

　コロスに全てが集約されているような気がするが、一刻も早くジャンヌさんから離れて柴田の婆さんの家に向かうためにスマホの画面を見せる。

「あの、知り合いを待たせてるので、それでは」

　俺はそそくさと足早にその場を立ち去った。

　校門を過ぎ去り信号を渡れば街一番の電気量販店の巨大モニターの画面に国会議事堂前でデモを起こしているニュースが流れていた。デモをしている人達の主張を聞けば何の根拠もない、異種族を人と見た目が違うという理由で異種族を排斥しろと言っているのだ。

「ひどいよね。見た目が違うだけなのにここまで差別されるなんて・・・」

　もう何か言う気力もない。俺は黙って足を進めながら口を開く。

「差別するのは俺もどうかと思うけど、あの人らの気持ち、俺ちょっと分かるきがする」

　俺が近くにあるボロボロの商店街を見る。ここはつい先日発情期に突入したオークが暴れ回った場所だ。既に高齢化で活気もなかった中、これは大打撃となり商店街が閉鎖してしまった。ジャンヌさんも商店街を見て何かに気が付いたのか何も喋らない。

「ただでさえ同じ人間でも生活リズムが違えば争うこともあるのに力とか生態がちがうやつと共生できると思います？」

　少し強くいいすぎた気もするがここまで言えばもうついてこないだろう。ここでまだ希望論をかざすならそれはもうただの偽善者だ。

「それでも、ボクは言い続けるよ。差別はダメだし共存だってきっと叶う」

「偽善者だな」

「やらない善よりやる偽善という言葉がこの国にはあるんだろ？」

　それ以上は俺もジャンヌさんも何も喋らなかった。何分経ったのだろうか。もう時間間隔なんて分からなかった。ただ一つ分かるのは俺は柴田の婆さんの家までジャンヌさんがついてきて、恐らく俺は今から半殺しにされることくらいだろう。

「ちなみに、今から帰ってもらうことって・・・」

「うーん、それは無理かな。君のやってることも気になるし。それとも、知られたくないことなのかな？」

　俺は深くため息を吐きながらポケットの中のスマホを取り出し、検索エンジンの検索結果をジャンヌさんに見せる。

「コトリバコ？」

「知ってる？」

「まぁ、有名な都市伝説だし・・・・・」

　ジャンヌさんが眉をひそめながら俺を見る。コトリバコとは、ネットの匿名掲示板２ｃｈの洒落怖スレに書き込まれた呪いの箱のことだ。

次に俺はスマホをポケットにしまい、カバンから自分の狩衣を取り出して見せる。

「信じられないかもしれないけど、こう見えても俺は陰陽師として有名な蘆屋道満の一族の末裔でさ。・・・・・分家だけど。今からここでやることはマジのマジに危ないことだし、下手すれば周りに呪いが移るかもしれない」

「それは怖いな」

　本当に分かっているのか、とジャンヌさんの顔を覗いてみるが何故かその顔は嬉しそうににやけていて、しかも勝手にインターホンを押している。

「ちょっと！？」

　インターホンが鳴ったとともに俺は最大限にこの身勝手エルフを睨みつける。

「どうしたんだい？日本ではこうやって家に入ると聞いていたんだが・・・」

「テメェにゃ恐怖心ってもんがねぇのか！？近づいたら危ないって言ってんの！早く家に帰れって言ってんの！！」

　俺がそう言うも後の祭りだった。玄関が開いたと同時に俺の身体は引っ張られガッチリと捕まえられてしまう。

「おいおい、おいおいおいおい。ウチ言わんかったっけ？留学生に靡いたらコロスって。それともなんや？零はウチが主やったら嫌ってか？」

「いやいや、いやいやいやいや！私めにその様な考えは一切ございません！今も昔もそしてこれからも不肖天野零、誠心誠意貴女様のお側に仕えさせていただく所存です！」

　無様に大声で俺がそう宣言すると俺を捕まえていた腕が離れてようやく解放される。地面に倒れこみ俺を拘束していた奴の顔を見る。俺より身長が少し高く一つに纏めた綺麗な黒髪。ジャンヌさんに負けずとも劣らずな豊満さを兼ね備えたおっぱい。それを強調するように俺とジャンヌ同じ狩衣を羽織った美少女。そう、彼女こそが俺の探し人であり、蘆屋家の次期当主。蘆屋陽奈だ。

「それならええねん。で、このお邪魔エルフは何でここにおるねん？」

「勘違いすんなよ。勝手についてきたんだ。俺は関係ない」

「まぁ、邪魔せんなら何でもええわ」

　陽奈がじろりとジャンヌさんを一瞥した後に柴田の婆さんの家の玄関を開け中に入っていく。それを見て俺とジャンヌさんもあとに続く。

「柴田の婆さんは？」

　俺は狩衣を羽織りながら陽奈に問う。

「外で時間つぶしてもろとる」

　それを聞いて俺は安堵のため息を吐きながら居間に入り、机の上に置いてある例の箱の前に立つ。箱はどこにでもあるような漆を塗った彼岸花の柄が目立つ箱だ。そのまま俺は座敷に膝を付けカバンに入れていた藁人形を取り出して痛みに涙を流しながら頭から一本髪の毛を抜く。

