移乗攻撃
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──移乗攻撃
『出るぞ! 我々に幸運がありますことを!』
アレステアたちを乗せた降下艇がアンスヴァルトから発艦し、他にシグルドリーヴァ大隊などを乗せた降下艇とともに空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセを目指す。
全てはこの空中戦艦に搭載された化学兵器エージェント-37Aを無力化するため。
「敵の対空砲火を受ければ一瞬でゲヘナ様のところに行っちゃうねー」
「でも、僕たちがやらないと化学兵器が使われた大勢が殺されてしますます」
「確かにね。でも、この作戦は流石に滅茶苦茶だよ」
シャーロットはやってられないというようにスキットルからウィスキー一気に流し込み、空になったスキットルをトントンと叩いて最後の一滴まで出す。
「アリーチェさん。本当にこの作戦に参加してよかったのですか? あなた方はヴァイゼンナハト領の民兵です。正直なところ、中央の軍隊である帝国軍の損害にはあまり興味はないのでは?」
「そ、そんなことはないです、よ? ヴァイゼンナハト領からも動員を受けて軍役についている人はいますし……。私の知り合いも……。それに人が死ぬのは、それがどこの誰でも嫌なものじゃないですか……?」
レオナルドの言葉にアリーチェがそう返した。
「ええ。そうです、アリーチェさん。誰も死ぬ必要なんてないんです。戦争は終わらせないと。この反乱も、魔獣猟兵との戦争も」
アレステアがアリーチェの言葉にそう言った。
「アリーチェさん。このヴァイゼンナハト領での戦いが終わった後も僕たちと戦ってはくれませんか? アリーチェさんとエトーレ君は凄い強いですから頼りになるんです。今回の作戦だってアリーチェたちがいなかったら」
「え、えっと。お父さんに聞いてみてからでいいですか? 私としては戦争を終わらせるために戦うのであれば、その、お役に立ちたいなって……」
「分かりました」
アリーチェの言葉にアレステアが頷いた。
『突っ込むぞ! 作戦が上手くいっていればフリードリヒ・デア・グロッセのレーダーは停止し、高射砲もある程度叩かれているはずだ! 神々に祈れ!』
グリンカムビ所属の勇敢な操縦士たちが作戦行動中の空中戦艦への移乗攻撃という滅茶苦茶な作戦のための空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセに突っ込んだ。
『クソ! 対空砲火、対空砲火!』
『こちらイーダ・ゼロ・スリー! 被弾! 被弾した!』
しかし、空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの高射砲の一部は生きており、無防備な降下艇を攻撃してきた。
何機かの降下艇が攻撃を受けて火を噴き、墜落していく。
『畜生! 頼むぜ! 行くぞ、着艦だ!』
アレステアたちが乗った降下艇は高射砲の砲撃を突破し、見事空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの甲板に着艦した。
「くうっ……!」
「揺れるー!」
着艦の際に降下艇が大きく揺れ、降下艇は荒々しくも損害を避けてアレステアたちを空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセに送り届けたのだ。
『降りろ、降りろ! 俺たちはここで待機して、脱出の際にあんたらを連れて帰る! 任務を果たしてくれ! そして、死ぬなよ!』
「はい!」
グリンカムビの操縦士が叫び、アレステアたちが降下艇から降りて、空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの甲板に立った。
「予定では帝国国防情報総局の工作員と合流することになっていますが」
「合流予定地点は?」
「艦内です。ガンルームだといっていました」
「ガンルーム、ってなんですか?」
レオナルドの言葉にアレステアが首を傾げる。
「下っ端士官が集まる部屋だよ。元々武器庫を指してて昔から将校成りたての下っ端士官が警備と管理をしてたから、そういう名前になった。行こう!」
「はい!」
