28 カルヴィン
「……何だったんだ、今のは」
光が消えた跡を見つめてカルヴィンはつぶやいた。
「殿下」
アリスターが現れた。
「どうなさいました」
「今、人間の少女が……魔物を魔法で癒やしていた」
「は?」
カルヴィンの言葉にアリスターは眉をひそめた。
「人間? 彼らが言っていた人間でしょうか」
「――ああ、そうかもしれない。黒髪だったからな」
孤島にある魔王城と思われた城に入ったのはいいけれど、転移の罠にかかり飛ばされたあと。
勇者たちと同行していた二人が言葉を交わせる程度には回復したと聞き、カルヴィンは彼らとの面会に行った。
勇者と聖女はその時のことについて頑なに口を閉ざしていたからだ。
二人から聞かされたのは、森の中で魔物の味方をする人間たちがいて彼らに襲われたのだという、思いもよらない話だった。
人間は男女二人。黒髪の少女と銀髪の青年だったという。
聞いた話を勇者たちに確認しても知らないの一点張りだったので、カルヴィンたちは彼らが襲われたという場所へやってきた。
そこには何の痕跡もなかったが、周囲を捜索していると少女が小さな魔物に魔法をかけているのを見たのだ。
グッタリとしていた魔物は光を浴びるとすぐ起き上がり、少女の足元にいた別の魔物へと飛びついていった。
(まさか、魔物に治癒魔法を使ったのか?)
魔物に治癒魔法は効かないはずだ。
カルヴィンに気づいた少女が逃げ出したので慌ててそのあとを追ったが、手が触れそうになった瞬間少女は光に包まれ、その姿を消してしまったのだ。
「しかし魔物を癒やすなど……その者は本当に人間だったのでしょうか」
アリスターが尋ねた。
「人型の魔物という可能性は?」
「確かに黒目の、可愛らしい少女だった」
「……可愛らしい?」
「何だ」
目を見張ったアリスターにカルヴィンは眉をひそめた。
「いえ……殿下がそのように女性を表現するとは思わなかったので」
カルヴィンは第二王子という立場ながら、魔法以外のものへの興味が疎く、それは女性に対しても同じだった。
聖女との婚約話が出たのも、聖女を王家側に取り込みたいという思惑の他に、特別な魔法を使う聖女ならばカルヴィンも興味をいだくだろうという思惑もあったからだ。
だが聖女がカルヴィンを拒否したというのもあるけれど、カルヴィン自身も聖女にはその魔力以外、興味がないようだった。
「……見たままを言っただけだ」
「そうですか。ところで、これは可能性なのですが」
心なしか顔を赤くしたカルヴィンを意外に思いながらアリスターは答えた。
「その少女、聖女と同じ世界から来た人間かもしれません」
「同じ世界? どういう意味だ」
「教会は公表していませんが、聖女召喚で呼び出されたのは二人の少女だったんです」
「何だと?」
「聖女の杖が反応したリン殿が聖女となりましたが、もう一人は魔力もなかったため教会の食堂で働いていました。けれど魔物討伐に同行して行方不明になったままだとか」
「――それは随分と酷い話ではないか?」
カルヴィンは不快そうに眉をひそめた。
「異世界から召喚した者を食堂で働かせていた上に魔物討伐に同行させただと? そんなことをしていたのか」
「だから教会も公表していないのでしょう。明らかになれば非難を受けますからね」
「全く。つくづくロクでもない所だな」
ため息をつくとカルヴィンは首を捻った。
「だが、今の少女は確かに魔法を使っていたぞ」
「聖女のいた世界には魔法はないそうですから。この世界に来たばかりの時は魔法が使えないのも当然かと」
アリスターは答えた。
「聖女もこの世界に来て訓練をして、魔法を使えるようになりましたからね」
「では今の少女も異世界から来た者だと?」
「そう考えれば聖女がここで起きたことに頑なに口を閉ざす理由もわかります。それに、異世界人ですから我々とは異なる魔法を使える可能性もあるかと」
「――そうか。あの少女の行方も探したいな」
ヒナノの消えた跡を見つめてカルヴィンは言った。
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