「えっと・・・。陽奈さんだっけ？あれは何をしてるんだい？」

「自分には関係ないやろ。勝手に来よってからに。せっかくの零との共同作業が――――」

　ブツブツと後ろで呟いている陽奈をしり目に陽奈の疑問に俺は作業を続けながら答える。

「コトリバコの呪いを俺が肩代わりしようとしてんだよ。この藁人形はその依代。俺に呪いを

移す道みたいなもんだ」

「そんなことをして君は大丈夫なのかい？」

　ジャンヌさんが心配そうに言葉をかけてくる。もちろんそういうのは当たり前だと思う。呪いを肩代わりするなんて正気の沙汰とは思えない。

「そりゃあ、大丈夫じゃないかもしんないけど陽奈に直ぐに祓ってもらうし、それに・・・」

　俺は居間の電話台に飾られた柴田の婆さんと一年間に亡くなった爺さんの家族写真を見る。

「俺らの役目は科学では解決できないオカルトの問題から日本の民草を守ることだし、仕方ないよ」

　準備が整ったのを見てブツブツ呟くのを止めた陽奈が前に出てタオルを口に含み、大幣を模したドスを抜く。そのドスで陽奈は指先と手のひらを切り裂いて俺の口に血まみれの指をっつこんだ。

　鉄臭く、酷く不味いその味に吐き気すら催してくる。

「八百万の天井、祝詞の神明、岩戸開けませと畏み畏み申す。―――――」

　陽奈が同じ祝詞を六回ほど唱え終わると共に俺の口から胃が空っぽになると思うほど内容物を吐き出すと、今度は陽奈が俺のゲロと血に塗れた手をコトリバコに添える。

「コトリバココトリバコ―――――」

　まるで唄っているかのようなその祝詞にコトリバコから二つの影が現れる。

「出たで、零！」

「おう！」

　俺は陽奈の合図と共に投げ捨てられていたドスを拾い上げ影を切り裂く。そのまま影が消えるのを見届けて俺たちの緊張の糸が切れる。

「終わった・・・・・？」

「あぁ、お祓いは成功だ」

　ジャンヌさんが俺に近付いてきて心配そうに俺に話かけてくる。俺も何とか返事して疲れて動かしにくい身体に鞭を打ちながら立ち上がり祓われて無害になったコトリバコを見る。

「さ、撤収すんぞ。後はクリーナーの仕事だ」

　ボロボロの俺に対してまだまだ動けそうな陽奈の肩を借りて今を出ようとする。すれ違いざまにジャンヌさんに声掛ける。

「ジャンヌさん。これで分かっただろ？日本の裏側は危ないことばかりだ。今回はニホウだから良かったもののチッポウならジャンヌさんも危なかったかもしれない。だからもう俺らには関わらないほうがいい」

　そう言って俺と陽奈は再び足を進める。陽奈がいる手前迂闊にフォローすることも出来ない。だが、おかげでおそらく俺の目的への障害は排除できたことだろう。

　だがそんな俺の思惑を裏切るかのように招かざる客が訪れることになる。

「今日からお世話になります！ホームステイさせてもらうジャンヌ・タイタニアです！よろしくね、天野零君」

「な、なんで・・・・・？」

　目の前で笑顔を見せながらジャンヌさんが玄関前で立っていたのだ。

「いやー、鬼塚先生が家に行くなら君についていけばいい聞いていたのに君が陽奈って娘と一緒に帰ってしまって大変だったよ」

「いやいや、いやいやいやいや。聞いてないんだけど？え、先生が言ってたの？」

　俺の質問にジャンヌさんが小さく頷く。とりあえず玄関前でずっと立たれるのも迷惑だしご近所さんに冷たい目で見られかねないので家に上げ、リビングの隣にある和室で緑茶を出して廊下で先生、もとい俺の姉に電話をかける。