シャーロットが答え、アレステアたちが空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセ内部に侵入する。先頭はエトーレを連れたアリーチェであり、彼女が巨大な飛行艇である空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの中を先導した。
「設計図ではその先だよ。気を付けて進んでね。ここは敵地の真っただ中で、敵は既にあたしたちが乗り込んできたのを知ってるはず」
「りょ、了解です」
シャーロットがアリーチェに指示を出し、アリーチェが死角を潰し、エトーレの聴覚に頼りながらガンルームを目指す。
エトーレは相当訓練された軍用犬らしく巨大な砲声が響いても動じることなく、アリーチェに脅威を探知すれば知らせていた。
「前方に屍食鬼です。数は少なくて6体。そ、その、やりますか?」
「やりましょう。死者たちに安息を」
どうやら反乱軍は飛行艇の中にも屍食鬼を動員したようだ。恐らくはレヴァンドフスカ少将が指揮する空中艦隊における正規の帝国空軍将兵全員が反乱に賛同したわけではないのだろう。
「武装はあまりしていないようです。一気に倒しましょう」
アレステアがそう言って飛行艇の中にいる屍食鬼を襲撃。屍食鬼は魔道式拳銃で武装している程度でしかなく、アレステアは一瞬で制圧を完了した。
「ガンルームへ急ぎましょう! 化学兵器を──」
アレステアがそう呼びかけようとしたとき艦内が激しく揺れる。
「不味い。友軍の砲撃が命中しちゃってるよ」
「このままだとこのフリードリヒ・デア・グロッセごとエージェント-37Aが地上に落ちて、フリードリヒ・デア・グロッセの爆発とともの撒き散らされます」
化学兵器による攻撃を阻止するのに空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセを撃墜すればやはりエージェント-37Aの拡散を招く。
エージェント-37Aは以前リッカルディ元帥が指摘したように除染が難しく、その上皮膚から摂取される厄介な神経ガスだ。どこに落ちようとも帝国は被害を受ける。
「友軍の空中艦隊はあくまで足止めですよね?」
「今はね。エージェント-37Aを始末したら本格的に撃墜にかかるはずだよ」
「では、急ぎましょう!」
シャーロットの言葉を受けてアレステアが再び空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの中を進んで行く。
『こちら艦長! 全乗り組み員に警告する! 本艦に侵入した敵部隊を確認した! 破壊工作の恐れあり! 警戒せよ!』
「警告が出てしまいましたね……」
空中戦艦フリードリヒ・デア・グロッセの艦内のスピーカーからアレステアたちの侵入に警告するように反乱軍から警告が出た。
「とにかく急ぎましょう。エージェント-37Aさえ無力化すれば問題はありません」
「はい!」
アレステアたちは帝国国防情報総局の工作員との合流を目指し、ガンルームへ。
「そこだけど絶賛戦闘中だね」
「見つかってしまいましたか」
ガンルームはバリケードが構築され、そこに反乱軍部隊が押し寄せていた。抵抗しているのは帝国国防情報総局の工作員で間違いない。
「助けましょう!」
「ええ。やりましょう」
アレステアたちが帝国国防情報総局の工作員救出に動く。
「敵だ! あいつらが侵入者だぞ!」
「裏切者どもを全て殺せ!」
ガンルームに押し寄せている反乱軍部隊は帝国空軍の正規兵と屍食鬼の組み合わせだ。正規兵が指示を出し、屍食鬼がそれに従っている。
つまり──。
「狙いは将校」
アリーチェが再び正確な狙撃で反乱軍の将校の頭を弾き飛ばした。それによって屍食鬼たちの動きに混乱が生じる。
「一気に叩きます!」
「どんどんいくよー! ここまで来たら大乱戦だ!」
そして、混乱した屍食鬼を含む反乱軍部隊にアレステアたちが攻撃を実行。
飛行艇内で激しい戦闘が生じ、悲鳴と怒号と銃声が響く。
「よし。一先ずは撃破、です」
アレステアが撃退された反乱軍部隊を見て呟いた。
「さあ、帝国国防情報総局の工作員の方と合流です!」
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