『もしもし、こちらお前の最愛の姉、天野翠だ』

「あ、今そんなのはどうでもいいから聞いたことだけに答えてくれる？」

愛してくれているのは嬉しい限りだが、今はそんな会話をしている暇はない。

「なんで家に留学生がホームステイすることになってんだ？俺なんも聞いてないんだけど」

「言ってなかったか？今政府では新たな試みとして異種族の学習能力の向上を目指している。その第一弾が彼女だ」

　俺が姉ちゃんの話に聞き入っていると誰かにスマホを取り上げられ、急いで取り返そうと犯人を確認する。

「何だい、この板！中から鬼塚先生の声が聞こえてくるぞ！」

「後で教えるんで今は向こうで放課後ティータイムしといてもらえます？」

　とりあえず、スマホに目を輝かせているジャンヌさんからスマホを取り上げる。

「早く帰ってきてね。あまり長いとボクはお婆さんになってしまうからね」

「これがホントの老化後ティータイムってか？やかましいわ」

　ジャンヌさんがそのまま和室に戻っていき俺は再びスマホに耳を傾ける。

『すいぶん楽しそうだな』

「どこがだ！あんにゃろ現場に来るわ無神経だわ、仲良くなれる気がしねぇぞ」

　スマホの向こうから笑い声が聞こえてくる。

『兎に角、これは任務で相場の五倍の報酬もでる。家計が火の車の家には願ったりかなったりだ』

姉ちゃんのその言葉に一瞬頭が真っ白になる。家の家計は俺が管理していて俺の把握している

中では火の車でもないはずだ。

「火の車？家計簿じゃそんなことなかったぞ？」

『お前は私を舐めすぎだ。改竄くらいいくらでもできる』

「・・・・・いやいや、いやいやいやいや！姉ちゃん家計簿改竄してたの！？」

　俺の質問にしばしの間静寂な時間が流れる。どんな言い訳が飛び出して来るのかと楽しみに待っていると再び姉ちゃんの声がスマホから聞こえて来る。

『・・・・・・・・今のは忘れろ』

「いや、無理があるだろ・・・。だいたい、改竄して手に入れた金は何に使った？」

『世の中には金を銀の球にして金を増やす摩訶不思議な錬金術があってだな・・・・・』

「パチンカスがよォ！」

　俺は怒り任せに叫んで電話を切る。今言ったところで何かが変わるわけでもない。姉ちゃんがパチンコで金を溶かして家計を圧迫させたのも、ジャンヌさんを家に招き入れたくさんのお金を貰ったのも過ぎたことだ。

　俺は和室に戻って急須に入ったお茶を自分の湯吞に入れて一口飲むと息をついてジャンヌさんを見る。

「事情は分かりました」

「何で敬語なんだい？」

「一応お客なんで。早速ですけど今からジャンヌさんの部屋を作って来るのでリビングでゆっくりしといて下さい。何なら録画とかDVDとか見てくれてもいいんで」

　それだけ言って俺はその場から立ち上がり二階に向かった。部屋を作るのはさほど難しいことではなかった。今は使ってなかった部屋なだけに部屋の掃除と家具の手配、あとは追加で俺、姉ちゃん、陽奈、ジャンヌさんの四人分晩御飯を作ることだが、そこは合間合間で作っていく。

　たまにジャンヌさんの方を見てみればone-pieceを見ていたりBLEACHを見ていた。見るたびに変わっているから変わる変わる見ているようだ。

　そんなこんなで約二時間後、既に時刻は七時半過ぎ。もうそろそろクズが服を着たような存在である姉ちゃんが帰ってくる頃だ。

「ジャンヌさん、机にご飯を置くの手伝ってもらえます？」

「了解した！」

　元気良く椅子から立ち上がったジャンヌさんが走ってきてご飯を食卓へと運んで行く。ジャンヌさんが結構な手際でご飯を運んでくれているため作業がいつもより早く進んでいく。

　そしてようやくご飯を皿に盛り終わったと同時くらいにインターホンが家中に鳴り響いた。

「・・・・・？敵襲か？」

「あ、ジャンヌさん。俺出るんでジャンヌさんはご飯を―――っていねぇ！」

　俺が急いで部屋を出て玄関を見ると既にジャンヌさんはご飯を食べに来たお隣で一人暮しを

している陽奈に捕まっていた。

　しかし、陽奈が俺を見るとあっさりとジャンヌさんを放してゆらゆらとこちらに近付いてくる。気付けば陽奈は俺の後ろから左腕を俺の腹に巻き右腕に持った大幣に偽装したドスの刃を

俺の首に当てて来る。

「なぁなぁ、なぁなぁなぁなぁ。な～んでコイツがウチらの愛の巣におんねん。浮気か？」

「お、落ち着こうか？これは別にやましいことをしようとしていたわけでもないと言いますか、そもそもここは別に俺らの愛の巣でもなんでもないと言いますか・・・」

　銀色に鈍く光るドスを見ながら俺は懸命に口を動かす。昔から陽奈はこの様な

発作を起こすことがあった。初めて会った時はこんなこんなことになるとは思わなかった。

「そ、その通りだ！ボクはこの家にホームステイさせてもらうだけなんだ！」

「ホームステイ・・・・・？んなら何か？これから三年、お前は零と一つ屋根の下ってことかい」

「いや、お前もほぼその状態！」

　ゆっくりとドスが首筋から離れていき俺は力なく膝をつく。

「そ、そうやな！ウチの方がどの分野も一歩先に行っとるし、まぁ、許したるわ」

　陽奈が上機嫌でリビングに入っていき俺とジャンヌさんは呆然とその場に立ち尽くす。

「もしかして・・・・・、彼女は怒らせない方がいい人なのかな？」

「あぁ、注意してくれ」

「わかったよ」

　話がようやく落ち着いて俺もリビングへと入る。残りの晩ご飯を食卓に置くとようやくリビングに入ってきたジャンヌさんも陽奈の前に座る。

「翠さんはどないすんの？」

「どうせもうそろそろ帰ってくんだろ」

　俺がそうぶっきらぼうに呟く中、案の定玄関の鍵が開く音が鳴る。

「おーい、愛しのお姉ちゃんが帰ってきたぞー」

　そんな掛け声が聞こえて来るが俺たちはそのまま料理を口に運び始めるのだった。